職場で女性社員の健康に関する配慮が話題になったとき、あなたはどう対応していますか。管理職として、女性メンバーの生産性やウェルネスを支援したいけれど、どこまで踏み込んでいいのか分からない。そんな悩みを抱える方に、産婦人科医の吉岡範人さんが執筆した『フェムテック 女性の健康課題を解決するテクノロジー』が実践的な視座を与えてくれます。本書は単なる医療の話ではなく、フェムテック市場がなぜ普及しないのかという本質的な課題を、ビジネスエコシステムの観点から鋭く分析しています。
フェムテック普及を阻む三つの壁
吉岡さんは本書の中で、フェムテック関連商品を消費者側が受け入れる土壌も成熟しているとは言えないと指摘しています。
例えば、ピルはあくまでも避妊のためのものという固定観念が根強く残っています。また、膣に数物を入れるなんてもってのほかという価値観や、画期的な新商品もタブー視されてしまい状況は相変わらずです。企業や医療者、消費者を含めたすべての人がフェムテックには及び腰なのです。
この指摘は、IT業界で働く私たちにも身近な問題ではないでしょうか。職場でフェムテック関連製品の導入を提案しようとしても、なかなか理解が得られない。あるいは、女性社員から相談を受けても、どう対応していいか分からない。そうした戸惑いの背景には、社会全体に根付いた価値観の問題があるのです。
エビデンスとタブーの狭間で
本書が特に強調するのは、エビデンスの不足という課題です。
最近では月経カップを使っても大丈夫か、月経管理アプリをどう使いこなせばいいか分からないといった、フェムテックに関連する相談も多く寄せられると言います。女性たちが少しでも楽に快適になるために、テクノロジーとその産物が有効であるのなら、それを利用しない手はありません。
しかし、エビデンスが少ないというのなら、利用しながらつくり上げていけばよいというのが著者の主張です。
この視点は、アジャイル開発やリーンスタートアップに通じるものがあります。完璧なデータが揃うまで待つのではなく、実際に使いながら検証し、改善していく。IT業界で働く私たちにとって、非常に理解しやすいアプローチではないでしょうか。
日本の保険医療制度とエビデンスの関係
日本の保険医療制度とエビデンスの弱さも、フェムテック普及の障壁となっています。
日本は3割負担で診療を受けられる医療サービスへのアクセスの良さがあります。それにも関わらず、婦人科のハードルが高いのは、もっと心理的な部分が大きいのではないでしょうか。婦人科をより身近にするには、メディアも上手に活用すべきだと著者は提案しています。
さらに、日本ではこうした女性の課題については保守的という時代遅れの部分も散見されるので、テクノロジーによって女性が生きやすい社会ができればと思います。こうした話をタブー視する風潮があったり、話がぺれぺれが無痛分娩に否定的だったり、謎の母乳進行により液体ミルクの導入が遅れていたりします。
理系の女性研究開発者や製品企画者が増えると技術も進む(男性では進まない)ようにも思います。この指摘は、ダイバーシティ推進を掲げる企業にとって重要な視点です。
企業・医療者・消費者の三者協働が鍵
本書が示す最も重要なメッセージは、すべてのステークホルダーがフェムテックには及び腰という現状認識です。
企業や医療者、消費者を含めたすべての人がフェムテックには及び腰なのです。フェムテック関連商品を消費者側が受け入れる土壌も成熟しているとは言えません。
この状況を打破するには、一部の熱心な支持者だけでなく、社会全体のエコシステムとして機能させる必要があります。それは企業としてではなく製品として販売させる得なくならず、結果市場での信頼を得られずフェムテックが普及していかないのです。
IT企業の中間管理職として、あなたにできることは何でしょうか。例えば、生理休暇の取得促進や、リモートワークの柔軟な運用、フェムテック関連の福利厚生導入の検討などが考えられます。また、チーム内で女性の健康課題についてオープンに話せる雰囲気づくりも重要です。
テクノロジー業界だからこそできること
吉岡さんは、一見すると無関係のフィールドの人や企業が関わり合うことで、新たな商品やサービスが生まれる可能性は大いにあり、この本をそのきっかけにしてほしいというのが著者の願いです。
フェムテックの大いなる可能性を示す一冊です。
IT業界で働く私たちには、データ分析、アプリ開発、AIの活用など、フェムテック分野で貢献できる技術的なバックグラウンドがあります。また、職場環境の改善や、女性エンジニアの採用・育成を通じて、持続可能なフェムテックエコシステムの構築に向けて、模索な提案をしていくことができるのです。
これは、単なるビジネスチャンスの追求だけでなく、社会全体の利益を考慮した、責任あるビジネス展開の重要性を強調していると言えるでしょう。企業の社会的責任(CSR)という観点からも重要な示唆を与えてくれます。
変化を生み出すのは現場のリーダーたち
本書を読んで最も感じたのは、フェムテック普及には現場レベルでの理解と行動が不可欠だということです。
医療現場で日々直面する課題、患者のニーズ、そして医療制度の制約などが具体的に提示され、それらを踏まえた上でビジネスチャンスがどのように創出されるのかが明確に示されています。これは、多くのビジネス書が市場分析に偏りがちな中、本書の大きな差別化要因となっています。
例えば、アプリ開発における医療データのプライバシー保護、規制への対応、医師との連携といった具体的な課題が提示され、それに対する解決策が提示されている点は、実際にビジネスを展開する上で非常に参考になります。
管理職として、チームメンバーの多様なニーズに応えることは、単なる福利厚生の充実ではありません。それは、イノベーションの源泉であり、組織の競争力を高める戦略的投資なのです。
誰もがフェムテックの当事者
本書を読み終えて気づくのは、フェムテックは女性だけの問題ではないということです。
職場の半数近くを占める女性社員が、健康課題によってパフォーマンスを発揮できない状況は、組織全体の損失です。また、妻や娘、女性の同僚や友人など、私たちの周囲には必ず女性がいます。彼女たちが抱える健康課題を理解し、適切にサポートすることは、男性管理職にとっても重要な役割なのです。
吉岡さんが提示するフェムテックエコシステムの構築という視点は、IT業界で働く私たちにとって、新しいビジネス機会であると同時に、社会的責任を果たす機会でもあります。技術で社会課題を解決する。それは、まさに私たちIT業界が得意とする領域ではないでしょうか。
本書は、フェムテックという新しい市場の可能性を示すと同時に、その実現には企業、医療者、消費者すべてが変わる必要があることを教えてくれます。そして、その変化を生み出す一人として、あなたの職場から始めることができるのです。

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