毎日が忙しすぎて、心が休まる時間がない。あなたはそんな風に感じていませんか?通勤電車に揺られ、会議に追われ、家に帰れば家事や育児。気づけば一日が終わっている。本当に大切なものを見失っているのではないか、そんなモヤモヤを抱えているあなたに、一冊の本が静かに語りかけてきます。小川糸さんの『いとしきもの 森、山小屋、暮らしの道具』です。この本は、著者が長野の森に山小屋を建てて始めた暮らしを綴ったフォトエッセイ集。何気ない日々の中に宝物を見つける生き方が、あなたの心にも変化をもたらしてくれるはずです。
丁寧に暮らすとは何か
森の山小屋での生活は、決して華やかではありません。著者は乾物を蓄えて簡素な料理を作り、季節ごとの庭仕事を楽しみ、薪ストーブの火や星空の輝きに心を癒されています。派手さはないけれど、毎日が宝物のように感じられる暮らしがそこにはあります。
私たちは「豊かな生活」と聞くと、つい物質的な豊かさを想像しがちです。しかし小川さんが森で手に入れたのは、そういった豊かさとは全く違うものでした。朝、目覚めて窓から差し込む光を感じる。お気に入りの急須でお茶を淹れる。庭の土に触れながら季節の移ろいを肌で感じる。そんな一つひとつの営みに心を込める丁寧な暮らしからは、現代人が忘れがちな喜びがたくさん湧き出してきます。
小川さんは本書の中で、こう語っています。「心豊かな人生を送るためには、やりたいことや欲しいものを先送りせず、なるべく長くそれらと人生を共にすることが幸福に繋がる」。忙しさに流されて先延ばしにしていたこと、本当は大切にしたかったこと。そういったものを見つめ直す時間が、今のあなたには必要なのかもしれません。
小さな幸せを見つける力
本書の魅力は、何気ない日常の中に見出す小さな幸せが美しく描かれている点にあります。例えば、冬の夜に使う「チェリーピロー」という湯たんぽ代わりの温もりひとつをとっても、それがあるだけで幸せそうな様子が伝わってきます。
愛犬のゆりねと過ごす何気ない毎日からも、穏やかな幸福感が漂ってきます。「庭の土とおしゃべり」といった章題が示すように、畑の土に触れることさえ対話のように楽しんでしまう。そんな著者の姿勢は、読む人にもスローライフの豊かさを感じさせるでしょう。
都会で暮らしていると、どうしても効率や生産性を求めてしまいます。時間をかけることが無駄に思えたり、立ち止まることが遅れを取ることに感じられたりします。しかし小川さんの暮らしを読んでいると、ゆっくりと時間をかけることの価値に気づかされます。急がず、焦らず、目の前のことに丁寧に向き合う。そこから生まれる充実感は、どんな成果よりも心を満たしてくれるのです。
道具への愛着が教えてくれること
特筆すべきは、著者がお気に入りの暮らしの道具や手仕事品を愛おしむ描写です。急須、お箸、ホウキ、バスチェア、鍋やストーブに至るまで、どれも妥協なく選び抜かれ、長く使われています。
例えば「このカレー粉でなきゃ!」という章では、とっておきのスパイスミックスへの愛が語られます。また「謎の職人Wのお風呂椅子」では、職人手作りの風呂椅子との出会いの喜びがユーモラスに綴られています。こうした物へのこだわりを知ると、私たちの身の回りの道具も見方が変わってくるかもしれません。
現代社会では、物があふれています。安くて便利なものがいくらでも手に入ります。しかし、そういった物に囲まれていても、なぜか心が満たされない。それは、物との関係が希薄だからかもしれません。小川さんのように、一つひとつの道具を選び抜き、大切に使い続ける。そこには物語が生まれ、愛着が育ちます。
ある読者は本書に登場したほうじ茶が気になって注文したと述べています。それほどまでに生活のディテールが魅力的に描かれているということです。お気に入りの急須で淹れたお茶を一杯飲む。それだけで幸せを噛みしめるようなエピソードが、本書にはたくさん詰まっています。
何でもない日常の価値
私たちは「特別なこと」を求めすぎているのかもしれません。週末のレジャー、年に一度の旅行、昇進や収入アップ。そういった大きな出来事に幸せを見出そうとしてしまいます。しかし小川さんが森で見つけたのは、何でもない日常の中にある幸せでした。
朝起きて、顔を洗い、朝食を作る。庭に出て植物の様子を見る。薪を割り、火をおこす。夜には星空を眺める。そんな繰り返しの中にこそ、人生の豊かさがあるのだと本書は教えてくれます。
都会で暮らしていても、この考え方は取り入れられます。通勤途中の空を見上げてみる。お気に入りのカップでコーヒーを淹れる時間を大切にする。家族との何気ない会話を味わう。ほんの少し意識を変えるだけで、日常は輝き始めます。
管理職として忙しい日々を送っているあなたも、ふと立ち止まってみてください。今日一日、何か心に残ったことはありませんでしたか?窓から見えた雲の形、部下がかけてくれた言葉、帰り道で聞こえた鳥の声。そういった小さなことに気づく余裕を持つだけで、人生は変わっていきます。
自分なりのルールを持つ喜び
小川さんの暮らしには、自分なりのルールがあります。必要なものと必要じゃないものをしっかり見極める。本当に気に入ったものだけを手元に置く。季節の移ろいに合わせて暮らしのリズムを変える。そういった丁寧な選択の積み重ねが、心地よい暮らしを作り出しています。
これはビジネスの世界でも同じではないでしょうか。他人の価値観に流されず、自分の軸を持つ。本当に大切なことに時間を使い、そうでないことは手放す勇気を持つ。そんな生き方が、今の時代にはますます必要になっています。
小川さんは、森暮らしが5年目を迎えた今、「ひとりの自由と責任をどのように感じていますか」という質問に対して、自分で決めて自分で責任を持つ生き方を選んだと語っています。これは、管理職として部下を導く立場にあるあなたにも通じるメッセージです。自分の人生は自分で決める。その覚悟と勇気が、豊かな人生への第一歩となるのです。
今この瞬間を生きる
本書を読んで一番心に響くのは、今この瞬間を大切に生きる姿勢です。小川さんは5年前、コロナ禍での離別を経験し、生き方に苦悩していた折に美しい長野の森と運命的に出会いました。40代後半で初めて運転免許を取得し、石だらけの土地に山小屋を建てる。そんな大きな決断ができたのは、「人生は意外とあっという間だ」と気づいたからです。
著者は本書の冒頭で、こう語っています。「自分の人生は、もういつ終わっても後悔することはないだろう」。この力強い言葉は、私たちにも問いかけてきます。あなたは今、後悔のない生き方をしていますか?
明日があると思って先延ばしにしていること、本当はやりたいけれど諦めていること。そういったものに、もう一度向き合ってみる時かもしれません。森で暮らす決意をした小川さんのように、年齢や固定観念にとらわれず新しい一歩を踏み出す勇気を持ってみませんか。
『いとしきもの』は、単なる田舎暮らしの紹介本ではありません。何でもない日常を丁寧に楽しむことで、こんなにも心が満たされるのだという気づきを与えてくれる一冊です。忙しい毎日に疲れたあなたの心を、そっと癒してくれるはずです。ページを開けば、あなたも森の静けさの中に包まれたような、穏やかな時間を過ごせるでしょう。

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