あなたは普段、SNSで誰かの一部分だけを見て「この人はこういう人だ」と決めつけてしまうことはありませんか。または、部下や同僚の失敗を見て、その人の全てを判断してしまったことはないでしょうか。
現代のIT企業で管理職として働く私たちにとって、人を正しく評価することは非常に重要なスキルです。しかし同時に、断片的な情報だけで他者を判断することの危険性も痛感している方も多いはず。
浅倉秋成著『六人の嘘つきな大学生』は、そんな現代社会の「切り取り」問題に鋭いメスを入れた傑作ミステリー小説です。この記事では、なぜこの作品が今のビジネスパーソンに必要な視点を提供してくれるのか、その魅力を詳しく解説します。
なぜ私たちは「表面的な情報」で人を判断してしまうのか
物語は、人気IT企業「スピラリンクス」の新卒採用最終選考が舞台。優秀な6人の大学生が内定を賭けたグループディスカッションに挑みますが、そこで彼らの「悪行」を告発する封筒が発見されます。
最初は悪人に見えた登場人物たちが、実は全く違う事情を抱えていたことが徐々に明らかになるのです。例えば、未成年飲酒を告発された波多野は、後に犯人ではないことが判明。お酒が苦手な嶌に無理やりワインを飲ませるように見えた矢代の行動も、実は思いやりから来ていたのです。
これは現代のビジネス現場でも同じことが起こっています。部下のミスを見て「能力が低い」と判断したり、同僚の行動を見て「協調性がない」と決めつけたりしがちです。しかし、その背景には私たちが知らない事情や理由があるかもしれません。
SNS時代に蔓延する「切り取り」の危険性
本作品が特に警鐘を鳴らしているのは、SNSにおける情報の断片化と文脈の欠如です。著者は「悪意ある人が誰かを陥れようと思えば、批判されそうなところだけ切り取って、悪人のレッテルを張ることもできる」と指摘しています。
私たち管理職も、日常的にこの問題に直面しています。メールやチャットでのやり取り、会議での発言、プロジェクトの成果物など、部分的な情報だけで部下や同僚を評価してしまう危険性は常に存在します。
特に、テレワークが普及した現在では、相手の全体像を把握することがより困難になっています。画面越しの限られた情報だけで判断することの怖さを、この作品は見事に描き出しているのです。
人間の多面性を理解することの重要性
作品中で最も印象的なのは「人は多面的であり、良し悪し、善悪などの二つの視点だけで語ることはできない」というメッセージです。これは、現代のマネジメントにおいても極めて重要な視点と言えるでしょう。
例えば、普段は温厚な部下が突然厳しい発言をした場合、その背景には何があるのでしょうか。家庭の事情、健康上の問題、職場でのプレッシャーなど、様々な要因が考えられます。表面的な行動だけで「性格が変わった」と判断するのではなく、その人の置かれている状況全体を理解しようとする姿勢が求められます。
物語では、嶌が兄の薬物依存症という重い秘密を抱えていたことが明かされます。このように、誰もが何らかの事情を抱えて生きているという現実を、私たちは忘れがちです。
管理職として学ぶべき「評価」の難しさ
本作品のもう一つの魅力は、企業の採用システムそのものへの批判的視点です。スピラリンクスが学生に内定者を決めさせるという「暴挙」は、現実の人事評価制度が抱える問題点を象徴的に描いています。
私たちが日々行っている部下の評価も、本質的には同じ困難さを抱えています。限られた時間と情報で、その人の将来的な可能性や適性を判断しなければならない。しかし、完璧な人間評価は不可能であることを認識することが、より良いマネジメントの出発点となります。
「将来的に何をやらせるのかは決まっていないけど、向こう数十年にわたって活躍してくれそうな、なんとなく、いい人っぽい雰囲気の人を選ぶ」という採用側の本音は、私たち管理職の評価基準の曖昧さを浮き彫りにしています。
現代社会を生き抜くための新しい視点
この作品を読むことで得られる最大の価値は、他者への理解を深める新しい視点です。情報化社会において、私たちは常に不完全な情報に基づいて判断を下さざるを得ません。しかし、その判断が相手の人生に大きな影響を与える可能性があることを忘れてはいけません。
特に、「たった一度の過ちや失言を責め立てられキャリアを追われる有名人が後を絶たないけど、1%を見て判断し棄て去っていないか? 99%は善行の多い凄くいい奴かもよ?」という問いかけは、現代の「キャンセルカルチャー」現象への警鐘として響きます。
私たち管理職も、部下の一度のミスや失敗で、その人の全てを否定してしまうことがないよう、常に多角的な視点を持つことが重要です。
浅倉秋成著『六人の嘘つきな大学生』は、単なるエンターテイメント小説を超えて、現代社会を生きる私たちに重要な気づきを与えてくれる作品です。情報の「切り取り」に踊らされることなく、人間の多面性を理解し、より良い人間関係を築いていくための知恵が詰まっています。
ぜひ一度手に取って、その鮮やかな構成と深いメッセージを体験してみてください。きっと、あなたの人を見る目が変わるはずです。

コメント