「日本は観光立国だ」と思っていませんか?実は、その認識こそが日本の観光産業の成長を妨げている最大の要因かもしれません。デービッド・アトキンソン氏の『新・観光立国論』は、データと事実に基づいて日本の観光産業の現状を冷静に分析し、私たちの目を覚まさせてくれる一冊です。
著者は、文化財の裏付けを手掛ける創立300年の老舗企業の社長であり、元ゴールドマン・サックスのアナリストという異色の経歴を持ちます。その鋭い分析眼が、日本人が気づかない盲点を次々と明らかにしていきます。本書を読めば、観光産業に携わるすべての人に読んでもらいたいと思う内容であることがわかるでしょう。
日本は観光大国ではない―外国人観光客数の衝撃の真実
「日本は観光大国だ」という思い込みを、まずは捨てる必要があります。アトキンソン氏は、データを用いて日本の観光産業の立ち位置を明確にしています。
2014年に有名な旅行雑誌『トラベル+レジャー』で、人気観光都市ランキング世界1位になった京都。しかし、その観光客数は年間2000万人ほどしかいないと指摘しています。世界的に見れば、この数字は決して多いとは言えません。
実際、日本全体の外国人観光客数を見ても、その少なさは明白です。人口が日本の3分の1程度のタイや韓国と比較しても、観光客数は決して多くありません。日本は「かつて技術大国であったのでサービス業が軽んじられる」という歴史的背景があり、観光業を一大産業として育てる意識が希薄だったのです。
観光立国を目指すと言いながら、実際には観光を産業として真剣に育てようという考え方が浸透していない。これこそが日本の観光産業が抱える根本的な問題なのです。
GDP成長率と観光産業の切実な関係
アトキンソン氏が繰り返し述べるのは、少子高齢化が進む日本において、八方塞がりの中で1つだけ人口を増やす方法があるということです。それが短期移民である観光客なのです。
外国人観光客は2000万人で、GDP成長率は3%になるという試算があります。日本の経済成長にとって、観光産業の育成は単なる一つの選択肢ではなく、必須の戦略といえるでしょう。
しかし、少子化対策には時間がかかります。移民政策はこの国の現状では現実味に乏しいとされています。もちろん生産性の向上も人口を減らせる方法の一つですが、全方位が詰まりの中で1つだけ人口を増やす方法がある。それが短期移民である観光客だとアトキンソン氏は断言しています。
観光業を日本の一大産業にするという発想は、単なる理想論ではなく、日本経済の生き残りをかけた現実的な戦略なのです。
数字で正面から課題に切り込む著者の真っ当なスタンス
本書の最大の特徴は、耳の痛い指摘が満載だということです。しかし、それにもかかわらず読後感が爽快なのは、著者の真っ当なスタンスがあるからでしょう。
日本人には耳の痛い指摘ばかりですが、それはすべて数字・ファクト・ロジックで正面から課題に切り込もうという著者の真っ当なスタンスがあるからです。感情論や精神論ではなく、データに基づいた冷静な分析こそが、問題解決への第一歩となります。
アトキンソン氏は、日本の文化財は「見せて差し上げる」のではなく、「観る人が楽しめるように工夫する」ものでもないような気がすると指摘しています。「おもてなし文化」という考え方に通じるかもしれません。そのくせ文化財を譲るという発想に欠けていることも確かです。
でも本当は日本は観光大国になるためのコンテンツを十分に持った国だったのです。傾きかけたこの国を再び輝かせることができる魅力的な産業だと再認識させてくれた一冊となりました。
観光産業が直面する人材不足と賃金の課題
観光産業を育成するうえで避けて通れないのが、人材の問題です。アトキンソン氏の指摘によれば、賃金が他国に比較して少ないという点が挙げられます。
日本の労働市場における観光業の位置づけが低いことが、優秀な人材の確保を困難にしています。観光業が「きつい、給料が安い」というイメージから脱却し、魅力的なキャリアパスを提示できるかどうかが、今後の鍵を握っているのです。
観光立国を真剣に目指すのであれば、観光産業に従事する人々の待遇改善は不可欠です。単に外国人観光客を増やすだけでなく、その受け皿となる人材を育て、適切に評価する仕組みが必要なのです。
稼いでいる観光地ほど滞在日数を延ばす努力をしている
著者が指摘する重要なポイントの一つが、滞在日数と観光収入の関係性です。お金を落としてもらうためには滞在日数を延ばすことが鍵だとしています。
なぜ成田―東京間に新幹線を走らせないのか、なぜ観光地にもっと「ゴミ箱」を設置しないのか。包装紙などを捨てる場所がなければ、カバンに入りきれないのでお土産の購入意欲が減るのです。こうした細かな指摘が、実は大きな収益の差を生んでいるのです。
観光客が長く滞在したくなる環境を整えることこそが、観光収入を増やす最も確実な方法だとアトキンソン氏は語ります。これは単なる理論ではなく、世界中の成功している観光地が実践している戦略なのです。
顧客の声に耳を傾けるマーケティングとロジスティクスの重要性
観光産業に携わるすべての人に読んでもらいたい快作だという評価が、本書には多数寄せられています。その理由の一つが、マーケティングとロジスティクスの重要性を説いている点です。
顧客である観光客の声に耳を傾けるマーケティングと、観光客が求めるものを的確に提供するロジスティクスが何よりも重要なのだと著者は強調しています。
「勘違い、意識が甘い、押しつけ、自由自在」とバッサリ切って捨てる姿勢は、一見厳しく見えるかもしれません。しかし、顧客の声に耳を傾けるマーケティングとロジスティクスが何よりも重要なのだという主張は、ビジネスの本質を突いた真理です。
アジアの観光客と欧米の観光客では求めているものは違うはずです。さらに国別に、もっときめ細やかなマーケティングが必要なはずですが、現状ではそこまで細やかな対応ができていないのが実情なのです。
文化財は「見せて差し上げる」ものではなく「楽しめるように工夫する」もの
日本の観光地を訪れた外国人がよく口にする不満の一つが、文化財の説明の不足です。アトキンソン氏は、この問題を鋭く指摘しています。
日本の文化財は「見せて差し上げる」ものであって、「観る人が楽しめるように工夫する」ものでもないような気がすると述べています。おもてなし文化という考え方に通じるかもしれませんが、そのくせ文化財を譲るという発想に欠けていることも確かなのです。
旅行好きの友人から聞いた話ですが、日本人ってすごいでしょうとアピールするよりも、勘違い、意識が甘い、押しつけ、自由自在などという指摘は、耳の痛いものばかりです。しかし、それらは確かに日本の観光業が改善すべき課題を的確に捉えているのです。
観光産業を日本の一大産業に育てるために
本書が訴える最も重要なメッセージは、観光業を日本の一大産業として本気で育てようという意識改革の必要性です。
出来上がったものがまとめられているからこそ、本書は観光産業に携わるすべての人に読んでもらいたい快作となっています。明日からでも実践可能な提案ばかりが並んでいるのです。
日本には観光大国になるためのコンテンツが十分にあります。傾きかけたこの国を再び輝かせることができる魅力的な産業だと再認識させてくれるのが、本書の価値なのです。
データと事実に基づいた冷静な分析が、感情論では見えなかった課題を明らかにしてくれます。そして、その課題に正面から取り組むことで、日本の観光産業は大きく成長する可能性を秘めているのです。
あなたも本書を手に取り、日本の観光産業の未来について考えてみませんか。データで読み解く衰退の真実を知ることが、観光立国への第一歩となるはずです。

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