スマホを開けば無数の子育て情報が目に飛び込んでくる現代です。どの情報も説得力があり、どれが正しいのか分からず混乱していませんか。早期教育の広告、ママ友の成功談、教育系インフルエンサーの投稿。気づけば周りの情報に振り回され、我が子の姿を見失っていた、という経験は誰にでもあるはずです。
プロカメラマン田部信子さんの『カメラマン視点で子育てしたら双子が現役で京大に合格しました』が提案するのは、情報過多の時代だからこそ必要な「自分軸」の子育てです。カメラマンとして被写体をありのままに捉えてきた著者が、双子の母として実践した子育て術には、外部の情報に惑わされず、目の前の子どもから出発する独自の視点が貫かれています。
「外から子どもへ」ではなく「子どもから外へ」
従来の子育て論は「外から子どもへ」という方向性が中心でした。世間で良いとされる教育法や習い事を、子どもに当てはめていく発想です。しかし田部さんが提唱するのは、「子どもから外へ」という真逆のアプローチです。
この考え方では、まず目の前の子どもをよく観察し、その子が何に興味を持ち、どんな個性を持っているかを把握します。そこから出発して、その子に合った環境や学びを外の世界に探しに行くのです。主役は常に子ども自身であり、親は子どもの特性を見極めるナビゲーター役に徹します。
情報過多の時代、この視点の転換は親の心を大きく軽くします。溢れる情報に振り回されることなく、我が子という確かな軸を持つことができるからです。カメラマンが被写体の個性を最大限に引き出すように、親も子どもの個性を起点に子育てを組み立てていく。この姿勢こそが、情報に負けない自分軸を作る第一歩なのです。
「期待」ではなく「予測」して準備する知恵
田部さんは子育てにおいて、「期待」ではなく「予測」する姿勢を大切にしてきました。この二つは似ているようで全く異なります。
「期待」は親の願望が入り込みます。子どもが上手くいくことを前提に、理想の結果を思い描く行為です。一方「予測」は、起こりうる様々な事態を冷静に想定する作業です。カメラマンがベストな撮影位置を予測するように、子育てでも何が起こるかを事前に考え、対策を準備しておくのです。
たとえば田部さんは、小学校入学時にクラスでのいじめやトラブルが起こる可能性を予測しました。そして劇団や美術教室といった「第三の居場所」を用意したといいます。学校がすべてではなく、他に居心地の良い場所がある。この準備が、実際にトラブルが起きた時に子どもたちの心の拠り所となりました。
予測して準備することで、親子ともに余裕が生まれます。何かあっても慌てず対応でき、心理的安定感が増すのです。これは情報に振り回されない自分軸を持つための、具体的で実践的な方法といえます。
「寄り」と「引き」で視点を自在に切り替える
写真撮影には「寄り」と「引き」という技法があります。被写体に近寄って細部を写すのが「寄り」、背景も含めて広く写すのが「引き」です。田部さんは、この視点の切り替えを子育てにも応用しました。
子育てで「寄り」過ぎると、子どもの欠点や問題ばかりが目につきます。テストの点数、友達関係、生活習慣。一つひとつに目を凝らすほど、親子ともに息苦しくなっていきます。そんな時こそ「引き」の視点に切り替える必要があるのです。
一歩引いて俯瞰すると、子どもの全体像が見えてきます。今の課題は、長い人生の中でどれほどの意味を持つのか。他の面では順調に成長しているのではないか。広い視野で見ることで、親の心が軽くなり、冷静な判断ができるようになります。
田部さんは感情が先走りそうな時、「よその子メガネ」をかけるという工夫も紹介しています。自分の子ではなく、よその子を見るような客観的な視点を意識的に持つのです。すると不思議と穏やかな気持ちで子どもに接することができます。自分の中に「寄り」と「引き」というキーワードを置いておくだけで、視点の切り替えが自然とできるようになるといいます。
心の余裕を生む「第三の居場所」という発想
田部さんが実践した「第三の居場所」は、情報過多の時代を生きる子どもたちにとって、大きな支えとなりました。家庭と学校だけが世界のすべてではない。劇団や美術教室、スポーツクラブなど、学校とは違う価値観で評価される居場所を持つことで、子どもは心の余裕を得られます。
この発想の背景には、起こりうるトラブルを予測し、事前に逃げ道を用意しておくという著者の姿勢があります。学校で何か問題が起きても、他に楽しい場所がある。この安心感が、子どもの精神的な支えになるのです。
また第三の居場所は、子ども自身が多様な価値観に触れる機会にもなります。学校の成績だけがすべてではなく、表現力や創造性、協調性など、様々な側面で自分の良さを発見できるのです。情報に振り回されず、我が子の個性を多角的に見守る。そのための具体的な手段が、第三の居場所の確保なのです。
双子でも全く違う二人の個性を尊重する
田部さんの双子は二卵性で、外見はそっくりでした。しかし成長の過程で、二人は全く異なる個性を見せていきます。学力には偏差値10もの差がつく時期もあったといいます。
多くの親なら焦って成績の低い方を引き上げようとするでしょう。しかし田部さんは焦らず、それぞれの実力と個性に合った環境を整えるという選択をしました。双子だからといって同じように扱うのではなく、一人ひとりの成長ペースを尊重したのです。
この経験から著者は、同じ親のもとで育っても子どもは驚くほど違うことを実感しました。だからこそ他人や兄弟との比較は意味がない。周りの情報や他の子どもの成長と比べるのではなく、我が子自身の変化と成長を見守る。この姿勢こそが、情報に惑わされない自分軸の核心なのです。
情報との上手な付き合い方
情報をすべて遮断するのは現実的ではありません。大切なのは、情報を取捨選択し、我が子に合うかどうかを判断できる軸を持つことです。
田部さんの子育てには、カメラマンとしての観察力が生きています。まず目の前の子どもをよく見る。その上で、外部の情報が我が子に当てはまるかを冷静に判断する。合わなければ採用しない勇気も必要です。
本書では、受験や習い事、ゲームやネットへの向き合い方など、実体験に基づく判断基準が具体的に示されています。それらはすべて、子ども自身をよく観察し、その子に合った選択をするという軸から導かれたものです。
肩の力を抜いて子育てを楽しむために
情報過多の時代だからこそ、田部さんの提案する自分軸の子育ては多くの親に響くはずです。外から情報を詰め込むのではなく、子どもから出発する。予測して準備し、視点を切り替える柔軟さを持つ。第三の居場所を確保し、一人ひとりの個性を尊重する。
これらの実践によって田部さんの双子は、自発的に学ぶ姿勢を育み、最終的には京都大学に現役合格という結果を得ました。しかし本書の真価は、合格という結果以上に、親も子も無理なく自分らしく過ごせる子育ての形を示した点にあります。
20年以上のプロカメラマンとしての経験から得た観察力を、子育てに応用した具体的な方法論。情報に振り回されず、目の前の子どもをしっかり見る大切さ。本書には、現代の子育てに悩むすべての親に必要な視点が詰まっています。

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