昇進して部下を持ったものの、なかなか革新的なアイデアが生まれない。データ分析は得意だし、論理的に物事を考える力には自信がある。でも、どうしても既存の延長線上の提案しかできず、上司からは「もっと斬新な発想はないのか?」と言われてしまう。
もしかすると、あなたに足りないのは論理思考を補完する「右脳的発想術」かもしれません。
IT業界で働く中間管理職のみなさんなら、データドリブンな意思決定や論理的な問題解決には慣れ親しんでいるはずです。しかし、それだけでは「0から1」を生み出すイノベーションは起こせません。
今回ご紹介する『発想力──「0から1」を生み出す15の方法』は、まさにそんな論理思考の限界を感じているビジネスパーソンのための一冊です。著者の大前研一氏が40年以上の経営コンサルタント経験から編み出した、実践的な創造的思考の技術を学べます。
なぜ優秀な人ほど「発想の壁」にぶつかるのか
あなたは会議でこんな経験をしたことはありませんか?
部下から上がってくる提案が、どれも似たり寄ったりで新鮮味がない。自分自身も、いくら頭を絞っても既存サービスの改良案しか思い浮かばない。競合他社の動向を分析しても、結局は後追いの戦略になってしまう。
実は、これは論理的思考が得意な人ほど陥りやすい罠なのです。
論理思考は「収束思考」と呼ばれ、与えられた問題に対して最適解を見つけることを目的とします。一方、イノベーションに必要なのは「発散思考」、つまりそもそも解くべき問題自体を再定義する能力です。
大前氏は本書で、『考える技術』が「唯一の正しい答えを見つける」ことを目的とするのに対し、『発想力』は「多くの新しい問いを生み出す」ことを目的とすると明確に区別しています。
つまり、一方が道を最適化し、もう一方が新たな目的地を発見するのです。
「分析すべきアイデアがない」という根本問題
IT企業の中間管理職として、あなたは日々様々な数値を分析し、効率化を図り、最適解を導き出しています。しかし、ここに大きな落とし穴があります。
そもそも分析すべき革新的なアイデアがなければ、いかに優れた分析力も無用の長物だということです。
例えば、あなたの部署で新しいWebサービスを企画するとします。従来の思考パターンでは、既存の競合サービスを分析し、機能の改良や価格の最適化を検討するでしょう。これは確かに重要ですが、「収束思考」の範疇に留まっています。
一方、「発散思考」では以下のような問いかけから始まります:
- そもそも顧客は本当に何を解決したいのか?
- この業界の常識は正しいのか?
- 全く異なる業界の成功モデルを応用できないか?
このような問いかけから生まれるアイデアこそが、真のイノベーションの種になるのです。
15の発想法が論理思考を補完する仕組み
本書で紹介される15の発想法は、単なるアイデア出しのテクニックではありません。論理的なビジネスパーソンの思考回路を創造的に拡張するための体系的なツールキットです。
特に注目すべきは、これらの手法が以下の3つのカテゴリーに分類されていることです:
マインドセットの転換
固定観念を打破し、新たな視点を獲得するための精神的な準備運動
市場・顧客分析の深化
既存の業界常識を疑い、未開拓のニーズを発見するための分析ツール
資源・コストの再定義
見過ごされていた価値を掘り起こし、新たなビジネスモデルを構築するための財務的思考法
これらは、あなたがすでに持っている論理的思考力を否定するのではなく、それを土台として創造性を積み上げるアプローチなのです。
IT管理職が実践すべき「戦略的自由度」の威力
本書の中でも特に実践しやすく、即効性があるのが「戦略的自由度」という手法です。
これは、発想の起点を「我々は何を作れるか」から「顧客は本当は何を達成したいのか」に転換する思考法です。
例えば、社内システムの改善を検討する際、従来なら「既存システムの処理速度をどう上げるか」「どの機能を追加するか」といった技術論から始めがちです。
しかし、戦略的自由度の視点では「そもそも社員は何を達成したいのか?」「なぜこの作業が必要なのか?」という本質的な問いから出発します。
すると、処理速度の向上ではなく、その作業自体を自動化するというより根本的な解決策が見えてくるかもしれません。
実際に大前氏が紹介するコーヒーメーカー開発の事例では、「ろ過式かドリップ式か」という技術論を超え、「美味しいコーヒーが飲みたい」という顧客の本質的な目的に立ち返った結果、重要な変数が「水質」や「豆の粒の均一性」であることが判明しました。
部下との関係改善にも活かせる「感情移入」の技術
本書のもう一つの核心的な手法が「感情移入」です。これは、データや分析を超えて、相手の体験や感情を深く感じ取る能力のことです。
部下とのコミュニケーションに悩むあなたにとって、この手法は特に重要です。
従来の管理職は「数値目標を達成すること」「効率的に業務を進めること」に重点を置きがちです。しかし、部下が本当に求めているのは「成長の実感」「やりがい」「認められること」かもしれません。
大前氏は、ユニ・チャームの社長が生理用ナプキンを自ら装着して会議に出席した逸話を紹介しています。これは極端な例ですが、論理を超えた感情移入こそがイノベーションの源泉であることを示しています。
あなたも部下の立場に立って、彼らが日々感じている困難や不安を体感してみてください。そこから、従来の管理手法では見えなかった新しいチーム運営のアイデアが生まれるはずです。
AI時代だからこそ必要な「人間らしい発想力」
現在、AIがデータ分析や最適化といった「1から100」のタスクで人間を凌駕しつつあります。しかし、だからこそ「0から1」を生み出す創造的思考が、人間の競争優位性として重要になっています。
IT業界で働くあなたなら、この変化を肌で感じているはずです。単純な処理や分析はAIに任せ、人間はより創造的で戦略的な思考に集中する必要があります。
本書が提供する右脳的発想術は、まさにこのAI時代を生き抜くための「思考のOS」なのです。
あなたがこれまで培ってきた論理的思考力という強固な基盤の上に、創造的思考というエンジンを載せることで、部下からも上司からも信頼される、真の戦略リーダーへと成長できるでしょう。
今すぐ始められる実践ステップ
本書を読んだ後、まずは以下の3つから実践してみてください:
- 次回の企画会議で「そもそも論」を持ち出す
「この機能改善は必要ですが、そもそもユーザーは何を解決したいのでしょうか?」
2. 全く異なる業界の成功事例を調べる
自社の課題解決のヒントを、IT以外の業界から探してみる
3. 部下との1on1で感情移入を実践する
「君がこの状況だったら、どんな気持ちになる?」という質問から始める
これらの小さな変化が、やがて大きなイノベーションの芽を育てることになります。
論理思考という左脳の力に、創造思考という右脳の力を加えて、AI時代の真のリーダーとして飛躍しませんか?

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