「部下に仕事を任せるとき、一から自分で考えろと言いますか?それとも先輩のやり方を参考にしろと言いますか?」
ほとんどの管理職は後者を選ぶはずです。新入りが車輪を再発明するよりも、実績あるやり方を吸収して素早く動き始める方が、チームにとって合理的だからです。
村上学氏の著書が提唱する起業メソッドは、まさにこの考え方と同じです。すでに儲かっているビジネスの仕組みをそのままコピーし(マネる)、そのビジネスが展開されていない場所や客層に移して実行する(ズラす)。この二段階だけで、初めての起業でも確実な収益基盤を築けるという、極めて再現性の高いメソッドです。
「新しいことを考えなければ」という焦りを一度横に置いて、この発想の持つ力を一緒に見ていきましょう。
1. なぜ「マネる」ことが正攻法なのか
起業の世界では「マネる」という行為が、なんとなくネガティブに語られる傾向があります。しかし著者の主張は真逆です。すでに儲かっているビジネスの仕組みを完全にコピーすることが、最も合理的なスタートだと言い切ります。
その理由はシンプルです。成功している事業には、需要の存在、適切な価格帯、効果的な集客方法、安定的な運営ノウハウが、すでに揃っています。自分で一から仮説を立て、検証し、失敗を繰り返すプロセスを誰かがすでに終わらせてくれているのです。
IT管理職の経験に照らして考えてみてください。新しいプロジェクト管理の仕組みを導入するとき、既存の成功事例をもとにカスタマイズするのと、ゼロから独自の方法論を考えるのとでは、どちらがリスクが低いでしょうか。答えは明らかです。
完全なコピーから始めることが、最速のスタートです。
ビジネスモデルの設計図を描く時間とコストをゼロに近づけられるのが、「マネる」という戦略の最大の強みです。
2. 「完全コピー」でいい理由――独自性は後からついてくる
「しかし、完全にコピーしたら違法なのでは?」という疑問が浮かぶかもしれません。
ここで言う「マネる」とは、特許や著作権を侵害することではありません。ビジネスの「仕組み」そのものは、基本的に独占できません。集客方法、価格帯の設定、サービスの流れ、オペレーションの設計――これらは観察し、学び、自分の事業に取り入れることができます。
著者が実際にやってみせているのは、既存のカフェバーというビジネスモデルを完全に踏襲することでした。メニューの作り方、仕入れのルート、店舗の運営オペレーション、価格設定の考え方。先人たちが長い時間をかけて磨き上げたノウハウを、そのまま活用する。
独自性が必要になるのは、次のステップ「ズラす」の段階です。最初から「オリジナリティを出さなければ」と肩に力を入れる必要は、一切ありません。
3. 「ズラす」という発想が競争のない場所を作る
マネただけでは、当然ながら先行者と同じ土俵で戦うことになります。そこで著者が提唱するのが「ズラす」という二段階目の戦略です。
「ズラす」とは何か、一言で言えば、ビジネスモデルはそのままに、提供する「場所」か「ターゲット層」のどちらかを変えることです。
東京で成功しているビジネスモデルを、地方で展開する。一般消費者向けのサービスを、特定の業界の法人に向けて提供する。成人向けに普及しているサービスを、高齢者向けにアレンジする。このように既存モデルを「まだ届いていない場所・人」へと横滑りさせることで、競合がいない領域を自然と生み出せます。
先行者のいない場所に移動するだけで、レッドオーシャンを避けられます。
価格競争に巻き込まれず、最初から独占的なポジションを取れる。これが「ズラす」戦略が持つ本質的な力です。
4. 著者の実体験「軍専門カフェバー」が示すこと
著者が実際に立ち上げた事業の中に、「日本初・自衛隊および米軍高官専門のカフェバー」があります。これは「マネる・ズラす」の完璧な実例です。
まず「マネた」もの――カフェバーの運営全般です。仕入れ、メニュー構成、接客の流れ、価格帯の設計。飲食業界に蓄積された既存のノウハウをそのまま活用しました。次に「ズラした」こと――客層です。一般客ではなく、自衛隊員や米軍高官という非常にクローズドなコミュニティに限定しました。
結果として何が起きたか。一般の飲食店との価格競争が完全になくなりました。その客層の間で口コミが広がり、コミュニティの中での信頼が売上に直結するという、独自の生態系が生まれたのです。
飲食業という、誰もが参入できるレッドオーシャン市場において、ズラすという一手だけで競合不在の領域を作り出した。著者の理論は机上の空論ではなく、自らの実践によって証明されています。
5. 管理職の仕事術に重なる「マネる・ズラす」の発想
このフレームワークは、起業の文脈だけにとどまりません。IT管理職としての日常業務にも、そのまま応用できる発想です。
たとえば他部署でうまく機能しているプロジェクト管理の手法を、自分のチームに持ち込む。これは「マネる」です。そのまま導入するだけでなく、自チームの業務特性に合わせて適用先を調整する。これが「ズラす」です。
提案書の作成でも同じです。過去に経営層に通った提案の構成と論理展開をコピーし、テーマだけを今回のプロジェクトに合わせてズラす。ゼロから新しいフォーマットを考えるより、はるかに承認率が上がります。
成功の型を借り、文脈を変えて適用する。
これは「独自性がない」のではなく、「確実に成果を出すための最適解」を取っているということです。
6. 「マネる・ズラす」を実践する3つのステップ
では、この方法を実際に起業や副業に使うには、どこから始めればいいのでしょうか。著者は非常に具体的なアクションを示しています。
まず地元の商工会議所に足を運ぶことです。そこには、メディアには取り上げられないけれど長年地道に稼ぎ続けている経営者が集まっています。次に、その中で気になる経営者に話を聞くことです。どんな事業か、どうやって顧客を獲得しているか、どんなコストがかかるか。その話の中に、マネるべき「設計図」が詰まっています。そして最後に、その設計図をそのままコピーし、自分が展開できる場所か客層にズラして実行するだけです。
「地味で面白みがない」と感じるかもしれません。しかしその地味さこそが、参入障壁の低さと需要の安定性を証明しています。面白くないビジネスが、実は最も確実に利益を生む構造を持っていることが多いのです。
村上学氏の著書は、この「マネる・ズラす」のフレームワークを多くの事例とともに丁寧に解説しています。起業や副業の第一歩を踏み出せずにいるITパーソンが、具体的な行動計画を手に入れられる一冊です。

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