会社の業績が好調なとき、思わぬ落とし穴が待ち構えています。特に採用や取引先との関係において「情」が入り込むと、冷静な判断が鈍り、後々大きな代償を払うことになりかねません。なぜベテラン経営者たちは「ビジネスに情は不要」と口を揃えるのでしょうか。その真理と実践的な対策を探ります。
ビジネスにおける「情」の罠とその代償
「あの人は人柄がいいから」「長年お付き合いがあるから」-こうした感情的な理由で重要な判断を下すことは、ビジネスにおいて危険信号です。特に企業が好調なときこそ、客観的な判断を鈍らせる「情」の影響に注意が必要です。
先に結論を述べると、感情の表出は実現したい未来に達するための主体的な思考の結果であるため、仕事において感情は必要と考えられます。ただし、全てにおいて主体的な思考の結果ではないため、両者を区別する必要があります。
しかし、数字に影響するビジネスにおいては「情」に流されてはいけません。経営判断や採用活動において感情的になると、正常な判断力が失われ、企業の存続を危うくするリスクが生じるのです。
なぜ「情」はビジネス判断を誤らせるのか
人事評価、意思決定など判断が求められる場面で、自身の感情が大きく影響する「感情バイアス」が存在します。個人的な好き嫌い、過去の経験、ストレスなどが原因となり、論理的かつ客観的な判断ができなくなります。
例えば、採用面接では「ハロー効果」という心理現象も働きます。出身大学や容姿、共通の趣味など、仕事能力と直接関係ない特徴に評価が左右され、本来の適正な判断ができなくなるのです。
歴史に学ぶ「好調期の落とし穴」
バブル期の企業行動は、好調期の危険性を象徴しています。過剰な採用やリゾート開発事業など不動産関連融資の拡大が、バブル崩壊とともに企業経営を直撃しました。
第二地銀も規模拡大のため、質の悪い貸出先にも積極的に融資を行わざるを得ず、バブル崩壊の影響をまともに受け、不良債権比率が高まりました。この歴史から、好調期こそ冷静な判断が必要だと学べます。
バブル崩壊後の景気後退局面で就職活動をした「就職氷河期世代」の苦難も、実はバブル期の過剰採用の反動です。景気低迷による業績悪化というよりは、バブル期の過剰採用の反動が、各企業を採用抑制に向かわせていました。
採用における「情の罠」の実例
人柄採用のリスク
「人柄がいい=仕事ができる」という思い込みは危険です。人当たりが良く明るい性格の人を営業経験者として採用したものの、3ヶ月経っても目立った成果を上げられず、結局1ヶ月ほどで退職してしまった事例もあります。
また、スキルを持っている人材を採用したが、その持っているスキルと業務に乖離があり、まともに業務に携わることなく2ヶ月足らずで離職してしまった例もあります。このように、表面的な印象や限られた情報だけで判断すると、ミスマッチによる早期退職リスクが高まります。
リスク人材がもたらす悪影響
リスク人材(ルールを守らない問題社員や定着しない人材)を採用すると、企業全体に悪影響をおよぼします。社内の士気低下、ハラスメントの発生、取引先でのトラブル、周囲の社員への負担増加などが起こり、最悪の場合「コンプラ違反倒産」に至ることも想定されます。
「情」を排して判断する方法
採用・評価プロセスの客観化
採用や人事の評価項目を細分化し、評価基準や方法を細かく定義することで、評価者の「ハロー効果」による評価のブレを少なくできます。また、定量評価を軸とし、数字の達成のみで評価することで、感情が介入する余地を減らせます。
直属の上司だけでなく、同僚や部下、他部署の社員など、立場の違う複数の評価者が対象者を評価する「360度評価」も効果的です。多様な意見を比較することで、評価の客観性を高められます。
増員判断の合理化
人員を増やす前に、教育システムの構築と業務効率の改善を行うことが重要です。教育システムがしっかりしていないと、いつまでも部下は仕事を覚えず、何度も上司や先輩に確認することになり、かえって忙しくなってしまいます。
また、効果のない仕事を洗い出して廃止することも大切です。増員する前に「この仕事は何を生み出していますか?」と問い、付加価値の低い業務を特定・廃止することで生産性向上を図りましょう。
感情に流されない意思決定のテクニック
情報収集と分析の徹底
感情的な判断を避けるには、客観的な情報を丁寧に収集し分析することが重要です。特定の問題について関連データを幅広く集め、詳細に分析することで、主観的な感情に惑わされることなく、冷静で公平な判断ができます。
他者との意見交換
自分の考えだけでなく、周りの人が持つ異なる視点を理解することで、物事をより客観的に捉えられます。様々な立場の人から意見を集め、自分の考えと比較検討することで、感情的な判断を避け、より冷静な判断ができるようになります。
感情のコントロール
感情的な判断を下す前に、自分の感情を冷静に整理することが重要です。怒りや不安といった感情が高まっている際には、一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせましょう。感情的な反応をコントロールすることは簡単ではありませんが、慣れと努力によって身につけていくことができます。
「情」を活かすべき場面もある
すべての場面で感情を排除すべきというわけではありません。一時的に損をしてでも情に流された方がいいケースとして、「人」とその人の「パフォーマンス」に将来性を見込める場合があります。
鶴の恩返しのようなもので、一時的に数字に悪影響が出たとしてもフォロー可能で、かつその選択自体が将来的に2倍、3倍となって返ってくるのであれば、情に流されるのも良いでしょう。
また、感情を適切に取り入れることで、創造性や情熱を引き出すこともできます。感情を共有することでチームの絆を深め、より良いコミュニケーションを築くことも可能です。
まとめ:冷静な判断力こそ経営者の武器
ビジネスの世界では、冷静沈着な判断力が重宝されるのには理由があります。経験豊富なビジネスパーソンが「ビジネスに情は不要」と言うのは、多くの失敗や教訓から導き出された真理といえるでしょう。
しかし、感情を排除しすぎることで創造性や革新性が失われる危険性もあります。重要なのは、感情と理性のバランスを見極め、特に数字に関わる重要な意思決定では客観的・合理的な判断を優先することです。
「調子がいい時ほど足元をすくわれる」-この言葉を胸に、特に好調期こそ冷静な判断力を保ち、感情に流されない意思決定ができるよう、常に自己の感情と向き合うことが大切です。
参考情報:
ビジネスと感情の関係 https://note.com/shudo_edworks/n/n46b8011f2fc0
ハロー効果とは https://saponet.mynavi.jp/column/detail/ty_keiei_t03_halo-effect_220801.html
感情的決めつけとビジネス https://hipstergate.jp/column/emotional-decision/

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