自動車産業の「常識」が崩れる日~村沢義久が2010年に予言した小企業群の時代

あなたの会社では、業界の大手企業が揺るぎない地位を保っていますか。その安定感に安心していませんか。2010年に出版された村沢義久氏の『電気自動車 市場を制する小企業群』は、自動車産業という巨大産業が、電気自動車の普及によって根底から覆されることを予測した一冊です。トヨタや日産といった巨大メーカーが支配する自動車市場に、無数の小さな企業が参入し、市場の主役になる。そんな大胆な未来予測を読むと、みなさんの仕事にも通じる何かが見えてくるはずです。

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100年続いた自動車産業の常識が壊れる瞬間

村沢氏は本書で、電気自動車時代の到来とともに「スモール・ハンドレッド」と呼ばれる現象が起きると予測しています。これは、巨大メーカーによる寡占状態が終わり、百社単位の小規模メーカーが乱立する時代の到来を意味します。

なぜ、こんな大胆な予測ができたのでしょうか。その答えは、電気自動車の構造にあります。従来のガソリン車はエンジンという複雑な機構を持ち、約3万点もの部品で構成されていました。ところが電気自動車は、モーターと電池で走るため、部品点数が5分の1程度になるといわれています。

つまり、プラモデル感覚で「誰でも作れる自動車」になるというのです。これは単なる比喩ではありません。実際に中国では2014年以降、「造車新勢力」と呼ばれる新興EVベンチャーが次々と誕生し、その数は最盛期には300社とも600社ともいわれる規模に達しました。

村沢氏の予測は、14年の時を経て現実のものとなったのです。

IT業界で起きた変化が自動車業界でも起こる

みなさんの中には、IT業界の変遷を目の当たりにしてきた方も多いでしょう。かつてはIBMやNECといった巨大企業が市場を支配していました。しかし、パソコンの普及とともに、アップルやマイクロソフトといった新興企業が台頭し、さらにグーグルやフェイスブックなど、想像もしなかった企業が世界を動かすようになりました。

村沢氏が描く電気自動車の未来は、まさにこのIT業界で起きた変化と同じです。本書では、この産業構造の変化を「ピラミッド型からスター型への移行」と表現しています。

従来の自動車産業は、トヨタを頂点とする巨大なピラミッド構造でした。頂点の企業が設計と最終組み立てを行い、その下に階層的に部品メーカーが連なる構造です。しかし電気自動車の時代になると、モーターやバッテリーといったコア部品を供給する企業を中心に、星のように多数のプレーヤーが点在する新たなネットワーク型の産業になると著者は見通しました。

これは、組織のあり方そのものが変わることを意味します。中間管理職として部下をマネジメントする立場にあるみなさんにとって、この視点は示唆に富むものではないでしょうか。ピラミッド型の組織で培った常識が、ネットワーク型の時代には通用しなくなる。そんな変化が、自動車産業だけでなく、あらゆる業界で起きているのです。

テスラの成功が証明した「誰でも作れる」時代

本書が出版された2010年当時、テスラはまだ新参者でした。しかし、わずか数年でEV市場の牽引役となり、今では時価総額でトヨタを上回る企業に成長しています。

テスラの創業者イーロン・マスクは、もともと自動車業界の人間ではありませんでした。インターネット業界から転身した企業家です。それでも、電気自動車という新しい技術によって、既存の自動車メーカーと対等に、いやそれ以上に戦えるようになったのです。

村沢氏は本書で、GMのEV1撤退事件からテスラの登場までの経緯を詳しく紹介しています。大企業が諦めた市場に、ベンチャー企業が飛び込んで成功を収める。この物語は、大企業の論理だけでは市場を制することができなくなった時代の象徴といえます。

同じことが、みなさんの会社でも起きていませんか。大企業の安定感に胡坐をかいていると、ベンチャー企業や新興国の企業に追い抜かれる。そんな危機感を持つことが、これからのビジネスパーソンには必要なのです。

中国・インドで芽生える新興企業群の脅威

本書では、中国やインドなどアジアで芽生える新興EV企業群にも焦点を当てています。これらの国々では、政府支援も追い風に無名の新興メーカーが次々と誕生しており、この現象こそが著者の言う「スモール・ハンドレッド」の萌芽だと論じています。

実際、中国のBYDやNIOといった企業は、わずか10年で世界市場で存在感を示すようになりました。これらの企業の多くは、インターネット業界から転身した企業家によるものです。ユニークなアイデアを掲げてベンチャーキャピタルにアピールし、最後は株式の上場を狙うというビジネスモデルです。

ここには、日本企業が苦手とする「スピード」と「変化への適応力」があります。パワーポイントによる車作りと揶揄されるほど、資金調達のプレゼンテーションに力を注いでいた企業も多かったといいます。

しかし皮肉なことに、2019年にEVの購入に対する補助金が削減され、2020年前半にはコロナ禍で自動車の販売が減少すると、多くのEVベンチャーが破綻しました。村沢氏の予測が完全に当たったわけではありません。

それでも、無数の企業が市場参入を試みた事実は変わりません。そして淘汰の後に残った企業は、確実に力をつけています。

日本企業に残された選択肢とは

本書が投げかける最大の問いは、日本企業がこの大転換期にどう対応するかです。村沢氏は「小さな会社が主役になる産業構造の大転換期に乗り遅れるな」と警鐘を鳴らしています。

従来の自動車産業では、日本企業は圧倒的な強さを誇っていました。トヨタ、日産、ホンダといった企業は、世界中で高い評価を受けています。しかし、電気自動車の時代になると、この優位性が揺らぎます。

なぜなら、ガソリンエンジンという複雑な技術で築いた競争優位が、電気自動車では意味をなさなくなるからです。エンジン開発に何十年もかけてきた技術者の知見が、一夜にして不要になる。これは、企業にとって大きな痛手です。

村沢氏は、この危機を乗り越えるためには、既存の大企業だけでなく、中小企業やベンチャー企業の力を活用することが重要だと説いています。日本には優れた技術を持つ町工場が数多くあります。これらの企業が電気自動車の開発に参入することで、新たな競争力を生み出せるというのです。

変化を恐れず、新しい挑戦を

村沢義久氏の『電気自動車 市場を制する小企業群』は、2010年という早い段階で、自動車産業の大変革を予測した先見性のある一冊です。著者の予測がすべて的中したわけではありませんが、産業構造が大きく変わるという本質は、間違いなく現実のものとなっています。

本書を読むと、大企業の安定感に依存することの危うさが見えてきます。同時に、小さな企業や個人であっても、新しい技術と発想があれば市場を制することができるという希望も感じられます。

みなさんが働くIT業界でも、同じような変化が起きています。大企業の論理だけでは通用しない時代に、どう対応するか。部下をどうマネジメントし、組織をどう変えていくか。本書は、そんな問いに向き合うヒントを与えてくれるはずです。

変化を恐れず、新しい挑戦を続ける。村沢氏のメッセージは、自動車産業だけでなく、すべてのビジネスパーソンに向けられています。

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