半導体製造における「後工程」と呼ばれる分野が今、大きな注目を集めています。台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出を契機に、半導体の組み立てや検査を担当する後工程企業が積極的な設備投資を進め、技術革新の波が広がりつつあります。前工程での技術革新が限界に近づく中、なぜ後工程が半導体産業の新たな主役となりつつあるのか、その可能性と日本企業のチャンスについて詳しく解説します。
半導体製造における「前工程」と「後工程」の違い
半導体製造は大きく2つの工程に分けられます。「前工程」と「後工程」です。それぞれの特徴を理解することで、現在起きている半導体業界の変化が見えてきます。
前工程は、シリコンウェハーに微細な回路を書き込む工程です。この工程では、フォトリソグラフィーやエッチングなどの技術を駆使して、ミクロン単位の精度で回路をウェハー上に形成します。TSMCは、この前工程の受託製造に特化した世界最大手企業として知られています。
一方の後工程は、前工程で形成されたウェハーを個別のチップに切り出し、製品として完成させるプロセスです。具体的には以下のステップが含まれます。
- ダイシング:ウェハーを個々のチップに切断する
- マウンティング:チップを基板に取り付ける
- ワイヤーボンディング:チップと基板を金属ワイヤーで接続する
- モールディング:チップを樹脂で包み込み、保護する
- 検査・試験:製品の動作確認や品質チェックを実施する
この後工程は、台湾の日月光(ASE)グループが最大手で、同社は2024年に北九州市での拠点新設を視野に市と土地取得の仮契約を結んでいます。
後工程が注目される理由とは?前工程技術の限界
後工程企業で設備投資が加速している最大の理由は、前工程の技術革新が限界に近づいているからです。これまでの半導体技術は「ムーアの法則」に沿って、回路の線幅を狭めることで集積度を高める「微細化」が中心でした。
しかし、現在ではその微細化に物理的・コスト的な限界が迫っています。人工知能(AI)向けなどで需要が伸びる半導体は常に性能強化が求められますが、書き込む回路のさらなる微細化は困難になってきています。
一方で後工程には、まだ進化の余地が残されているのです。半導体の性能向上を実現するための新たな方法として、後工程技術の革新が注目されています。
後工程企業の積極投資事例
大分県デンケンの最新設備導入
大分県由布市に本社を置くデンケンは、半導体の組み立てなどを得意とする企業で、約40年にわたって後工程事業を展開しています。同社は今年、杵築市の工場に建屋の増設と最新鋭の半導体解析装置の導入に計10億円を投じました。
この最新鋭の装置は、極めて小さい半導体回路も検査できる高性能なもので、4月中旬には従業員が大型機械で半導体の検査やテストを行っている様子が確認されています。
デンケンの上野裕喜・エレクトロニクス事業部長は「国内で先端半導体の工程に対応できる企業は少ない。培った知見を生かし、国内サプライチェーン(供給網)の一翼を担いたい」と話しています。
米アムコー・テクノロジーの日本初研究開発拠点
後工程の受託製造で世界シェア(市場占有率)2位の米アムコー・テクノロジーは今春、日本では初めてとなる研究開発拠点を福岡市に設けました。同社の日本法人は大分県の半導体企業が起源で、九州では福岡、大分、熊本県に組み立て拠点があります。さらに大分や熊本では拠点増強も計画しています。
日本法人の川島知浩社長は「後工程がなければ半導体は完成できない。TSMC熊本進出は大きなチャンスだ」と期待を込めています。
後工程技術の革新:3D実装とチップレット技術
後工程技術の革新としては、「3D実装」と「チップレット技術」が特に注目されています。
3D実装は、回路が書き込まれた半導体を立体的に重ね、性能の向上を図る技術です。従来の平面上に並べる手法に比べて消費電力の低減にもつながるとされています。熊本大学は、この技術の研究を進めており、2023年に熊本県や地元企業と共同研究体を作って課題解決を急いでいます。
チップレット技術は、複数の半導体チップを組み合わせて相互接続し、1つのパッケージに収める技術です。微細化に頼らず、より低いコストで半導体の性能を向上させることができるとして高い期待が寄せられています。
福岡県は、この技術に早くから着目し、2011年に国内唯一の公的機関となる「三次元半導体研究センター」を糸島市に開設しています。
TSMC熊本進出の意味と日本企業のチャンス
TSMCが熊本県に工場を建設する理由は、県内に半導体企業が集まっているからです。熊本工場は約1兆2900億円の投資額で、東京ドーム4.5個分の広さを持ち、関連企業からの出向などを含め約1,700人もの労働者が就業する予定です。
九州経済調査協会の分析によると、新工場の開所により2022年から2031年の10年間で約6.85兆円の経済波及効果が熊本県内に生じる見込みとされています。
TSMCのような世界的企業の日本進出は、日本の半導体産業にとって大きなチャンスです。特に後工程用の製造装置や材料などで高い優位性を持つ日本企業にとっては、技術力を活かせる絶好の機会といえるでしょう。
日本企業の強みと今後の展望
日本企業は、半導体産業のうち製造装置や材料の分野で高い優位性を有しています。特に、露光や成膜などの化学反応による加工が中心の前工程に比べ、切断や封止などの機械的な加工プロセスが多い後工程において強みを発揮する日本企業が多く存在します。
過去に日本企業が微細化技術で世界をリードすることは難しくなりましたが、技術の力点が変化したことで、日本は再び半導体技術の最前線となりつつあります。
半導体産業に詳しい三菱総合研究所の高橋知樹・主席研究員は「経済安全保障の観点からも、後工程の国内強化は今後も進むだろう。九州は産業集積で利点があり、効率化や技術開発に向けて業種を超えて連携し、国際競争力を高める必要がある」と指摘しています。
後工程企業が直面する課題
しかし、後工程の発展には課題もあります。その一つが人材の確保です。後工程は、半導体製品の大きさや形状などが多岐にわたるため前工程より人手がかかります。しかし、国内では「脚光を浴びるTSMCに比べ、後工程は認知度が不足している」のが実情だと関係者は指摘しています。
また、自動化の遅れも課題です。産業機械メーカーの平田機工(熊本市)や素材製造大手など国内の半導体関連企業は昨年、米インテルとともに「半導体後工程自動化・標準化技術研究組合(SATAS)」を発足させました。自動化技術を確立させれば、人件費の安さなどから中国や東南アジアに多い後工程工場を国内に増やせるとみて共同研究などを進めています。
まとめ:後工程の重要性が高まる半導体産業
半導体製造の後工程は、これまで前工程ほど注目されてきませんでしたが、前工程の技術革新が限界に近づいている現在、その重要性が増しています。TSMCの熊本進出を契機に、日本の後工程企業は設備投資を加速させ、チャンスを掴もうとしています。
後工程用の製造装置や材料などで高い優位性を持つ日本企業にとって、後工程市場の拡大は、日本の半導体産業全体の成長につながる大きな機会です。効率化や技術開発に向けた業種を超えた連携を進め、国際競争力を高めることが今後の課題となるでしょう。
半導体は私たちの生活に欠かせない存在です。スマートフォンや自動車、家電製品など、あらゆる電子機器に使われています。その製造における「後工程」の技術革新は、より高性能で信頼性の高い製品を私たちにもたらしてくれるでしょう。
参考情報
- Yahoo!ニュース|半導体「前工程」の技術革新は限界だが、「後工程」は進化の余地
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