光をビームとして空間に照射し、データを伝送する次世代技術「光空間通信」で、NECが国内最長記録となる10km超の通信に成功しました。この革新的な技術は、災害時の緊急通信や高セキュリティが求められる場面で活躍が期待されています。光ファイバーのように物理的な配線が不要で、電波より高速大容量という特徴を持つ光空間通信の最新成果と未来の可能性について詳しく解説します。
光空間通信とは?電波に頼らない革新的通信技術
光空間通信(FSO:Free Space Optical communications)は、光ファイバーなどの物理的な経路を介さず、レーザーなどの光ビームを用いて空間上でデータを送受信する技術です。一般的な無線通信が電波を使うのに対し、光空間通信は文字通り「光」を使って情報を伝達します。
この技術の最大の特徴は、指向性が高い光のビームを使うことで、5G通信などの電波を用いた通信と比べて高速かつ大容量の無線通信が可能になることです。また、ビームが広がらないため、第三者による傍受のリスクが低く、通信の干渉や混雑が起こりにくいという大きな利点があります。
FSO通信は基本的に、以下の4つのステップで実現されます:
- 搬送波の生成:近赤外線または赤外線レーザーで特定の周波数の搬送波を生成
- キャリアの変調:データを搬送波に載せる過程
- 信号の検出:受信機がデータを検出
- データの分析:検出したデータを処理して情報を復元
光空間通信は、RF(電波)と光ファイバー伝送の両方の代替手段として期待されており、特に光ファイバーの敷設が困難な場所での活用が見込まれています。
NECが達成した国内最長10km超の通信成功の詳細
日本電気株式会社(NEC)は2025年4月25日、地上で国内最長となる10km超の光空間通信に成功したことを発表しました。これは、これまで情報通信研究機構(NICT)が実証した7.8キロメートルを上回る記録です。
今回の実証実験は、長距離試験として栃木県那須塩原市で実施され、10km以上離れた地点間での光空間通信装置による通信が行われました。この試験では、長距離でも双方向の光ビームの自動捕捉・追尾が正しく機能し、通信できることが確認されました。
さらに、高度差のある地点間での通信実験も実施されました。具体的には、地上350mにある東京スカイツリー展望台の屋上と、約3km離れた地上との2地点間で光空間通信実証が行われました。この実験では、高度差がある場合でも通信が可能であることが確認され、異なる高度での大気の揺らぎが通信に与える影響についても重要なデータが得られました。
光空間通信がもたらす3つの革新的メリット
高速大容量通信の実現
光空間通信は、通常数ギガヘルツの範囲で実行されるRF変調と比較して、近赤外線から赤外線領域(780~1600nm)の波長を使用します。この大幅に高い周波数により、はるかに広い帯域幅が確保でき、データ伝送速度が飛躍的に向上します。
セキュリティ面での圧倒的優位性
光ビームは指向性が非常に高く、ポイントツーポイントで送信されるため、電波のように広範囲に拡散しません。そのため、第三者が通信を傍受する可能性が大幅に低下し、機密性の高い情報のやり取りに適しています。
設置の柔軟性とコスト削減効果
光ファイバーの敷設が困難な地域や、災害時の緊急通信などにおいて特に威力を発揮します。光ファイバー通信は密集した都市環境では効率的ですが、ノード間の距離が離れると設置コストが急騰する可能性があります。光空間通信はこの問題を解決し、地球上の到達困難な地域や遠隔地との通信に有効です。
光空間通信の課題と最新の解決アプローチ
光空間通信の最大の課題は、大気条件による影響です。距離が伸びるほど大気の揺らぎが通信に大きな影響を与えることや、高度で異なる大気の揺らぎの把握が難しいことから、安定した通信の確保に課題がありました。
また、雲や雨による光の散乱や吸収、光軸の照準調整による瞬間的な切断なども問題とされてきました。これらの課題に対処するため、特別なトランスポートプロトコル「TCP-FSO」など、光空間通信に最適化された技術が開発されています。
さらに、最近の技術革新として、C-RED 3と呼ばれる高速波面センサーを使用した補償光学ループが導入されています。これにより、大気の揺らぎによる影響を検出し、リアルタイムで補正することが可能になっています。
光空間通信の実用化へのロードマップと未来展望
NECは今回の成功を足がかりに、通信品質のさらなる向上に取り組むとともに、現在約2立方メートルある通信装置のサイズを、1人で持ち運べる程度にまで小型化する計画を進めています。最終的には2028年の製品化を目指しており、ドローンへの搭載など、より汎用性の高い活用方法を視野に入れています。
応用領域としては、主に以下の分野での活用が期待されています:
- 光ファイバー敷設困難な場所での通信: 山間部や離島など、従来のインフラ整備が難しい地域
- 災害時の緊急通信: 地震や豪雨で通信インフラが損壊した際の代替手段
- 高セキュリティが必要な通信: 機密性の高いデータ転送や軍事通信
- 宇宙・衛星間通信: 人工衛星間や地上-衛星間の通信
特に衛星通信の分野では、すでに「地上(地球局)-人工衛星間」や「人工衛星-人工衛星間」のレーザー通信として実用化が進んでおり、地上での技術進展とともに宇宙通信の革新も加速しています。
光空間通信が切り拓く未来の通信環境
NECによる国内最長10km超の光空間通信成功は、次世代通信技術の大きな一歩と言えるでしょう。この技術の発展により、これまで通信インフラの整備が難しかった地域へのブロードバンド提供が可能になったり、災害時の通信手段が確保されたりと、社会的なインパクトは計り知れません。
光空間通信は単に既存の通信技術の代替というだけでなく、その高速性・セキュリティ性・柔軟性によって、これまでにない新たな通信サービスや応用を生み出す可能性を秘めています。例えば、ドローンから高精細映像をリアルタイム転送する用途や、IoTデバイスの遠隔制御など、様々な分野での革新が期待できます。
通信技術の歴史は常に「より速く、より安全に、より自由に」という方向へ進化してきました。光空間通信はその流れを汲む最先端技術であり、NECの成功は日本の技術力の高さを世界に示すとともに、私たちの通信環境が近い将来劇的に変わる可能性を示唆しています。
次世代の通信技術に関心のある方は、この光空間通信の発展に注目していくことをおすすめします。
参考情報
- INTERNET Watch https://internet.watch.impress.co.jp/
- 日経クロステック https://xtech.nikkei.com/
- 三技協 LED通信ブログ https://www.sangikyo.co.jp/

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