部下の給料を上げられない上司は不要〜飯山辰之助『SHIFT解剖』が教えてくれる中間管理職の新常識

あなたは部下の評価に自信を持てていますか。昇進してマネジメントを任されるようになったものの、部下からの信頼を得られているのか不安を感じる。評価面談で何を伝えればいいのか分からず、結局当たり障りのない言葉でお茶を濁してしまう。そんな悩みを抱えている中間管理職の方は少なくないでしょう。

もし、あなたが今よりも部下から信頼される上司になりたいと思っているなら、一冊の本が大きなヒントを与えてくれます。日経ビジネス副編集長の飯山辰之助氏が著した『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』です。本書は、IT企業SHIFTの驚異的な成長を支える人材戦略を徹底解剖したビジネス書ですが、その中核にあるメッセージは私たち中間管理職にとって、まさに目から鱗が落ちる内容なのです。

今回は本書の中でも特に印象的な「給与アップを先行投資と捉える経営哲学」という考え方を中心に、部下との信頼関係を築き、チーム全体の成果を上げるためのヒントをお伝えします。

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部下の給料を上げることが上司の仕事である

本書の冒頭で、SHIFT創業社長の丹下大氏が語る言葉が強烈に胸に刺さります。それは「部下の給料を上げられない上司は不要である」という一言です。

多くの企業では、人件費は削減すべきコストとして扱われがちです。上司である私たちも、限られた予算の中で評価をつけ、昇給額を決めるという受け身の姿勢になっていないでしょうか。しかしSHIFTでは、給与を単なるコストではなく、企業の成長を生み出す「投資」として明確に位置づけているのです。

この考え方の違いは、マネジメントのあり方を根本から変えます。部下の給料を上げることが自分の仕事だと捉えれば、部下の成長を支援し、成果を出せる環境を整えることが上司の最優先事項になります。評価面談も、ただ評価を伝える場ではなく、部下の市場価値を高めるための戦略会議に変わるのです。

SHIFTの役員陣は、年間1200時間という膨大な時間を人事評価会議に費やしています。社員一人ひとりの現在の市場価値を見極め、翌年の年収を真剣に議論する。この異常とも言える投資思考の結果、同社の平均年収は2017年の520万円から2024年には670万円へと、約150万円も上昇しました。

あなたは部下の給料を上げるために、どれだけの時間を使っているでしょうか。

透明性が信頼を生む理由

部下から信頼される上司になるために必要なのは、カリスマ性でも話術でもありません。本書が教えてくれるのは、評価の透明性こそが信頼の土台であるという事実です。

SHIFTが実践する人材マネジメントの最大の特徴は、ブラックボックスの徹底的な排除にあります。採用、評価、育成、配属といった、通常は上司の勘や経験に依存しがちな領域を、客観的なデータに基づいて運用しているのです。

具体的には、450項目以上のデータを蓄積する「ヒトログ」というシステムを構築し、社員の保有スキルや成長志向だけでなく、社内カフェでの購入履歴やアンケートの回答時間まで数値化しています。一見すると監視のように聞こえるかもしれませんが、この徹底したデータ化には大きな意味があります。

それは、評価が上司の好き嫌いや社内政治に左右されないという安心感を部下に与えることです。多くの職場で部下が抱える最大の不満は「自分の働きが正しく評価されていない」という感覚でしょう。この不満の根源にあるのは、評価基準の不透明さなのです。

中間管理職である私たちが明日から実践できることは、評価基準を明確に言語化し、部下と共有することです。何ができれば昇格するのか、どんな成果を出せば給与が上がるのか。これを具体的に示すだけで、部下の不安は大きく軽減されます。

データで見せる部下の価値

本書を読んで最も実践的だと感じたのは、部下の価値を「投資対効果」で考えるという視点です。

SHIFTでは、社員一人ひとりを投資先として捉え、その人材にいくら投資すればどれだけのリターンが得られるかを数値で判断しています。これは経営者だけの話ではなく、私たち中間管理職が部下を評価する際にも応用できる考え方なのです。

例えば、あなたの部下が昇給を求めてきたとします。多くの上司は「今年の予算は厳しい」と断るか、感情論で「頑張っているから少し上げよう」と判断するでしょう。しかし本書が示す投資の視点では、全く異なるアプローチを取ります。

その部下が持つスキルや経験と同等の人材を外部から採用した場合、採用コスト、教育コスト、ミスによる損失をトータルすると、いくらかかるのか。これを具体的に計算すれば、部下の市場価値が見えてきます。もしその部下への投資額が市場価値を大きく下回っているなら、昇給させることは合理的な経営判断になります。

この考え方は、上司であるあなた自身の説得材料にもなります。上層部に部下の昇給を提案する際、感情ではなくデータで語ることができれば、承認される確率は格段に上がるのです。

伸びしろを見抜く目を持つ

SHIFTのもう一つの特徴は、完成された即戦力人材ではなく、潜在能力の高い人材を見極めて育成する点にあります。

同社は元パティシエ、宮大工、警察官、引きこもりなど、IT業界とは無縁の多様な人材を採用しています。一般的な企業なら履歴書の段階で落とされるような経歴でも、SHIFTは独自の適性検査「CAT検定」で地頭や論理的思考力を測定し、ポテンシャルだけで採用を決めるのです。

この手法は「1%の天才よりも、99%の普通の人々の能力をいかに発揮させるか」という丹下社長の理念を体現しています。つまり、スーパースターを探すのではなく、普通の人たちが最大限の力を発揮できる仕組みを作ることが、組織の成長につながるという考え方です。

あなたのチームにも、一見すると目立たないけれど、適切な環境を与えれば大きく成長する部下がいるはずです。本書が教えてくれるのは、その伸びしろを見抜く目を持つことの重要性なのです。

具体的には、部下の現在のスキルや成果だけで判断するのではなく、学習意欲や思考の柔軟性といった「伸びる素質」に注目すること。そして、その素質を最大限に引き出せる業務を割り当てることです。完璧な即戦力を求めるより、育てがいのある人材に投資する方が、長期的には大きなリターンを生むかもしれません。

適材適所は設計するもの

多くの上司が陥りがちな誤解があります。それは、適材適所とは偶然の組み合わせであり、運が良ければたまたま実現するものだという考え方です。

しかし本書が描くSHIFTの実践を見ると、適材適所とは緻密に設計されるものだということが分かります。450項目ものデータを駆使し、個人の能力や志向性を細かく分析した上で、最適な配置を行っているのです。

これは中間管理職の立場でも応用できます。部下の業務を細かく棚卸しし、どの部分が得意でどの部分が苦手なのかを可視化する。そして、得意な領域でより大きな成果を出せるよう、業務の配分を調整していくのです。

SHIFTでは、社員が自分の強みを発揮できるポジションに就くことで、モチベーションと生産性が劇的に向上しています。これは単なる理想論ではなく、データに基づいた科学的なアプローチの結果なのです。

あなたは部下一人ひとりの強みと弱みを、本当に理解しているでしょうか。週に一度、30分でもいいので部下と1対1で話す時間を作り、現在の業務について率直に意見を聞いてみましょう。そこから得られる情報が、適材適所を設計する第一歩になります。

評価会議に時間を使う覚悟

本書を読んで最も衝撃を受けたのは、SHIFTの役員陣が年間1200時間という途方もない時間を評価会議に費やしているという事実です。

一人あたりの評価に何時間もかけ、その人の市場価値を徹底的に議論する。多くの企業では、評価は年に一度の形式的なイベントに過ぎませんが、SHIFTでは投資先を決める最重要事項として位置づけられています。

これほどの時間を投資できる企業は稀でしょう。しかし私たち中間管理職も、部下の評価にもっと時間を使うべきではないでしょうか。評価シートに数値を書き込むだけで終わらせず、一人ひとりの成長戦略を真剣に考える。そのために必要な時間を確保することが、部下からの信頼を得る第一歩なのです。

SHIFTの実践は極端に見えるかもしれません。しかし、その根底にあるのは「人への投資を最優先する」という明確な価値観です。この価値観を持つことで、日々の優先順位が変わり、マネジメントのあり方そのものが変わっていきます。

透明性と熱量の両立

本書が描くSHIFTには、一見矛盾するような二つの特徴があります。一つは徹底したデータ管理によるドライな評価システム。もう一つは、社内イベントや飲み会を重視するウェットな企業文化です。

多くの企業は、どちらか一方に偏りがちです。データ重視の企業は冷たく感じられ、人情重視の企業は評価が不透明になる。しかしSHIFTは、この両方を高いレベルで両立させているのです。

これは私たち中間管理職にとっても重要な示唆を含んでいます。公平な評価システムを整えることと、部下との人間的な関係を深めることは、決して相反するものではありません。むしろ、透明な評価があるからこそ、部下は安心して上司と深い関係を築けるのです。

評価基準を明確にした上で、部下との対話の時間を大切にする。データと感情、システムと人間関係。この両輪を回すことが、信頼される上司への道なのです。

今日からできる小さな一歩

本書を読み終えて、明日から何か一つでも実践したいと思ったなら、まずは部下との対話から始めてみてください。

「君が成長するために、私は何ができるだろうか」

この一言を投げかけるだけで、部下との関係は変わり始めます。そして、その対話の中で得られた情報を記録し、次の評価に活かしていく。これが、データに基づくマネジメントの第一歩なのです。

SHIFTのような大規模なシステムを導入することは難しいかもしれません。しかし、本書が伝える本質は「人への投資を最優先する」という価値観であり、これは今日からでも実践できます。

部下の給料を上げることを自分の仕事だと捉え、そのために何ができるかを考え続ける。評価を透明にし、成長の道筋を明確に示す。一人ひとりの伸びしろを信じ、適材適所を設計する。

これらの実践を積み重ねることで、あなたは部下から信頼される上司へと確実に近づいていくでしょう。そして、チーム全体の成果も自然と向上していくはずです。

『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』は、単なる企業成功事例の紹介ではありません。人を大切にすることが、最も合理的な経営判断であることを、データとともに証明した一冊です。中間管理職として部下との関係に悩むすべての方に、ぜひ手に取っていただきたい本です。

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NR書評猫1136 飯山辰之助 SHIFT解剖

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