あなたは部下との会議で、こんな経験はありませんか?「せっかく良いアイデアを出したのに、相手に伝わらない」「資料を作ったのに、なかなか行動に移してもらえない」「チーム全体の生産性が上がらない」。実は、これらの問題は個人のスキル不足だけが原因ではありません。
組織全体のコミュニケーション力を底上げし、部下から信頼されるリーダーになるための具体的な方法論があります。本記事では、マッキンゼー出身の中川邦夫氏が著した『ドキュメント・コミュニケーションの全体観 下巻』から、個人技を組織力に変える「試合運び」の戦略をご紹介します。読み終わる頃には、あなたもチーム全体を変革できるリーダーへの道筋が見えてくるでしょう。
なぜ優秀な個人がいても組織は変わらないのか
多くの管理職が陥る罠があります。それは「優秀な人材を集めれば、組織は自然と強くなる」という思い込みです。
しかし現実は異なります。どんなに優れたドキュメント作成スキルを持つ人材がいても、その能力が組織全体に浸透しなければ、生産性の向上は限定的です。著者の中川氏は、この問題を「個人の能力に依存する状態の限界」として指摘しています。
例えば、あなたの部署に資料作りが得意な部下がいたとします。その人が作る提案書は分かりやすく、いつも会議で好評です。しかし、その人が異動や退職をしてしまったら?組織のコミュニケーション力は元に戻ってしまいます。
重要なのは、優れた方法論を「組織の標準」として定着させることなのです。
「試合運び」で組織文化を変革する4つのステップ
中川氏が提唱する「試合運び」とは、ドキュメント・コミュニケーション革新(DCI)を組織に導入し、定着させるための戦略的なロードマップです。
ステップ1:動機づけ – WIN-WINの関係性を明確にする
まず重要なのは、なぜ変革が必要なのかを全員に理解してもらうことです。会社の利益(効率化、生産性向上)と社員の利益(スキルアップ、評価向上)を両立できることを示します。
実際に、質の悪い資料が原因で会議が30分延長すると、年間で1,300万円もの超過コストが発生する可能性があります。この数字を示すことで、改善の必要性が明確になります。
ステップ2:全社イベント化 – 役割分担を明確にする
次に、変革を一過性の取り組みで終わらせないために、組織全体を巻き込みます。トップは方向性を示す「旗振り役」、管理職は意義を説く「宣教師」、一般社員は「ステップアップの機会」として捉える役割分担を明確にします。
ステップ3:日常化 – 評価と改善のサイクルを作る
優れた実践を評価し、ルール違反を取り締まる仕組みを構築します。これにより好循環が生まれ、新しい方法論が日常業務に根付きます。
ステップ4:新風土づくり – ポジティブな文化を醸成する
「こうしましょう」というポジティブなスタイルを組織全体に広め、時間を大切にする文化を醸成します。
管理職が実践すべき「宣教師」としての役割
あなたが中間管理職なら、この「試合運び」において最も重要な「宣教師」の役割を担います。
具体的には、部下に対して単に「資料の作り方を変えろ」と指示するのではなく、なぜその方法が有効なのか、どのような成果が期待できるのかを丁寧に説明し、導くことが求められます。
例えば、部下が作成した資料について、従来なら「分かりにくい」と指摘するだけだったものを、「この資料の目的は相手に何をしてもらうことですか?」「結論を最初に示して、その根拠を説明する構成に変えてみませんか?」といった建設的なアドバイスに変えていくのです。
このアプローチにより、部下は単なる技術的な改善ではなく、コミュニケーションの本質を理解できるようになります。
「解・動・早」の原則を組織に浸透させる方法
本書の核心となる「解・動・早」の原則(相手に内容を理解してもらい、行動してもらい、素早く実行してもらう)を組織に浸透させるには、具体的な実践例を示すことが効果的です。
従来の報告書型の資料では、「今週はタスクAとタスクBを実施しました」で終わってしまいます。しかし、「解・動・早」の原則に基づいた資料では、「現状、プロジェクト進捗率は50%です(事実)。このままでは納期に間に合わないリスクが80%です(解釈)。そこで、Bタスクを優先し、Cチームから2名のリソースを借りるべきです(行動提案)。具体的には明日午前中にCチームリーダーに打診します(具体的実行計画)」という構成になります。
この変化により、会議は単なる報告会から、具体的な意思決定と次のアクションを決定する生産的な場へと変わります。
成功事例に学ぶ組織変革のポイント
「試合運び」が成功した組織では、以下のような変化が見られます。
まず、ドキュメント作成の質が向上するだけでなく、作成時間も大幅に短縮されます。「仕事」(思考)と「作業」(実行)を明確に分離することで、本質的な価値創造に集中できるようになるからです。
また、会議の効率性も劇的に改善されます。参加者全員が「解・動・早」の共通言語を持つことで、議論が建設的になり、具体的な次のアクションが明確になります。
さらに重要なのは、この変化が部署全体の士気向上につながることです。自分たちの提案や報告が確実に相手に伝わり、実際の行動や成果につながる実感を得られるため、仕事に対するモチベーションが高まります。
今日から始められる3つの実践ポイント
この「試合運び」の考え方を、あなたが今日から実践できる具体的な方法をお伝えします。
1. 部下の資料に対する指導方法を変える
「分かりにくい」という指摘ではなく、「読み手にどのような行動を取ってもらいたいですか?」という質問から始めましょう。これにより、部下は資料の目的を明確にする習慣が身につきます。
2. 会議の進行方法を改善する
各議題について、必ず「誰が」「いつまでに」「何をするのか」を明確にしてから次の議題に移る習慣を作りましょう。これが「解・動・早」の実践です。
3. 成功事例を積極的に共有する
部下が「解・動・早」の原則に基づいて優れた資料を作成したら、チーム全体にその事例を紹介し、なぜ効果的だったのかを説明しましょう。これが組織学習の第一歩となります。
あなたが変革のリーダーになる理由
中間管理職であるあなたには、組織を変革できる絶好のポジションにいるという大きなアドバンテージがあります。
トップの方針を理解し、現場の課題も把握している立場だからこそ、「試合運び」の戦略を効果的に実行できるのです。部下からの信頼を得ながら、組織全体の生産性向上を実現することで、あなた自身の評価向上にもつながります。
さらに、この経験は家庭でのコミュニケーション改善にも応用できます。家族との会話でも「相手に何を理解してもらい、どのような行動を取ってもらいたいのか」を意識することで、より良い関係を築けるでしょう。
『ドキュメント・コミュニケーションの全体観 下巻』は、単なるスキルアップ本ではありません。あなたが真のリーダーとして組織を変革し、部下から信頼される上司になるための戦略書なのです。この機会に、組織変革の第一歩を踏み出してみませんか。


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