経営者にとって財務諸表は会社の健康診断書のようなものです。BSとPLをきちんと理解できない経営者が会社を長期的に成功させることは極めて難しいでしょう。単に預金残高だけを見て経営判断をしているようでは、いずれ資金繰りに行き詰まる危険性があります。財務諸表は難しいものではなく、基本を押さえれば経営の意思決定に大いに役立つ強力なツールとなります。今回は財務諸表の重要性と理解することで得られるメリットについて解説します。
BSとPLの基本:財務諸表が語る会社の真実
BSとPLの違いを理解する
BSとPLは企業の財務状況を示す重要な書類ですが、それぞれの目的や内容には大きな違いがあります。PLは「会社がどれだけ儲かっているか」、BSは「会社の財務状態がどれくらい健全か」を示すものです。これらを適切に活用することで、利益の最大化と資金繰りの安定化を実現することが可能になります。
PLは「損益計算書」と呼ばれ、一定期間(通常1年)の会社の経営成績を示します。売上から費用を引いて利益を計算するのがPLの役割です。主な構成要素は以下の通りです:
- 売上:商品やサービスの販売で得た収益
- 費用:人件費、材料費、家賃などの支出
- 利益:売上から費用を差し引いた結果
一方、BSは「貸借対照表」と呼ばれ、ある時点での会社の財産状況(資産、負債、純資産)を示します。以下の要素で構成されています:
- 資産:現金や預金、売掛金、設備などの「持っているもの」
- 負債:借入金や買掛金などの「支払い義務があるもの」
- 純資産:資産から負債を差し引いたもの、つまり会社の「自己資本」
この2つの財務諸表を組み合わせて分析することで、会社の健全性や成長性を正確に把握できるようになります。
なぜ「黒字なのに倒産」が起こるのか
預金残高だけでは見えない経営危機
帝国データバンクの調査によると2024年に全国で休業・廃業、解散した企業は69,019件と、前年から16.8%増加し、2016年以降で最多件数を更新しました。また、休廃業した企業のうち51.1%が直近損益で黒字の企業でした。これは決算上は黒字なのにもかかわらず、倒産してしまう「黒字倒産」という現象が珍しくないことを示しています。
黒字倒産が起きる主な理由は、「利益とキャッシュ(資金)のズレ」です。企業間取引においては、商品の販売後、すぐにその代金が支払われるとは限りません。具体的には以下のような要因が黒字倒産を引き起こします:
- 売掛金の未回収:売上は立っているが、入金が遅れる
- 過剰在庫:商品は作ったが、現金化できていない
- 過剰投資:設備投資などで資金を使い果たす
特に在庫管理に問題がある企業は深刻なリスクを抱えています。例えば、子供向け服飾雑貨ブランド「motherways」を運営していたマザウェイズ・ジャパンは、売上不振により冬物のキャリー在庫が例年の1.5倍にまで膨らみ、全在庫が20億円に上りました。決算上は黒字でしたが、資金繰りに行き詰まって経営破綻しました。
財務リテラシーが企業経営にもたらす効果
財務知識が経営判断を変える
財務知識の向上は、企業経営のあらゆる側面においてプラスの影響をもたらします。具体的には以下のような効果が期待できます:
- 意思決定の質の向上:財務知識が豊富であれば、経営者はより正確で迅速な意思決定を行うことができます。新規事業への投資判断や設備投資の是非を検討する際、ROI(投資利益率)やIRR(内部収益率)といった財務指標を適切に理解し、分析する能力が活かされます。
- キャッシュフローの管理改善:資金繰りの見通しを立てやすくなり、必要な時に資金が不足するリスクを回避できます。また、収支のバランスを保つための予算編成や、資金調達のタイミングを適切に判断できるようになります。
- コスト管理と利益の最大化:固定費と変動費の違いを把握し、無駄なコストを削減することで、利益の最大化を図ることができます。購買部門と協力して仕入れコストを削減したり、効率的な在庫管理を行うことでコストを抑えることが可能です。
- リスク管理の強化:財務データを分析することで、倒産リスクを早期に察知し、事前に対策を講じることができます。また、リスク管理の一環として、保険やヘッジ手段を活用することも可能です。
PL経営とBS経営のバランスを取る
短期の成果と長期の安定性
企業経営にはPL経営とBS経営のバランスが重要です。PL経営は売上・利益を最優先し、短期的な成長を重視します。一方、BS経営は資産・負債・投資を意識し、長期的な企業価値を高めることを重視します。
今、経営は「PL」から「BS」の時代にシフトしています。PLとはProfit and Loss Statement、つまり、売り上げ・費用・利益を記した損益計算書のことです。しかし、PLだけを重視した経営では、短期的な成長は達成できても、長期的な企業価値の向上は難しくなります。
PLとBSのバランスを取るためには、以下のような点に注意する必要があります:
- 短期の売上・利益目標と、長期の財務健全性のバランスを考える
- 投資判断においてROI(投資収益率)だけでなく、バランスシートへの影響も検討する
- 過剰な在庫や固定資産を持たず、資産効率を高める
多くの中小企業経営者が「財務諸表は難しい」「専門家に任せればよい」と考えがちですが、実は基礎的な理解を持つだけで経営の意思決定に大いに役立ちます。
資産管理の意外な落とし穴
預金だけに依存する危険性
経営と同様に個人の資産管理においても、預金だけに頼ることにはリスクがあります。銀行預金は一見安全そうに見えますが、低金利やインフレ、さらには銀行破綻のリスクを考えると、預金だけに頼るのは非常に危険です。
例えば、預金に期待できる利息は非常にわずかで、1,000万円を銀行に1年間預けても、増える利息はたったの1,000円程度にすぎません。インフレが進むと、たとえ通帳の数字が増えても、そのお金で買えるものは減少していきます。
また、銀行が破綻すると、預金は「ペイオフ」と呼ばれる制度に基づき、1つの銀行につき1,000万円までしか保証されません。仮に1,000万円以上預けていた場合、その超過分は返ってこない可能性があります。
財務知識を身につけるための具体的アプローチ
今からでも遅くない財務勉強法
財務知識を高めるためには、以下のようなステップが有効です:
- 基本的な財務用語や計算方法を学ぶ
- PLとBS、キャッシュフロー計算書の基本構造を理解する
- 主要な財務指標(売上高利益率、ROA、ROEなど)の意味を把握する
- 自社の財務諸表を実際に分析する習慣をつける
- 月次・四半期ごとに財務状況をチェックする
- 前年同期と比較して変化を把握する
- 専門家のアドバイスを受ける
- 税理士や会計士と定期的にミーティングを持つ
- 財務分析の結果について意見を求める
- 継続的な学習を心がける
- 財務・会計に関する書籍やセミナーで知識を更新する
- 業界特有の財務指標や傾向について理解を深める
まとめ:財務リテラシーは経営の必須スキル
BSやPLを理解できることは、経営者にとって単なる「あれば良いスキル」ではなく、「必須の能力」です。預金残高だけを見て経営判断をしていては、黒字倒産のリスクを見逃し、会社の存続を危うくする恐れがあります。
財務諸表は難解に見えるかもしれませんが、基本を押さえれば経営の羅針盤として活用できます。今日から財務知識の習得に取り組み、より安定した経営基盤を築きましょう。
財務知識の向上は、企業経営のあらゆる側面においてプラスの影響をもたらします。中小企業経営者は、財務知識を深めることで、より強固な経営基盤を築き、持続的な成長を遂げることが可能となります。
【参考サイト】
・LOGLASS「BS(貸借対照表)とPL(損益計算書)のすべて:3分で理解できる」
https://www.loglass.jp/pal/post/100055
・IPOB「初級編 第1回: 財務諸表とは何か?なぜ中小企業経営者が理解すべき」
https://ipob.co.jp/posts/post74.html
・マイナフィールド「PLとBSの違いとは?中小企業経営者が知るべき財務管理と資金繰り」
https://minerfield.com/column/small-business_plbs/

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