ゼロから作るのをやめたら、問題が一気に動き出した——パウロ・サバジェ『どうにかする』が明かす相乗りの技術

「また人手が足りない」「また予算がない」「また時間がない」。管理職として新しい課題を抱えるたびに、同じ壁に阻まれていませんか? そして気づけば、「もし自分に十分なリソースさえあれば……」という思考の罠にはまっていませんか?

ところが世界を見渡すと、まるで資源がない状態でも圧倒的な結果を出してきた人たちがいます。彼らの共通点は、ゼロからリソースを作ろうとしなかったことです。代わりに彼らは、すでに動いている他者のシステムに乗ったのです。

オックスフォード大学准教授のパウロ・サバジェが著した『どうにかする』は、このエコシステム的思考――他者のインフラを巧みに活用して自らの目的を達成する技術――を、世界中の現場から集めた事例をもとに体系化した一冊です。今回は「相乗り」という最も実践的な問題解決の発想に焦点を当て、その本質と職場での活かし方をお伝えします。

どうにかする めちゃくちゃな状況で「圧倒的な結果」を出している人と組織の思考法 | パウロ・サバジェ, 水谷淳 |本 | 通販 | Amazon
Amazonでパウロ・サバジェ, 水谷淳のどうにかする めちゃくちゃな状況で「圧倒的な結果」を出している人と組織の思考法。アマゾンならポイント還元本が多数。パウロ・サバジェ, 水谷淳作品ほか、お急ぎ便対象商品は当日お届けも可能。またどうにか...

「自前主義」という思考の罠

管理職として課題に向き合うとき、多くの人は無意識に「自前でどうにかする」ことを前提にします。新しいプロジェクトを立ち上げるなら、新しい予算と新しい人員を調達してから始める。新しい仕組みを作るなら、それ専用のツールと運用体制を整えてから動く。

これは一見まともな発想です。しかしサバジェは、この思考こそが最大の足かせだと指摘します。

なぜなら、世界はすでに無数の機能するシステムで埋め尽くされているからです。商業の流通網、社内の情報伝達経路、業界横断の人脈ネットワーク、デジタルプラットフォームの仕組み……。これらはすべて、誰かがコストと時間をかけて最適化してきた資産です。自前主義はそれらを無視し、ゼロから同じものを作ろうとする非効率を生みます。

本書が繰り返し示す問いはこうです。「今あなたの課題の周囲に、すでに動いているシステムはないか。それを借りられないか」と。

コカ・コーラが運んだ命――相乗りの原点となる事例

本書でこの発想を最も鮮烈に示す事例が、ザンビアのNPO「ColaLife」のプロジェクトです。

ザンビアの農村部では、下痢による乳幼児の死亡が深刻な問題でした。原因はわかっています。安価に手に入るはずの経口補水塩と亜鉛のキットが、物流の問題で農村に届かないのです。インフラを一から整備するには莫大な費用と年単位の時間がかかります。しかしこのNPOのスタッフはわずか2名でした。

そこで彼らが目をつけたのは、どんな僻地にも例外なく届いているコカ・コーラの配送網でした。ボトラー、卸売業者、自転車での小売りまで、コカ・コーラは数十年をかけて隅々まで機能する物流を築いていたのです。

彼らが取った行動はシンプルです。治療キットのパッケージを、コーラの瓶と瓶の間の隙間にぴったり収まるくさび形にデザインし直した。それだけです。自分たちの製品を、飲料の流通に物理的・経済的に相乗りさせたのです。

結果、治療キットの農村部での普及率は、数年で1%未満から50%超へと急上昇しました。新しいインフラは一切作っていません。あるものを借りただけで、死を防ぐ仕組みが動き出したのです。

「余剰能力」を見つける目を持つ

この事例から学べる最も重要なことは、あらゆるシステムには使われていない「余剰能力」があるという視点です。

コカ・コーラの配送トラックには、瓶と瓶の間の空間がありました。それは毎日、使われないまま農村を往復していました。ColaLifeはその余剰に気づき、そこに乗ることを選んだのです。

これは特殊な事例ではありません。あなたの職場にも、使われていない余剰は必ず存在します。

定期的に開催されているが議題が半分しか埋まらない会議、全社員が登録しているが活用されていないイントラネット、他部署との接点を持つ人間関係のネットワーク、すでに走っているプロジェクトの中で他の目的にも使えるプロセス……。これらはすべて、相乗りの候補です。

余剰に気づく目を養うことが、エコシステム的思考の出発点です。

職場で実践する相乗りの3つの着眼点

ではこの発想を、管理職の日常にどう落とし込めばよいのでしょうか。サバジェの思考を応用すると、3つの着眼点が見えてきます。

まず、すでにある「人の流れ」に乗ることです。新しい取り組みを周知したいなら、新たな説明会を設定するより、全員が必ず参加する既存の朝礼や定例ミーティングの5分間を借りる方が確実に届きます。人が集まる場所は、すでに最適化された情報伝達のインフラです。

次に、すでにある「信頼関係」に乗ることです。他部署の協力が必要なとき、自分が直接頼みに行くより、すでに相手と良好な関係を持つ社内の人物を経由することで、話が驚くほどスムーズに進む場合があります。人間関係のネットワークも立派な既存インフラです。

そして、すでにある評価の仕組みに乗ることです。新しい行動習慣をチームに根付かせたいなら、それを現行の評価や目標管理の項目に組み込むだけで、特別なコストゼロで定着が加速することがあります。すでに機能する評価システムを流用するという発想です。

いずれも、ゼロから何かを作っていません。あるものを別の目的のために借りているだけです。

「相乗り」はズルではなく、最高度のエコシステム思考

ここで少し立ち止まってみましょう。「他人のものに乗っかるのは、なんとなく申し訳ない気がする」という感覚を持つ方もいるかもしれません。

しかしサバジェは、この発想こそが現代の最も洗練された問題解決だと断言します。その根拠はシンプルです。相乗りは、既存のシステムに価値を加えるからです。

ColaLifeがコカ・コーラの配送に乗ったとき、コカ・コーラの物流担当者は余計な手間を負いませんでした。治療キットはコーラの瓶が運ばれるのと同時に届き、地域の販売店にとっては取り扱い商品が一つ増えただけです。誰かが損をして誰かが得をする構図ではなく、既存の仕組みに乗ることで双方に価値が生まれる形になっていました。

これをサバジェは「既存ネットワークの余剰能力の再利用」と呼びます。そして、もともとの目的とまったく無関係なシステムが、別の重要な課題を解決する担い手になる、という構造こそが、この手法の核心だと説明しています。

管理職として部下を動かし、上司を巻き込み、他部署と連携していくうえで、この相乗りの構造を意識するかどうかで、消耗の度合いがまったく変わってきます。

「自前主義」を手放すと、見える景色が変わる

本書を読んで多くの読者が感じるのは、ある種の解放感だと思います。「自分でゼロから作らなければならない」というプレッシャーから降りる許可を、世界中の事例を通じてもらえるような感覚です。

日本のビジネス文化には、自前主義を美徳とする傾向があります。自分たちで汗をかいて、一から積み上げていくことが誠実さの証だという感覚です。もちろんその姿勢が大切な局面はあります。しかし、それが思考の唯一の選択肢になってしまうと、資源の限られた現実の中で消耗するばかりです。

管理職として、部下の信頼を得るために必要なのは、必ずしも自前で答えを作り続けることではありません。あるものを賢く組み合わせ、チームを確実に前に進める力、それ自体がリーダーとしての実力です。

コカ・コーラの物流を借りた2人のスタッフは、莫大な予算を持つ国際機関が解決できなかった問題を、低コストで、短期間で、大規模に解決しました。彼らに足りなかったものは、自前のインフラだけです。持っていたのは、他者のシステムを見る目と、乗る勇気でした。

本書は、その目と勇気を養うための、読み応えある一冊です。ぜひ手に取ってみてください。

どうにかする めちゃくちゃな状況で「圧倒的な結果」を出している人と組織の思考法 | パウロ・サバジェ, 水谷淳 |本 | 通販 | Amazon
Amazonでパウロ・サバジェ, 水谷淳のどうにかする めちゃくちゃな状況で「圧倒的な結果」を出している人と組織の思考法。アマゾンならポイント還元本が多数。パウロ・サバジェ, 水谷淳作品ほか、お急ぎ便対象商品は当日お届けも可能。またどうにか...

NR書評猫1153 パウロ・サバジェ どうにかする

注意

・Amazonのアソシエイトとして、双子のドラ猫は適格販売により収入を得ています。
・この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的・法律的なアドバイス等の専門情報を含みません。何らかの懸念がある場合は、必ず医師、弁護士等の専門家に相談してください。
・記事の内容は最新の情報に基づいていますが、専門的な知見は常に更新されているため、最新の情報を確認することをお勧めします。
・記事内に個人名が含まれる場合、基本的に、その個人名は仮の名前であり実名ではありません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました