毎年の健康診断、特に内視鏡検査を「面倒くさい」「時間がない」と先延ばしにしていませんか。経済評論家の山崎元氏も、実はそうした一人でした。長年お酒を嗜んでいたにもかかわらず、「忙しい」を理由に内視鏡検査を避け続けた結果、がんが発見されたときにはすでにステージIIIという進行状態でした。本書『がんになってわかった お金と人生の本質』は、そんな山崎氏が自らの経験から導き出した、健康とお金、そして人生の本質についての率直なメッセージが詰まった一冊です。
公的医療制度の「本当の実力」を知っていますか
「がん保険に入っていないと破産する」と考えていませんか。実は、山崎氏の実体験がそれを覆します。山崎氏はがんと診断されながらも、民間のがん保険には一切加入していませんでした。そして、実際の治療費を冷静に計算したところ、個室代などの保険適用外費用を除いた実質的な治療費は約75万円だったのです。
この金額は、日本の充実した公的医療保険制度、特に高額療養費制度によって十分に賄える範囲でした。山崎氏は自らのデータを示しながら、「破滅的で支払い不能なリスク」ではなく、漠然とした「不安」に対処するために販売される保険商品は、本質的に保険会社の利益のために設計された非合理的な金融商品であると断じています。
保険料を払い続けることの本当のコスト
保険に加入することは、確かに心理的な安心感をもたらします。しかし、その安心感を得るために支払う保険料の総額を計算してみてください。仮に月々5000円のがん保険に20年間加入すれば、総額120万円になります。この金額があれば、山崎氏が実際に負担した治療費を賄っても余りが出る計算です。
山崎氏が強調するのは、保険に加入しないという意思決定を、結果論としてではなく、事前の判断として正しかったと結論づけている点です。統計的確率と公的医療制度の構造を理解すれば、多くの人にとって民間のがん保険は不要であり、その分のお金を貯蓄や他の用途に回す方が合理的だというわけです。
数字と制度を理解することで生まれる「安心」
「不安だから保険に入る」という感情的な判断ではなく、日本の高額療養費制度がどれほど手厚いものかを理解することが重要です。この制度があれば、治療費は貯蓄で賄えるレベルに収まります。
山崎氏が特に強調するのは、「不安」を商品化する保険業界の本質への批判です。漠然とした不安を煽り、それに対処する商品として保険を販売する手法は、消費者を合理的な判断から遠ざけます。本当に必要なのは、不安を解消するための「知識」であり、数字に基づいた冷静な判断なのです。
保険不要論が最も過酷な状況で証明された意味
長年、山崎氏の保険不要論は、統計的確率と公的医療制度の構造に基づいた理論的な主張でした。しかし、彼自身のがん罹患は、その理論を現実世界で検証する究極のストレステストとなりました。もし彼の理論が誤っていれば、その経済的・精神的ダメージは彼自身が負うことになります。
それにもかかわらず、彼が自らの治療費データを冷静に分析し提示したことは、彼の長年の主張が最も過酷な個人的状況下ですら揺るがなかったことの最終的な証明となりました。この章は単なるアドバイスを超え、彼の金融哲学の核心的理念が実証された凱旋の記録とも読めるのです。
「安心」を買うのではなく「知識」で安心を得る
保険会社のパンフレットには、様々な給付金や保障内容が魅力的に描かれています。しかし、その裏にある保険料の総額や、実際に給付を受けられる確率については、あまり明確に示されていません。
山崎氏が本書で伝えたかったのは、保険料という形でお金を支払い続けることよりも、公的制度の仕組みを理解し、必要な分を貯蓄しておく方が、はるかに合理的だということです。そして、万が一の時にも、冷静に制度を活用できる知識を持つことが、本当の意味での「安心」につながるのです。
「数字」と「制度」を味方につける生き方
本書では、がん治療にかかる実際の費用データが具体的に示されています。このような「数字」を知ることで、漠然とした不安が具体的な見通しに変わります。そして、高額療養費制度という「制度」を理解することで、必要以上に恐れる必要がないことがわかるのです。
「不安だから保険に入ろう」という感情に流されるのではなく、「どのようなリスクがあり、それに対してどのような備えが必要か」を数字と制度に基づいて判断する。これこそが、山崎氏が生涯を通じて貫いた経済合理主義の真髄であり、がんという最大の試練においても揺るがなかった哲学なのです。
民間保険に頼らない賢い備え方
では、民間のがん保険に入らない場合、どのように備えればよいのでしょうか。山崎氏が示す答えはシンプルです。それは、保険料として毎月支払うはずだった金額を、自分で管理する貯蓄に回すことです。
例えば、月々5000円を保険料として支払う代わりに、同じ額を貯蓄すれば、10年で60万円、20年で120万円の備えができます。この金額があれば、実際に治療が必要になった際の自己負担分を十分にカバーできます。しかも、病気にならなければそのお金は自分のものとして残り、他の用途に使うことができるのです。
公的制度を最大限に活用する知恵
日本の公的医療保険制度は、世界的に見ても非常に充実しています。高額療養費制度を利用すれば、どれだけ高額な治療を受けても、月々の自己負担額には上限が設定されます。この制度を正しく理解し、申請方法を知っておくことが、何よりも重要な「備え」となります。
山崎氏が本書で繰り返し強調するのは、「不安」という感情に対処するために商品を買うのではなく、「制度」という事実を理解することで安心を得るべきだということです。これは、保険に限らず、人生のあらゆる場面で応用できる考え方でもあります。
保険よりも大切な「貯蓄」という選択
がん保険不要論を理解すると、より広い視野で「お金の使い方」を考えられるようになります。保険料として毎月支払うお金を、自分自身でコントロールできる貯蓄に回すことで、将来の選択肢が広がります。
貯蓄があれば、がん治療だけでなく、他の予期せぬ出費にも対応できます。子どもの教育費、住宅のリフォーム、親の介護費用など、人生には様々な支出が発生します。保険はそれぞれの用途に応じて個別に加入する必要がありますが、貯蓄は柔軟に使い道を決められます。
経済合理性と人生の豊かさの両立
山崎氏が本書を通じて伝えたかったのは、単なる節約術ではありません。それは、経済合理性に基づいた判断をすることで、限りある資源を本当に価値のあることに使えるようになるということです。
不要な保険料を支払わずに済んだお金を、家族との旅行や自己投資、あるいは非地位財と呼ばれる本当の幸福につながる経験に使う。これこそが、山崎氏が最期に辿り着いた「お金と人生の本質」なのです。
公的制度への信頼こそが真の安心
『がんになってわかった お金と人生の本質』から学べるのは、民間の保険商品に頼るよりも、日本の公的医療制度を正しく理解し、信頼することの重要性です。そして、保険料という形で他人に預けるのではなく、自分自身で管理する貯蓄を持つことが、本当の意味での経済的安心につながるということです。
山崎氏自身が、がんという最も過酷な状況でその理論を証明してみせたことは、私たちに大きな勇気と確信を与えてくれます。不安に駆られて感情的な判断をするのではなく、数字と制度を理解し、冷静に合理的な選択をする。この姿勢こそが、人生を豊かにするための第一歩なのです。

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