「また使えない新人を採ってしまった」と、採用担当者に愚痴をこぼしたことはありませんか。面接では受け答えもよく、学歴も悪くなかった。なのに現場に出すと途端に動けなくなる。逆に、書類選考で迷ったような経歴の人間が、入社後に頭角を現してチームの中心になる。そのたびに「人を見る目がない」と自分を責めてきた管理職は、決して少なくないはずです。
その悩みの根っこは、あなたの目利き力の問題ではないかもしれません。「学歴」「IT経験年数」「前職の業種」――こうした指標を採用の軸にする限り、見えてこない能力があります。それはスラムダンクの桜木花道が持っていたような、磨けば光る潜在的な素養です。ITの知識などゼロでも、ソフトウェアのテスト業務で抜群の成果を出せる人間が、宮大工やパティシエの中に確実に存在する。そのことを数字で証明した企業が、上場から10年で売上高60倍を達成したSHIFTです。
飯山辰之介著『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』は、この「素養採用」の核心に迫ったビジネス・ルポルタージュです。中でも本書が詳述するCAT検定は、従来の採用基準を根本から覆す仕組みとして、多くの経営者・管理職に衝撃を与えています。今回はこの検定が何を測り、なぜ合格率6%という狭き門でなければならないのかを、あなたの部下育成と採用眼の刷新につながる視点でお伝えします。
「何を測るか」で、採用の質はまったく変わる
管理職になって初めて気づくことがあります。「優秀な人を採りたい」と思いながらも、「優秀さ」を何で測ればいいのか、実は誰も教えてくれていないということです。
学歴は、過去の努力量を示すひとつの指標にすぎません。IT業界での職歴は、その人が慣れ親しんだ環境を示すにすぎない。SHIFTが気づいたのは、ソフトウェアテストという仕事が本質的に必要とするのは「ITの知識」ではなく、「網羅的なパターン認識能力」だということでした。
バグを見つける仕事は、ものごとを漏れなく確認し、細かな異常を見逃さない認知能力が問われます。この能力は、元警察官が職質で身につけたものかもしれないし、パティシエが繊細な味の違いを識別する中で育てたものかもしれない。業種は違えど、同じ素養が異なる場所で磨かれていた――そう考えれば、「IT未経験者お断り」という採用基準がいかに多くの優秀な人材を門前払いにしてきたかが分かります。
CAT検定とは何か、なぜ合格率6%なのか
SHIFTが独自に開発したCAT検定(Critical Ability Test)は、ITの知識を問う試験ではありません。業務に必要な潜在的素養を純粋に抽出するために設計された検定です。
合格率はわずか6%。この数字を聞くと、難関資格のような印象を受けますが、意味合いはまったく異なります。学歴や職歴で足切りをしない代わりに、この検定が「本当に向いている人かどうか」を選別するフィルターとして機能しています。元キャバクラ嬢も、スーパーの元店長も、同じ土俵で受験します。そして、この6%の中に入った人だけが採用候補になる。
なぜこれほど絞り込む必要があるのでしょうか。それは「育てれば誰でも使えるようになる」という幻想から経営を守るためです。向いていない人をどれだけ教育しても、コストが膨らむだけで本人も組織も不幸になります。逆に素養がある人なら、ITの知識はあとから必ず追いつける。この割り切りが、SHIFTの採用の根底にあります。
「バイアスを排除する」とはどういうことか
採用面接でよくある光景を想像してください。有名大学出身の候補者には、無意識に高い評価をつけてしまう。答えに詰まる場面でも「頭の回転は速そうだし」とフォローしたくなる。一方で、学歴が平凡な候補者の鋭い発言は、「まあ、たまたまだろう」と流してしまう。
これがアンカリングバイアスです。最初に見た情報が基準点となり、その後の判断を歪める。管理職として長年、面接に関わってきた人ほど、このバイアスが深く刷り込まれています。
CAT検定の設計思想は、このバイアスを「構造として排除する」点に革新性があります。受験の段階では学歴も職歴も参照しない。数値化された素養スコアだけが、採用の可否を左右する。感覚的な「なんとなく優秀そう」が入り込む余地を、仕組みとして潰しているのです。
あなたが部下の能力を評価するとき、同じことが起きていないでしょうか。入社時の第一印象や、最初の失敗の記憶が、その後の評価に尾を引いていることはないでしょうか。
桜木花道をどうやって見つけるか
本書では、SHIFTが採用する未経験者を「桜木花道」と表現しています。スラムダンクの主人公は、バスケの経験がゼロの状態から、インターハイの舞台でチームを救う存在へと成長しました。素養がある人間は、正しい環境と機会さえ与えられれば、経験者を超える。そのことをSHIFTは自社の事業で証明し続けています。
管理職の仕事も、本来はこれと同じはずです。部下の現在のスキルレベルだけを見て「使えない」と判断するのか、その人の持つ素養と伸びしろを見抜いて正しい場所に配置するのか。その差が、チーム全体のパフォーマンスを大きく左右します。
SHIFTのCAT検定が示すヒントは、「何を伸ばせるか」ではなく「何が最初から備わっているか」を先に見極めることです。英語力は後から身につきますが、論理的思考のクセや、細部への注意力は、意外なほど変わらない。だとすれば、採用や人員配置の段階で、その「変わらない部分」を正確に把握することが、管理職にとって最も重要な仕事のひとつといえます。
部下との信頼は「見抜かれている」実感から生まれる
「この上司は自分のことを分かってくれている」と部下が感じる瞬間はいつでしょうか。それは、評価された瞬間ではなく、「見ていてくれた」と気づいた瞬間ではないでしょうか。
SHIFTが450項目以上のデータで社員を把握しようとするのも、突き詰めれば同じ理由です。データは感情移入の代替ではなく、「ちゃんと見ている」という事実の積み上げです。数字が増えるほど、その人への理解が深まる。理解が深まるほど、適切な配置と声がけができる。それが信頼関係を構築する現実的な道です。
あなたが今のチームの中で、誰が「桜木花道」に相当するかを考えてみてください。学歴でも経験年数でもなく、この仕事に必要な素養――細かい矛盾を拾い上げる認知力、論理の穴を見つける集中力――を持っているのは誰か。その問いを持てるかどうかが、管理職としての次のステップを左右します。
人を見る目は、見る軸を変えることで磨かれます。『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』は、その軸の組み直しを迫る一冊です。採用や人材評価に携わるすべての管理職に、ぜひ手に取ってほしいと思います。

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