「また今夜も眠れなかった」「睡眠時間が足りていない」──そんな不安を抱えながら日々を過ごしていませんか。睡眠不足は脳に悪い、認知症のリスクが高まる、そんな情報に追い詰められている方も多いでしょう。しかし、脳神経外科医・医学博士である東島威史氏の『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』は、そうした睡眠神話に真っ向から
異議を唱えます。本書が明かすのは、脳は実は24時間365日働き続ける「不夜」の臓器であり、睡眠だけが脳の休息ではないという衝撃的な事実です。
脳は眠っても完全には休まない
私たちは「眠れば脳は休まる」と信じてきました。しかし本書が最初に突きつける事実は、脳にはオフの状態が存在しないということです。深い眠りについている間も、脳は記憶の整理や細胞のメンテナンス、老廃物の排出といった重要なタスクを休むことなく遂行しています。
実際、深いノンレム睡眠時にも脳波は完全には沈静化しません。レム睡眠に至っては、覚醒時と変わらない脳波を示すため「逆説睡眠」とも呼ばれます。つまり脳は、寝ているけど寝ていないみたいな状態で活動を続けているのです。
24時間営業のコンビニが閉店せずとも清掃や棚の補充ができるように、人間の脳も「店を閉める」ことなく機能維持とゴミ掃除が可能です。この「不夜脳」という視点こそが、本書の出発点となっています。
起きている間にも脳の老廃物は排出できる
従来、脳の老廃物除去といえば睡眠中のグリンファティック・システムの働きが有名でした。しかし東島氏は臨床と研究の中で、睡眠中だけでなく覚醒時にも効率よく脳内老廃物を排出できる方法があることを見出しました。
脳にはリンパ系に相当する排出システムがあり、眠っていなくても脳内のゴミを掃除することが可能です。著者は「脳の老廃物除去に必ずしも睡眠は必要ない」と断言し、起きているときでも脳のクリーンアップを図れる化学的な休息法を医学的エビデンスに基づき解説しています。
この発見は、睡眠不足に悩む多くの人にとって福音です。長時間眠れなくても、適切な方法で脳をケアすれば機能を維持できるのです。
睡眠不足を気にしすぎる病
本書は決して「睡眠は不要」と言っているわけではありません。体のメンテナンスには睡眠が重要であることは認めています。しかし現代人に広まる「最適な睡眠時間は7時間」「短時間睡眠は認知症のリスク」といった思い込みには警鐘を鳴らします。
東島氏によれば、睡眠時間が短いこと自体を過度に心配する「気にしすぎ病」が蔓延しているとのこと。実際、日本人の平均睡眠時間は6時間18分と短い一方、理想は7時間50分と大きなギャップがあります。この理想と現実の差が「自分は不健康かも」という不安につながり、かえってストレスになっているのです。
睡眠時間の理想と現実のギャップが少ない国の人ほど、健康状態が良いと答える傾向にあることも研究で示されています。つまり眠れないことへの不安そのものが、健康を損なう要因になっている可能性があるのです。
眠れないのは脳からのサイン
著者は不眠を訴える患者に、こう説明するそうです。「眠れないという人は、実は『眠くない』ということ。脳と体が『寝なくても大丈夫』と言っているサインだと受け止めてほしい」
日中に支障がないのに「○時間寝なければ」と理想を高く設定しすぎると、眠れないこと自体がストレスになります。昼間に支障がないなら睡眠不足をそれほど問題視しなくてよい──この言葉は、睡眠に悩む多くの人を解放するでしょう。
また本書は、睡眠薬の長期連用がかえって脳の老廃物洗い流しを妨げるという報告にも触れています。日中フラフラしたり、筋弛緩作用で転倒したり、長期連日服用では認知症のリスクになったり、身体依存になったりするリスクもあります。不必要な薬に頼ることの危険性を、医師として率直に指摘しているのです。
睡眠神話からの解放
「睡眠不足は認知症リスクを高める」──そんな通説を一刀両断するのが本書の真骨頂です。脳神経外科医という立場から、睡眠だけが脳の健康を左右するわけではないことを、科学的根拠とともに示してくれます。
脳をいつまでも若々しく保つために、睡眠以上に必要なものとは何か。それは次のポイントで明らかになりますが、まず知っておくべきは「眠れないこと」以外の問題点が見つからない限りは、まず「気にしすぎ病」であることを認識することです。
東島氏の言葉は、睡眠に縛られすぎた現代人に新しい視点を与えてくれます。脳は24時間働き続ける「不夜脳」だからこそ、睡眠以外の方法でも十分にケアできるのです。
不安から安心へ
本書が画期的なのは、睡眠不足という「できないこと」に焦点を当てるのではなく、起きている間に「できること」を示してくれる点です。眠れない夜を恐れる必要はありません。脳は思っているよりずっと柔軟で、適切な刺激とケアがあれば健康を維持できるのです。
多くのビジネスパーソンが睡眠不足に悩んでいます。しかし本書を読めば、その不安の多くは思い込みに過ぎないことがわかるでしょう。大切なのは睡眠時間の長さではなく、脳が本当に求めているものを理解し、日々の生活の中で実践することなのです。
『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』は、睡眠神話に縛られた私たちを解放し、脳の真実を教えてくれる一冊です。眠れない夜に不安を感じているあなたにこそ、ぜひ手に取ってほしい本です。

コメント