何時間もかけて作った資料が、ほとんど読まれていないとしたら? 部下への声かけが、実は残業を増やす原因になっているとしたら? 「自分は一生懸命やっている」という実感があるのに、成果がなかなか出ない。そんなもどかしさを、あなたも感じていませんか?
管理職に昇進したばかりの頃、部下との関係をうまく築こうとすればするほど、逆に空回りしてしまった経験はないでしょうか。会議の前には丁寧に資料を仕上げる、メールには素早く返信する、朝には部下へ「元気?」と声をかける――どれも「良かれ」と思ってやってきたことのはずです。
ところが、800社・17万3000人のビジネスパーソンをAIで行動分析した越川慎司氏の著書『最速で結果を出す超タイパ仕事術』は、その「良かれ」の大半が実は成果に結びついていない、という衝撃的な事実を突きつけます。本記事では、特にデータが暴く無駄の正体に焦点を当て、今日から実践できる引き算の仕事術をお伝えします。
17万人のデータが示した「努力と成果の断絶」
越川慎司氏はマイクロソフト日本法人の業務執行役員を経て、現在は週休3日・完全リモートで年間800社以上の働き方改革を支援するコンサルタントです。その分析手法は感覚や経験則ではなく、ウェブカメラの画像解析やオンライン会議の音声解析、メールの返信履歴といったデジタルデータを大量に処理することで得られたファクトに基づいています。
そのデータが明らかにした事実は、私たちの仕事の常識を根底から揺さぶるものです。作成した書類の88%は不要だった、よかれと思って作ったページの81%は読まれていない、企業の97%に「メールを見ていますか?」という確認メールが存在する――これらは特定の怠慢な組織の話ではなく、800社の平均像です。
あなたが昨日の夜遅くまでかけて仕上げた報告書も、ひょっとしたらその88%に入っているかもしれません。データはそう告げています。しかしこれは、あなたが無能だという話ではありません。真面目な人ほど無駄を増やしやすいという、組織構造の問題なのです。
「元気?」の声かけが残業を増やす理由
本書の中で、特に管理職に響くデータがあります。上司が部下に「元気?」と声かけをしている企業の月平均残業時間は、50時間を超えているという事実です。
一見するとこれは逆説に思えます。上司がコミュニケーションを取ろうとしているのに、なぜ残業が増えるのでしょうか。答えは、その言葉の曖昧さにあります。部下は体調のことか仕事の進捗のことか雑談のつもりなのかと意図を読み取れず、認知的な負担を抱えたまま席に戻ります。さらに「この上司は自分に具体的な関心を持っていない」という印象を与えてしまう場合もあります。
曖昧な声かけは、温かみがあるようで、実は部下との間に見えない壁を作る行為です。本書はその壁を、データという鏡で見せてくれます。管理職として部下の信頼を得たいなら、まず「何となく良かれ」という行動を点検することから始める必要があります。
会議の68%が目的を持たない「会議のための会議」である
もう一つ、組織全体を停滞させているデータがあります。会議の68%が実は「会議のための会議」だということです。つまり、その会議の目的は意思決定でも情報共有でもなく、「次の会議の準備をするため」に設けられているのです。
IT企業の中間管理職であれば、思い当たる節があるのではないでしょうか。月曜の定例、週次の進捗確認、それに加えて突発的な相談――気づけば一日の大半が会議で埋まり、本来集中すべき業務に手が付けられない。そのしわ寄せが夜間の残業になる、という経験をしたことがある方は少なくないはずです。
越川氏は、この会議の連鎖を断ち切ることを強く勧めています。目的があいまいな定例会議こそ、引き算の筆頭候補です。会議をやめることへの罪悪感を抱く人は多いですが、データが示す通り、その68%はなくても誰も困らない可能性が高いのです。
「確認メールの確認メール」という悪循環
企業の97%に「メールを見ていますか?」という確認メールが存在するというデータも見逃せません。これは極端な例のように思えますが、少し形を変えれば、多くの職場で日常的に起きていることです。
大量のメールが届く、対応が追いつかない、催促が来る、謝罪のメールを返す、その謝罪への返信が来る……。この連鎖の根本には、全員に情報をCCする、全員が返信するという慣習があります。全員に送られたメールは誰にとっても重要に見えるため、全員が処理しようとし、全員が時間を奪われます。
不要なメールを減らす最初の一手は、CCを外すことです。これだけで、多くのビジネスパーソンの受信箱は劇的に整理されます。97%の企業で起きているということは、これはあなたの会社だけの問題でも、あなただけの問題でもありません。データが教えてくれるのは、個人の怠惰ではなく、組織の構造的な問題だということです。
過剰品質という名の自己満足
報告書のフォントを揃える、スライドのレイアウトを何度も調整する、誰も読まないページの言い回しに悩む――こうした行動は日本のビジネスパーソンが陥りやすい過剰品質の典型例です。
越川氏のデータによれば、経営陣は報告書の内容の骨子しか見ていません。装飾に費やされた88%の労力は、受け取る側には届いていないのです。これは怠慢な経営陣の問題ではなく、時間が有限であることの必然です。
重要なのは完成度よりも伝えるべき内容です。フォントを整える30分があるなら、伝えたいことをあと一段階深く考える30分にしたほうが、受け手には確実に届きます。
かけた手間が実は受け手には見えていない――このことをデータは静かに、しかし確実に教えてくれています。
「自分の努力は貢献しているはず」という思い込みの怖さ
ここまで見てきたデータが示すのは、主観的努力と客観的成果が大きくずれているという現実です。真面目に働いている、努力している、良かれと思ってやっている――それは間違いではありません。しかし、その方向が正しいかどうかは、データで検証しなければわかりません。
越川氏は本書を通じて、すべてが重要であるという思い込みこそが無駄の温床だと繰り返し指摘します。何もかもを丁寧にしようとする姿勢は美徳に見えますが、それは本当に成果を生む業務への集中を妨げているのです。
「自分の仕事の大部分が、実は無駄かもしれない」――このことを受け入れることは簡単ではありません。しかしだからこそ、本書のデータは価値を持ちます。感情ではなく数字が、引き算の出発点を示してくれるからです。
引き算から始める仕事の再設計
管理職として部下の信頼を得るために、まず自分自身の仕事を見直すことを本書は勧めています。新しいスキルを足す前に、今やっていることの中に「やめてもいいもの」がないかを問うことが、超タイパの第一歩です。
書類の88%が不要であるならば、今週作った資料の中にも不要なものが含まれているかもしれません。会議の68%が無意味であるならば、自分が主催している定例会議を見直す余地があるはずです。メールの97%が確認行為に費やされているならば、CCを減らすだけで時間が生まれます。
データは冷酷ですが、公平です。「良かれ」の思い込みを外すことができれば、あなたの仕事は今日から変わり始めます。越川氏の『最速で結果を出す超タイパ仕事術』は、その引き算の地図を17万人のリアルなデータとともに提供してくれる一冊です。ぜひ手に取って、自分の仕事を点検するきっかけにしてみてください。

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