変えられないものを手放したとき、人は本当に強くなる——映画監督が教える、エネルギーの使い方革命

あなたは今、何かに怒っていませんか。

理不尽な上司の一言、急に覆されたプロジェクトの前提、思い通りにならない取引先の対応……。そういったことに対して、「なぜこうなるんだ」「なんとかしてほしい」と、心のエネルギーを使い続けていることはないでしょうか。

その消耗、じつはとてももったいないことなのかもしれません。

映画監督・飯塚健さんの著書には、読んでいて少しドキッとする言葉があります。変えられないものに対してエネルギーを注ぎ続けることは、プロフェッショナルとして最も避けるべき行為のひとつだというのです。

「でも、怒って当然でしょう」と思う気持ちはよくわかります。わたしも最初そう思いました。でも読み進めるうちに、この考え方の深さと実用性が、じわじわと腹に落ちてきました。

今回は、飯塚健さんの著書から、「コントロールできないものを手放し、自己変容に集中する」という哲学を深く掘り下げていきます。

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1. 映画の現場が教えてくれた、エネルギーの「使い道」

映画の撮影現場というのは、コントロールできないことの宝庫です。

何ヶ月も前から準備したロケ地が、直前になって使えなくなる。出資者から「やっぱり脚本を変えてほしい」と言われる。当日、キャストが体調を崩す。天気が崩れる。機材が壊れる……。

映画監督として22年以上のキャリアを持つ飯塚健さんは、こうした「どうにもならない状況」を数え切れないほど経験してきました。そのなかで気づいたことがある。

それは、現場で本当に信頼される人間とそうでない人間の差は、能力の差よりも、エネルギーの使い方の差から生まれるということです。

コントロールできないことに対してエネルギーを消費し続ける人は、どんなに優秀でも現場で頼りにならない。一方、変えられないことはすぱっと受け入れて、今の自分にできることへ即座に頭を切り替えられる人が、圧倒的に信頼を勝ち取っていく。

この構造は、映画の現場だけの話ではないと飯塚監督は言います。

2. 「コントロールできるもの」と「できないもの」を分ける

では、何がコントロールできて、何ができないのか。

天候は変えられません。他者の感情も変えられない。会社の方針、市場の動向、取引先の都合――これらはすべて、自分の力でどうにかなるものではありません。

一方、確実にコントロールできるものがあります。それは、事象に対する自分の受け止め方と、次の一手としての行動の選択です。

雨が降った。これは変えられない。でも「この雨をどう使うか」は、自分が決められます。ロケ地が使えなくなった。これも変えられない。でも「今から何を提案するか」は、自分次第です。

飯塚監督が本書で繰り返し強調するのは、この境界線を冷静に引くことの重要性です。変えられないものへの怒りや嘆きは、エネルギーを消耗させるだけで、何の解決にもつながらない。それに使う精神力を、変えられるもの――つまり自己の思考と行動――に全力で注ぐことが、本物のプロフェッショナルのあり方だと断じています。

これは古代ギリシャの哲学者たちが説いた考え方にも通じます。自分の力で変えられることと変えられないことを区別し、変えられないことに心を乱されないようにする――その姿勢が、2000年以上の時を超えて、映画監督の現場体験とも一致しているのは興味深いことです。

3. 「偉い人と意見が食い違った」――現場の具体例から学ぶ

本書では、コントロールできないものへの対処が求められる場面として、「現場で権力を持つ人と意見が完全に食い違ったとき」が具体的に取り上げられています。

これは多くの人が職場で経験する、あの場面です。上司や取引先が自分とは全く違う方向性を主張してくる。「それは違うと思います」と言いたいけれど言えない、あるいは言ったけど全く聞いてもらえない。

そういった状況で多くの人がとる行動は、大きく二つに分かれます。相手の無理解を心の中で(あるいは外に出して)非難するか、黙って従って内側でエネルギーを消耗し続けるか。

飯塚監督が示すのは、第三の道です。相手の判断を変えることは難しい――それはコントロールできない領域だと認める。そして、自分の側でできることへ思考をすぐに移す。「では今の自分にできる代替の提案は何か」「自分のアプローチをどう変えれば、この局面を前に進められるか」という問いに、エネルギーを注ぎ直す。

変えられないものを嘆く時間を、代替案を考える時間に変える。 ただそれだけのことですが、これができる人とできない人では、現場での信頼度が大きく変わると飯塚監督は言います。

4. 自己変容とは何か――「諦め」とはまったく違う

「変えられないことを受け入れる」と聞くと、諦めや妥協のように感じる方もいるかもしれません。でもそれは、飯塚監督が言う自己変容とは全く別のものです。

諦めは受動的です。「どうせ無理だから」とエネルギーを使うことをやめてしまう。

自己変容は能動的です。変えられない現実を素早く受け入れ、そこから自分が取れる行動へと即座に頭と体を向ける。むしろエネルギーの使用量は増えるかもしれません。ただし、その使い先が「嘆くこと」から「動くこと」へ変わる。

映画の撮影でロケ地が突然使えなくなったとき、諦めるのは「今日の撮影は中止だ」と宣言することです。自己変容は「では今から使える場所を三つ出そう。ここの廊下と、駐車場と、隣のビルのエントランスが使えないか確認する」と即座に動き出すことです。

後者の行動は、怒りや嘆きを脇に置かなければ生まれません。コントロールできないものを手放すことは、弱さではなく、動くための前提条件なのです。

5. 計画が崩れた瞬間こそ、本当のスタートライン

飯塚監督が本書で伝える、もうひとつの重要な認識があります。

計画が崩れた瞬間こそが、自分の真価と創造性を発揮する本当のスタートだという考え方です。

すべてが計画通りに進んでいるとき、個人の実力はそれほど問われません。段取り通りに動けば誰でも同じ結果が出ます。でも計画が崩れ、マニュアルが通用しなくなったそのとき、初めて人間の本当の能力が試されます。

そこで「計画と違う、困った」とエネルギーを消耗し続けるか、「計画は崩れた、ではここから何ができるか」とすぐに切り替えられるか。この差が、結果の差になり、信頼の差になっていく。

変化の激しい現代の職場では、この場面はもはや例外ではなく日常です。プロジェクトの前提が変わる、人員が変わる、市場が変わる――そのたびに消耗し続けるのか、そのたびに新たな最善を探し始められるのか。

飯塚監督のメッセージは、困難な状況を楽観的に捉えようという精神論ではありません。コントロールできないものを手放すことで、コントロールできるものに全力を注げる という、極めて実践的な行動の哲学です。

6. 今日からできること――「手放す習慣」を身につける

では、具体的に何をすればよいのでしょうか。

まず試してほしいのは、何かに対してイライラしたり消耗したりしているとき、「これは自分にコントロールできることか、できないことか」と一度問いかけてみることです。この問いを立てるだけで、思考の向きが変わることがあります。

コントロールできないと気づいたら、次の問いに移ります。「今の自分にできる代替の提案は何か」。これを口に出すか、メモに書き出してみる。怒りに向けていたエネルギーが、自然と行動へと向かい始めます。

最初は難しいかもしれません。でも飯塚監督は、これを「訓練」と表現しています。感情のコントロールとは、感情を持たないことではなく、感情に引きずられる時間を短くしていく訓練です。それは繰り返すうちに、確実に身についていきます。

変えられないものを手放すこと。それは弱さでも諦めでもなく、プロフェッショナルとしての成熟の証です。本書はそのことを、映画監督の生々しい経験を通じて、力強く語りかけてくれます。

飯塚健さんの著書は、読んでいて何度も「あ、これ自分のことだ」と感じる一冊です。ぜひ手に取って、エネルギーの使い方を見直すきっかけにしてみてください。きっと、仕事への向き合い方が少し変わるはずです。

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NR書評猫1156

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