学校に居場所がない、友達がいない、未来が見えない。そんな悩みを抱えていませんか。コロナ禍で学校行事が次々と中止になり、青春の大切な時間が奪われた経験をお持ちの方も多いでしょう。大人になった今でも、あの頃の喪失感が心のどこかに残っているかもしれません。
辻村深月の『この夏の星を見る<下>』は、そんな現代を生きる私たちに、人と人とのつながりが持つ力を静かに、しかし力強く語りかけてくれる物語です。登場する少年少女たちの心を突き動かして、大人の読者たちの胸にも届く、まさに「必読」の一冊といえるでしょう。
弱い紐がもたらす奇跡
物語の核心には、アメリカの社会学者マーク・グラノヴェターが1973年に発表した「弱い紐の強さ」という概念があります。これは転職活動をする際、家族や親友といった「強い紐」よりも、知り合い程度の「弱い紐」からもらった情報の方が役に立つという調査結果から生まれた理論です。
「自分」の趣味や関心や性格をよく知る人よりも、あまりよく知らない人の方が、「自分」のキャラに合っているか当人が欲しているものか否かのフィルターをかけずに新しい情報を投げかけてくれるのです。そして、このようなゆるやかなつながりによって新しい出会いがもたらされ、人生が変わっていく可能性が広がります。
本作に登場する少年少女たちも、互いに面識のない三人の現在と心情が明かされていきます。茨城県立筑波浦第三高校二年生の亜紗は、大好きな天文部での活動や友人と普通に会って話しできるようになるためにも、「早く、学校、いつも通りになるといい」と願っていました。
繋がりのアングルから見える世界
辻村深月の物語はミステリーと呼ばれるタイプのものではないものの、人と人との繋がり方に関して驚かされる瞬間が幾度となく訪れます。まだ刊行されていない以上何を書いてもネタバレになってしまうのでしょうが、ここからは少し踏み込んで記します。
本作が採用した群像劇および人間ドラマの感触は、そのような要点で物語を見られるようなアングルから構成されており、その結果として全員のことが好きになってしまうのです。作者も後半にかけての伏線回収に心が震えっぱなしで、下巻は特にほぼ泣きながら読んでいたとのことです。
物語の中で「祝念」という言葉にまつわるやり取りが出てきますが、この小説はまさに一人の作家の大きな「祝念」にあふれているといえるでしょう。
自分探しの先にある本当の価値
自分探しを続けながら、自分たちのやることを模索する登場人物たち。そして巡り合うのは、自作の最遠点で指定された星を探す「スターキャッチコンテスト」という名のかけがえのない夏の大会と、その先のもう一つのイベントです。
本書が問いかけるのは、「この夏の星を見る」という物語が生まれたからこそ得られる問いの答えです。徹底して肯定的に書かれた辻村さんの強い想いに触れるたびに感情が込み上げてきます。悪いことばかりだったとは思ってほしくない――そのあとに続く文章にも、作品は辻村さんのそんな想いに、祝念に触れられた気がして、うれしくなりました。
コロナ禍が生んだ感情と思弁
コロナ禍によって、私たちは多くのものを失いました。本作の舞台となった2020年5月から6月は、小中高は全国一斉休校の措置が取られた時期です。学校が徐々に再開されるようになった五月、お互いに面識のない三人の現在と心情が明かされていきます。
極めて特殊な通学事情により、「学校、どうして、再開したりするんだよ」と呟いていた長崎県立泉水高校に通う三年生の佐々野 冬磨 まどか。家業である旅館を巡って親友から投げかけられた言葉に傷ついていた、あの頃の十代の子供たちはこんなにも心細く震えていました。
本作はそんな彼ら彼女らの感情や思弁を刻印する、記録文学としての側面もあるといえるでしょう。
弱い紐が生み出す新しい出会い
「自分」の趣味や関心や性格をよく知る人よりも、あまりよく知らない人の方が、「自分」のキャラに合っているか当人が欲しているものか否かのフィルターをかけずに新しい情報を投げかけてくれる。その結果、新しい出会いがもたらされることとなります。
2012年、MITの研究チームが手がけた大規模調査によると、人間関係のすべてがここにあることが明らかになりました。本書を通じて、読者は人と人とのつながりの美しさ、そして弱い紐が持つ可能性の大きさを実感することでしょう。
物語から受け取る勇気
辻村深月が描く青春小説の新たな金字塔が、ここに完成しました。コロナ禍という未曾有の事態が生んだ感情や思弁を刻印し、それでもなお前を向いて歩む少年少女たちの姿は、きっとあなたの心にも響くはずです。
失ったものばかりを数えるのではなく、それでも残されたもの、そして新しく生まれるつながりに目を向ける。「弱い紐の強さ」という社会学の概念を軸に、人間の感情のすべてがここにある物語を、ぜひ手に取ってみてください。

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