「あの部下、なぜか一緒に仕事がしづらいんだよな……」
管理職として働いていると、こんな感覚を覚える相手が一人や二人はいるものです。別に大きなトラブルがあったわけでもない。人格的に問題があるわけでもない。でもなぜか、指示がうまく伝わらない。こちらの意図と違う方向に動いてしまう。気づくと会話が噛み合わず、お互いにどこかぎこちない。
この「なんとなく合わない」という感覚、あなたはどう処理してきましたか。相手の努力不足だと思って諦めてきた、あるいは自分のマネジメントが悪いのかと自分を責めてきた、という方も多いのではないでしょうか。
佐藤考弘著『起業家のための富を創る成功方程式 人脈づくり』は、この「なんとなくの相性」を直感ではなく科学で見極める手法を提示しています。その核となるのが「ウェルスプロファイル」という特性診断です。人間関係の摩擦を未然に防ぎ、それぞれの特性を最大限に活かすチームをどう作るか。本書はその問いに、驚くほど明快な答えを出してくれます。
「相性が合わない」の正体は、才能の向き方の違いだった
人間関係の摩擦というと、多くの人はコミュニケーションスキルや性格の問題として捉えます。あの人はもっと話し方を改善すべきだ、感情のコントロールができていない、報連相が足りない……。しかし本書が示すのは、そういった表面的な改善策とはまったく異なる視点です。
摩擦の多くは、才能の向き方が違うことから生まれています。
ウェルスプロファイルとは、個人の特性を診断し、その人の強み・弱み・思考の癖を客観的に明らかにするツールです。本書著者の佐藤考弘氏が実践するウェルスダイナミクスという体系に基づくもので、人の特性をいくつかのタイプに分類し、どのタイプ同士がどのように関わり合うかを論理的に解き明かします。
直感でなんとなく判断していた「相性」が、実は客観的に説明できる「特性の組み合わせ」だったとわかったとき、人間関係の見え方はがらりと変わります。相手が悪いわけでも、自分が悪いわけでもない。ただ、才能の向き方が違っていただけなのです。
アイデアを出す人とアイデアを形にする人、どちらも欠かせない
本書では、具体的なタイプとして「クリエイター」と「アキュムレーター」が紹介されています。
クリエイタータイプとは、創造的で次々と新しいアイデアを出すことが得意な反面、実務の継続が極端に苦手という特性を持ちます。常に新しいことを考えることが生きがいであり、同じ業務を繰り返すルーティンワークに苦痛を感じます。一方のアキュムレータータイプは、細かいデータ管理やスケジュールの進捗管理を天職とする人物で、ものごとを着実に積み上げ、計画通りに実行し続ける力を持ちます。
発想する力と、実行する力は、別の才能です。
この2つのタイプが同じ組織にいれば、互いの欠落を見事に補い合います。ところが、クリエイタータイプの起業家や管理職が「気が合う」という理由でアイデア出しが好きな人間ばかりを集めてしまうと、会議は盛り上がるが何も実行されないという最悪の事態が生まれます。逆に、実務型の人間だけ集めると、業務は安定するが新しい一手が打てずに停滞します。
これは起業家の話として書かれていますが、管理職のチーム編成にもそのまま当てはまります。自分と同じ特性の人を集めることが、チームの弱点を生み出す原因になっているのです。
「この部下、なぜ使えないんだ」と思っていた自分の勘違い
少し前のことを振り返ってみます。
あるとき、非常に几帳面で、報告書や進捗管理は完璧なのに、急な方向転換や新しいアイデアが求められる場面でまったく動けなくなる部下がいました。当時の自分は正直、「この人は応用が利かない」と評価していました。少し固すぎるのかな、と思っていたのです。
ところが、プロジェクトが大詰めを迎えたとき、その部下が作成したリスク管理表が、誰も気づかなかった落とし穴を事前に洗い出してくれました。そのおかげで、本来なら大きなミスになっていた局面をゼロにすることができたのです。
「使えない」ではなく「使い方を知らなかった」だけでした。
その部下は、アイデアを出す仕事には向いていない。しかし計画を守り、リスクを管理し、実行を支える仕事では誰よりも輝く。そのことに気づいてから、仕事の振り方をガラリと変えました。結果、その部下は見違えるように生き生きと動くようになりました。本書を読んでこの経験を思い出し、ウェルスプロファイルの概念がいかに的を射ているかを実感しました。
特性を見極めることが、信頼を生む最短ルート
本書が示す「相性の科学的アプローチ」の真骨頂は、摩擦をなくすことではなく、それぞれの特性を正しく配置することにあります。
部下との関係がうまくいかないとき、多くの管理職はコミュニケーションの改善に目を向けます。もっと丁寧に話す、もっと頻繁に1on1をする、フィードバックの言い方を工夫する。どれも間違いではありません。しかしそれ以前に、その部下がどんな特性を持ち、どんな種類の仕事で真価を発揮するかを理解しているかどうかが、信頼の土台になります。
特性を理解されていると感じた人は、動き始めます。
「この上司は自分のことをわかってくれている」という感覚は、仕事の内容や給料よりもはるかに強く、人の行動を引き出します。そのためには、相手の特性を直感でなく客観的に把握する視点が必要です。ウェルスプロファイルはその視点を与えてくれる道具です。
家族にも「特性の違い」で接してみると見えてくるもの
この科学的な相性の考え方は、家庭の場面でも力を発揮します。
たとえば妻が「もっと気持ちを話してほしい」と言い、自分は「具体的にどうしたいかを言ってくれれば動く」と思っている。子どもが「今すぐやりたい」と言うのに、自分は「計画を立ててから動け」と言う。この噛み合わなさも、価値観の問題というより特性の違いである場合がほとんどです。
感情を大切にするタイプと、論理を優先するタイプ。直感で動くタイプと、計画してから動くタイプ。どちらが正しいわけでも、どちらが劣っているわけでもありません。
違う特性を持つ相手を、正しい場所に招き入れる発想が鍵です。
感情型の妻には、論理よりも先に気持ちで応答する。直感型の子どもには、最初だけ方向を示してあとは自由にやらせる。相手の特性に合わせてアプローチを変えるだけで、家族のコミュニケーションは大きく変わり始めます。
「なんとなく合わない」を卒業する、たった一つの問い
本書が教える相性の科学は、難しいものではありません。日常の中で実践するとしたら、まず次の問いを持つことから始められます。
今、摩擦を感じているあの人は、どんな種類の仕事で最も力を発揮しているだろうか――。
この問いを持つだけで、相手の見え方がぐるりと変わります。「使えない部下」が「自分に欠けている才能を持つ人」に見えてくる。「気が合わない同僚」が「自分の盲点を補える存在」に見えてくる。それが、本書の言う「相性の科学的アプローチ」の出発点です。
佐藤考弘氏が美容業界という過酷な環境で10年間離職者ゼロを達成した根底には、一人ひとりの特性を見極め、その特性が最も輝く場所を整えるというこの実践がありました。直感と経験だけに頼る人間関係から、科学的な視点を持った人間関係へ。その一歩を踏み出すヒントが、本書にはぎっしりと詰まっています。
管理職として部下との関係に悩んでいる方、チームの噛み合わせに疑問を感じている方に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

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