部下が動かないのは信頼不足が原因か

部下に指示を出しても思うように動いてくれない、会議で意見を求めても誰も発言しない、チームの雰囲気がどこかギクシャクしている。そんな悩みを抱えていませんか?実は、これらの問題の根本原因は信頼関係の欠如にあるのです。越川慎司氏の『一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本』は、データに基づいて信頼関係を構築する具体的な方法を示してくれる一冊です。本書は単なる精神論ではなく、945人のマネジャーの行動データをAI分析した結果に基づいており、再現率71%という驚異的な実績を誇ります。

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データが証明した信頼関係構築の重要性

本書の最大の特徴は、感覚論ではなくデータに基づいている点です。越川氏は945人の一流マネジャーの行動を徹底的に分析し、その中から「自走するチーム」を作るための共通点を導き出しました。その結果、成果を上げているチームの根幹には必ず心理的安全性があることが明らかになったのです。心理的安全性とは、メンバーが失敗を恐れずに意見を表明し、挑戦できる環境のことを指します。この環境があるからこそ、チームメンバーは自律的に考え、行動できるようになるのです。

リーダーシップの研究において、信頼関係の重要性は以前から指摘されてきました。しかし本書が画期的なのは、その構築方法を具体的な行動レベルにまで落とし込んでいる点です。例えば、「信頼関係を築きましょう」という抽象的なアドバイスではなく、「対話の直前に相手のことを2分考える」という実践可能な行動を提示しています。このような具体性こそが、本書を他のリーダーシップ本と一線を画す要因となっています。

対話の5つのルールで関係性を変える

本書で紹介される「対話の5つのルール」は、信頼関係構築の核となる技術です。このルールは単なるコミュニケーションテクニックではなく、相手との関係性を根本から変える力を持っています。

第一のルールは対話の直前に相手のことを2分考えるというものです。これは一見簡単に思えますが、実際にやってみると意外と難しいものです。忙しい日常の中で、私たちはつい自分の言いたいことばかりを考えてしまいがちです。しかし、わずか2分でも相手の状況や気持ちに思いを馳せることで、対話の質は劇的に向上します。

第二のルールは最初のひと言で萎縮させないことです。リーダーの最初の言葉は、その後の対話の雰囲気を決定づけます。「なんでこんなこともできないの?」という言葉から始まる対話と、「最近どう?」という言葉から始まる対話では、メンバーの心の開き方がまったく違うのです。

第三のルールは感情共有できる空気をつくることです。仕事の話だけでなく、個人的な感情や悩みも共有できる雰囲気があると、チームの心理的安全性は高まります。実際、心理的安全性が高い職場では、業務連絡だけでなく、個人の内面に関する会話が多いというデータも示されています。

第四のルールはメンバーの行動と存在を承認することです。これについては次の章で詳しく見ていきます。

第五のルールは発問を意識することです。単なる質問ではなく、相手に考えさせ、共に課題を創り出す「発問」を意識することで、対話は一方的な情報伝達から、双方向の価値創造の場へと昇華します。

承認の力が部下の行動を変える

リーダーからの承認は、メンバーの士気を高める上で極めて重要です。本書では、具体的な「声かけトップ20」が紹介されており、その中には「○○してくれて、ありがとう、助かってるよ」「この視点はすごく新鮮だね」「その問題を解決できたのは、○○さんのおかげだよ」といった言葉が並びます。

これらの言葉は、感謝、評価、貢献の承認を示すものです。特に注目すべきは、これらがすべて具体的であるという点です。漠然と「よくやった」と言うのではなく、何がどう良かったのかを具体的に伝えることで、メンバーは自分の貢献を実感できるのです。

ある書評では、「押し付けられた感謝からは何も生まれない」という指摘がありました。形式的な感謝の言葉ではなく、心からの承認が必要なのです。小さな声かけの積み重ねが、メンバーの自己肯定感を育み、エンゲージメントを高めます。

優秀なリーダーの一人であるマイクロソフトの元上司は、「人前で褒める」ことを実践していました。越川氏は、人前で「越川さんはこれまでに来たメンバーでベストだよな」と言われた経験を振り返り、「1対1で褒められる以上に嬉しいものです」と述べています。

オープンな環境が生み出すイノベーション

健全なチームの指標として、メンバーが気軽に「今ちょっといい?」と声をかけられる文化の有無が挙げられています。これは、チーム内に心理的な壁がなく、円滑な情報共有と相互支援が行われている証拠です。

このようなオープンな環境を醸成するためには、リーダーが日頃から傾聴の姿勢を示すことが重要です。小さな相談にも真摯に対応することで、メンバーは「この人には何でも話せる」と感じるようになります。本書では「まずは30秒でいい。『小さな相談』を聞いてもらえると人は救われる」と述べられています。

実際、できるリーダーの共通点は、「仕事」よりも「人」に興味を持っていることだと越川氏は指摘します。メンバーに対して強い関心を持ち、その人自身に興味を示すことが、信頼関係構築の第一歩なのです。

信頼は目的ではなく手段である

本書で特に重要な指摘は、「働きやすさは土台であって目的ではない」「本当に大切なのは、違う意見をぶつけ合える関係性だ」という点です。これは、心理的安全性の構築が、単に居心地の良い組織を作ることではないことを示しています。

心理的安全性の真の目的は、メンバーが関係性の悪化を恐れることなく、建設的な意見対立を行える環境を整えることにあります。ある書評家は、過去に自身の意見に反対しつつも人格は否定しなかった上司の下で、最高の成績を収めたという経験を挙げています。

つまり、本書が説く信頼関係構築のテクニック群は、最終的に質の高い意思決定を生むための健全な衝突を可能にするための手段なのです。調和そのものが目的ではなく、より良い成果を生み出すための基盤として信頼が必要なのです。

科学的アプローチが可能にする再現性

本書の最大の強みは、その再現性の高さです。17957人が実践して再現率71%という数字は、これらの手法が特定の状況や人物に限らず、広く適用可能であることを示しています。

従来のリーダーシップ論は、カリスマ的な人物の経験談に基づくものが多く、「その人だからできた」という要素が強いものでした。しかし本書は、リーダーシップを一部のカリスマ的人物が持つ「アート」から、誰もが学び実践できる「サイエンス」へと転換させています。

この科学的アプローチは、現代のビジネス環境において特に重要です。リモートワークの普及など、働き方が大きく変化する中で、旧来のトップダウン型のリーダーシップではもはや通用しません。メンバー一人ひとりに寄り添い、フラットな関係性の中で能力を引き出す「共感・共創のリーダーシップ」が求められているのです。

越川慎司氏の『できるリーダーの基本』は、信頼関係の構築という普遍的なテーマに対して、データという強力な根拠を与えてくれます。部下が動かない、チームがまとまらないと悩んでいるリーダーにとって、本書は具体的な行動指針を示してくれる心強い味方となるでしょう。明日からすぐに実践できる「対話の5つのルール」と「承認の力」を活用して、あなたも自走するチームを作り上げてみませんか。

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NR書評猫739 越川 慎司著「できるリーダーの基本」

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