「先週は調子よかったのに、今週はなぜか売れない」という感覚的な判断に振り回されていませんか?
ビジネスの現場では、数字を見ているつもりでいても、実は正しい数字を見ていないことが多くあります。売上金額や販売数量だけを追いかけていると、「天候のせい」「曜日のせい」という言い訳が生まれ、本当に支持されている商品・サービス・施策が何かを見失ってしまいます。
川島敏男さんの著書『お客様が教える「売れる商品」の見つけ方』には、この問題を根本から解決するツールが紹介されています。それが「PI値」を活用した独自の「ロータスメソッド」です。大手チェーンに囲まれながら年商20億円を達成した青果店の実践から生まれたこの手法は、IT管理職として日々データと向き合う方にとっても、今すぐ応用できる考え方です。
「売上が高い=支持されている」という思い込みの罠
まず、多くの人が陥りがちな誤解から整理しましょう。
ある商品が今週5,000個売れたとします。先週は3,000個でした。「この商品は売れている」と判断するのは自然なことです。しかし、先週は来店客が500人で今週は1,000人だったとしたら、どうでしょうか。販売数は増えていても、来店客のうちその商品を選んだ割合は先週が60%、今週は50%となり、実は「支持率が下がっている」という逆の結論になります。
絶対数は、外部要因を内包した数字にすぎません。
天候、曜日、季節、近隣のイベント……売上の増減にはさまざまな要因が絡み合っています。その「ノイズ」を含んだまま数字を比べても、商品本来の実力は見えてきません。川島さんが本書で繰り返し指摘するのは、まさにこの点です。売上という絶対数ではなく、「来店した人のうち何割がその商品を選んだか」という確率に着目せよ、というわけです。
PI値とは何か── 「支持率」を測る物差し
川島さんが活用するPI値は、Purchase Indexの略で「販売指数」と訳されます。レジを通過した客数1,000人あたりの購買点数や売上高として算出する指標です。
計算式はシンプルです。ある商品の販売数を来店客数で割り、1,000をかけるだけです。これにより、来店客が増えようと減ろうと、「1,000人のお客様のうち何人がその商品を選んだか」という純粋な支持率が算出できます。
1,000人を基準にするのは、日々の小売現場では客数の変動が大きく、100人あたりや10人あたりで計算すると数値が小数点以下になりすぎて比較しづらいからです。1,000人という単位で表現することで、実務的に扱いやすい数字になります。
この指標の革新性は、比較対象の「条件を揃える」点にあります。月曜日は客が少なく金曜日は多いという曜日差も、雨の日と晴れの日の客数差も、PI値を使えば排除できます。
同じ土俵で商品の実力を比べることが、初めて可能になります。
ロータスメソッド── PI値を戦略に変える仕組み
PI値という指標を単に算出するだけなら、ツールとして完結します。川島さんのロータスメソッドが優れているのは、このPI値を毎日継続的に追跡し、日常的に消費される「エブリディマーケット商品」の中から真に支持されている商品を浮かび上がらせる仕組みにある点です。
具体的な運用は、毎日のレジデータからPI値を算出し、前日・先週・先月と比較しながら変動を観察するものです。PI値が安定して高い商品は、客数の増減に関係なく常に選ばれている、つまり本当に支持されている商品です。逆に客数が増えた日だけPI値が下がる商品は、特定の客層にしか選ばれていない可能性があります。
売れる波ではなく支持される商品を見極めることが核心です。
この発想はITプロジェクト管理にも直接応用できます。たとえば、複数の機能やサービスの利用率を「ログイン者数あたりの利用回数」として算出すれば、それがPI値と同じ意味を持ちます。月のアクティブユーザーが増えた月に利用率も増えているだけなら、その機能が「支持されている」とは言い切れません。ユーザー数が変動しても利用率が安定して高い機能こそが、本当に価値を届けている機能です。
曜日・天候に惑わされない判断をするために
ここで、多くのIT管理職の方が共感するであろう場面を思い浮かべてください。
月次のダッシュボードを見ながら上司に報告する場面です。「今月はページ閲覧数が20%増加しました」「コンバージョンが先月より改善しています」。しかし部長から「それ、キャンペーンの効果じゃないの?」と指摘されたとき、答えに詰まった経験はないでしょうか。
キャンペーンや外部イベントの影響を除いた「素の支持率」が見えていないと、施策の効果を正確に評価できません。この問題に対する川島さんの答えが、PI値による標準化です。来店客数という変動要因を除去してから商品を評価するように、ウェブ施策でも「流入数」という変動要因を除去してから「本当に刺さっているコンテンツや機能」を評価する必要があります。
セッション数ではなく「セッションあたりのアクション率」、ページビュー数ではなく「訪問者あたりの閲覧ページ数」。こうした指標への切り替えは、ロータスメソッドの考え方と本質的に同じです。外部要因を除いた「支持率」で物事を測る姿勢が、再現性のある意思決定を生み出します。
今日から始める「支持率思考」の実践ステップ
では、実際にどうすれば「支持率思考」を日常に取り入れられるでしょうか。
まずは、今使っている数字をひとつ選んで「割り算」をする習慣から始めましょう。チームの提案件数を見るなら、メンバー数で割って一人あたりの提案件数にする。顧客からの問い合わせ数を見るなら、ユーザー数で割って利用者あたりの問い合わせ率にする。絶対数ではなく割合で見ることで、規模の違いや外部要因の影響が除去されます。
次に、その数字を毎日・毎週記録して比較することです。一日のデータではノイズが多く、傾向が見えません。川島さんのロータスメソッドも、継続的な記録と比較があってこそ機能します。一ヶ月以上の推移を見ることで、「安定して支持されているもの」と「特定条件でだけ数字が動くもの」の区別が初めてつきます。
そして最も重要なのは、数字が動いた理由を外部要因に帰着させないことです。「今週は忙しかったから」「月末だったから」という解釈で終わらせず、支持率ベースの数字が変化した場合にだけ「何かが変わった」と判断する。この一点だけでも、データを活用する精度が大きく変わります。
PI値とロータスメソッドが教えてくれるのは、「正しい数字を見る」ことの重要性です。売上という表面的な数字に踊らされず、来店客数という変動要因を除去した「支持率」で商品を評価することで、川島さんは圧倒的な資本力格差を跳ね越えました。
規模は違っても、構造は同じです。外部要因に左右される絶対数ではなく、条件を揃えた「支持率」で判断する。その発想の転換が、あなたのチームのデータ活用を一段階引き上げるきっかけになるはずです。

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