毎日の仕事に追われ、家族のことで手一杯。気づけば自分が本当に好きだったことを、いつの間にか諦めていませんか。かつて夢中になったこと、心から楽しいと思えたこと。そんな「好き」という感情を、大人になるにつれて手放してしまった方は少なくないでしょう。辻村深月の『この夏の星を見る<下>』は、コロナ禍という困難な時代を生きる若者たちが、自分の「好き」を貫くことで未来を切り拓いていく物語です。この物語から、私たち大人が忘れかけていた大切なことを学べるはずです。
「好き」を諦める大人たち
作品の中に、こんなセリフがあります。
「進学とか就職とか、何かに活かせないとしても、好きなことへの情熱は捨てることない」
この言葉は、現代社会を生きる私たちの胸に深く突き刺さります。実際、大人になると多くの人が「好き」を諦めてしまいます。仕事が大変だから、日々でいっぱいいっぱいだから。いろいろと理由をつけて、かつて夢中だったことを手放してしまうのです。
しかし考えてみてください。「好き」という感情は、なろうとしてなれるものではありません。心から何かを好きだと思える気持ちは、実はとても貴重なものなのです。大人になるとその貴重さを忘れ、効率や実用性ばかりを追い求めてしまいます。
星を愛する若者たちの挑戦
この物語に登場する中高生たちは、天文部という一見実用的とは言えない活動に情熱を注いでいます。コロナ禍で部活動が制限され、大会も中止になる中、彼らは諦めませんでした。
茨城・東京・長崎という離れた場所に住む若者たちが、オンラインで繋がり「スターキャッチコンテスト」を開催します。望遠鏡で指定された星を探す競技会です。直接会えない制約の中でも、星が好きという共通の情熱が彼らを結びつけました。
彼らの姿からは、「好き」という感情がどれほど人を動かす力を持つかが伝わってきます。実用性や将来の役立ちを考えたら、コロナ禍の制限だらけの中で天文部の活動を続ける意味はないかもしれません。でも彼らは星が好きだから、その情熱を捨てなかったのです。
情熱は人生の原動力になる
辻村さんの物語は、いつも「好き」を信じる力を教えてくれます。この作品も例外ではありません。登場する若者たちは、星への情熱を通じて成長し、全国の仲間と繋がり、自分の居場所を見つけていきます。
茨城の高校生・亜紗は天文部の合宿中止や大会延期に落胆しながらも、星を見ることを諦めませんでした。東京の中学生・真宙は、学校に馴染めない辛さを抱えながら、天文という好きなことで新しい繋がりを得ます。長崎の高校生・円華は、親友との軋轢に傷つきながらも、天文の世界で自分の価値を再確認しました。
困難な状況でも、好きなことに向き合い続けることで、人は道を見出せるのです。これは若者だけでなく、私たち大人にも当てはまる真理ではないでしょうか。
大人になって忘れた「好き」の価値
40代になると、現実的な判断が優先されます。趣味の時間よりも仕事、自分の楽しみよりも家族のため。そうやって日々を過ごすうちに、かつて自分が何に夢中だったかさえ忘れてしまいます。
でも本当にそれでいいのでしょうか。確かに責任ある立場として、仕事や家庭を大切にすることは重要です。しかし、自分の「好き」を完全に手放してしまうことは、自分自身を見失うことに繋がりかねません。
この物語の若者たちは教えてくれます。好きなことは、必ずしも仕事や収入に直結しなくてもいい。それでも情熱を持ち続けることに価値があると。その情熱があるから、困難を乗り越えられる。その情熱があるから、人と繋がれる。その情熱があるから、自分らしく生きられるのです。
コロナ禍だからこそ生まれた物語
この作品は2020年のコロナ禍を舞台にしています。全国一斉休校、部活動の制限、黙食の日々。当たり前だった日常が奪われた時代です。
しかし作中の若者たちは、失われたものを嘆くだけではありませんでした。オンラインという新しい手段を使い、離れていても星を見るという体験を共有しました。制約の中でも、好きなことを追求する方法を見つけたのです。
これは私たち大人にとっても示唆に富んでいます。忙しいから、時間がないから、という理由で「好き」を諦める必要はありません。形を変えてでも、自分の好きなことに触れ続けることはできるはずです。週末の数時間だけでも、通勤時間の読書でも、小さな積み重ねが人生を豊かにします。
遠く離れた仲間との絆
物語のクライマックスでは、全国の天文部員たちがオンラインで繋がり、同じ星空を見上げます。誰かが星を見つけるたびに画面越しに歓声が上がり、拍手が広がります。
直接会ったことのない相手でも、同じものを好きという共通点があれば、深い絆で結ばれることができる。この描写は、現代のオンライン社会を生きる私たちにとって、とても身近に感じられるでしょう。
仕事でもリモート会議が増え、直接顔を合わせる機会が減りました。しかしそれでも、共通の目標や情熱があれば、人は繋がれます。「好き」という感情は、物理的な距離を超えて人を結びつける力を持っているのです。
あなたの「好き」は何ですか
この作品を読み終えたとき、自分に問いかけてみてください。あなたは今、何が好きですか。かつて夢中になったことを、まだ覚えていますか。
もし今の生活に何か物足りなさを感じているなら、それはもしかしたら「好き」を見失っているからかもしれません。仕事の成果や家族の笑顔も大切ですが、自分自身が心から楽しいと思えることも同じくらい大切です。
辻村深月が描く若者たちの姿は、年齢を問わずすべての人に響きます。何歳になっても、どんな立場になっても、「好き」という情熱を持ち続けることの価値は変わりません。むしろ大人だからこそ、その貴重さを理解し、大切にできるはずです。
人生を豊かにする「好き」の力
『この夏の星を見る<下>』は、単なる青春小説ではありません。人生の本質を問いかける物語です。コロナ禍という制約の中で、若者たちが星への情熱を貫き、仲間と繋がり、未来を切り拓いていく姿は、私たち大人にも多くの示唆を与えてくれます。
忙しい日々の中で見失いがちな「好き」という感情。それは人生を豊かにし、困難を乗り越える力となり、人と人を繋ぐ架け橋となります。この物語を読めば、きっとあなたも自分の「好き」を思い出し、それを大切にしたいと思えるはずです。
星空を見上げる若者たちの純粋な情熱に触れて、あなた自身の心の中にある情熱を再発見してみませんか。

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