去年アメリカのケネディ宇宙センターから打ち上げられた世界初の木造人工衛星から5ヶ月が経過し、現在は改良型2号機の開発が進められています。宇宙開発の歴史を変える可能性を秘めたこの革新的プロジェクトの最新状況と、その意義について詳しく解説します。
木造人工衛星誕生の背景と環境への配慮
「人工衛星の数が増えてくると、地球大気圏に再突入したときの酸化アルミニウムがどんどん増えてしまう。今まで考えられなかったような異常気象が起こるだろうと」と語るのは、このプロジェクトを主導する宇宙飛行士で京都大学研究員の土井隆雄さんです。従来の金属製人工衛星は役目を終えて大気圏に突入し燃え尽きると、酸化アルミの粒子が残ります。この粒子が大気中に蓄積すると太陽光を反射して気温が下がり、異常気象を引き起こす可能性があるのです。
そこで土井さんが注目したのが「木」でした。「木材の場合は、二酸化炭素と水に変わるだけで水蒸気になって、きれいに燃えて、灰みたいなものが残らない。木造人工衛星にすれば、地球大気圏を汚さないので、いくら打ち上げても大丈夫だと」と土井さんは説明します。環境への配慮が木造人工衛星開発の大きな動機となっているのです。
「リグノサット」1号機の挑戦と結果
約10cm四方、重さは1kgほどの超小型衛星である木造人工衛星は、木を指すラテン語『Ligno(リグノ)』と人工衛星の『Satellite(サテライト)』を組み合わせ、『LignoSat(リグノサット)』と名付けられました。
2023年12月に京都大学の研究室で開発が進められ、2024年に打ち上げられた1号機は、残念ながら通信できないまま、2025年4月4日に地球の大気圏に再突入してその一生を終えました。側面に取り付けられたワイヤー状のアンテナが宇宙空間でうまく開かなかった可能性が指摘されています。
しかし、土井さんは「木造人工衛星が宇宙空間でちゃんと存在できるのか確かめるのが、一番の目標だった。そのままの姿で宇宙空間に存在していたので『やった』と思いました」と前向きに評価しています。木は宇宙空間でも十分通用することが確認されたのです。
日本の伝統技術を活かした製造方法
木造人工衛星の製造には、日本古来の技術が活用されています。「指物」と呼ばれる技術で、釘やボルトを使わずに木材を組み上げています。
「こういう凸凹があって。板を(穴にはめて)ぎゅっとずらして寄せる。組んでしまうと座ってもびくともしない」と滋賀県大津市の木工工房「黒田工房」の臼井浩明代表は説明します。力のかかる方向などによって凹凸の形や組み方を変え、強度を保ちます。この技術を使うことで、温度変化の激しい宇宙環境でも耐えられるようになったのです。
2号機開発の最新状況と改良点
1号機の教訓を活かし、現在開発中の2号機ではアンテナ部分を大きく改良しました。土井さんは「1号機と同じようにアンテナをこの面に持っていますけれども、木造人工衛星の内部にアンテナをいれようと」と説明します。
1号機は宇宙空間に放出されたあとアンテナが開いて通信する仕組みでしたが、その過程で問題が発生した可能性があります。そこで2号機ではアンテナを衛星の内部に入れることで、宇宙空間で開く必要がなくなり、トラブルを回避できるようにしました。これは素材が電波を通す「木」だからこそ実現できたアイデアです。
アンテナを内蔵したため、2号機の大きさは1号機の倍になりました。現在はロケットの振動に耐えられるかどうかの試験や、宇宙環境を再現した空間での動作確認など、さまざまな検証が重ねられています。
木造人工衛星の将来性と展望
「うまくいけば、木造人工衛星の実用化に向かって非常に大きな一歩になる。地球の環境をきれいなままでおけるのが木造人工衛星。地球近傍(近く)はそういう衛星に限ることになると思います」と土井さんは展望を語ります。
2号機の打ち上げは2027年度を目標としています。成功すれば、人工衛星による環境負荷を大幅に減らす可能性を秘めています。
木材の宇宙での可能性
住友林業の筑波研究所マネージャー・苅谷健司さんは「宇宙空間は究極のストレス環境です。しかし、ストレスを強く感じる空間でこそ、自然素材である木が効果を発揮します。また、10万年分の放射線をあてた実験でも、木材の組織自体にほとんど変化が生じないことも明らかになっています」と木材の可能性について語っています。
将来的には、木質空間による宇宙飛行士のストレス軽減効果も期待されています。さらに、月や火星などへの植林という夢も広がっています。
木造人工衛星が切り開く未来
木造人工衛星の開発は、環境に優しい宇宙開発の先駆けとなる可能性を秘めています。金属製人工衛星による宇宙ゴミ問題が懸念される中、木材という自然素材を活用することで、持続可能な宇宙開発の道を切り開こうとしているのです。
2号機の開発がさらに進み、木造人工衛星が実用化されれば、宇宙開発と環境保全を両立させる新たな技術として世界中に広がっていくかもしれません。地球環境を守りながら宇宙開発を進める、この革新的なプロジェクトの今後に注目です。
参考情報
- MBSニュース https://www.mbs.jp/news/feature/kansai/article/2025/05/106260.shtml
- TBSニュース https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1891736
- 時事ジャーナル https://jisin.jp/domestic/2407474/

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