左遷人事を受けて、心が折れそうになったことはありませんか?理不尽な異動に「もうこの会社辞めてやる」と思ったことはありませんか?でも、ちょっと待ってください。その悔しさ、怒り、鬱憤は、実はあなたを成功へと導く強力なエネルギーに変えられるかもしれません。
山本実之氏の『明治製菓カカオ事業部 逆境からの下剋上』は、まさに逆境を原動力に変えて奇跡を起こした実話です。期待ゼロの新規事業部に異動させられた著者が、10年で70億円の売上を達成した秘訣。それは「この野郎エネルギー」という独特のマインドセットと、人を動かす言葉の力でした。
「この野郎エネルギー」とは何か
本書の「はじめに」で著者が明かす、印象的なキーワードが「この野郎エネルギー」です。これは単なる怒りや反発心ではありません。著者は「困難な局面で生じる一種の高揚感」と定義しています。
不本意な異動を言い渡され、周囲から「何かやらかしたの?」と同情される。普通なら腐ってしまいそうな状況です。しかし、山本氏は違いました。「こんな会社辞めてやる」という怒りを、「見返してやる」というポジティブなエネルギーに転換したのです。
容易に勝てるゲームは退屈だ。難しいからこそ面白い、攻略したくなる。真剣だが悲壮感はなく、クリアした瞬間を想像するとワクワクする。この挑戦者マインドこそが、「この野郎エネルギー」の本質です。
10年間、毎日味わった「高揚感」
著者は、カカオ事業部での約10年間、毎日のようにこの高揚感を味わっていたと述べています。困難なことが起きるたびに、「やってやるぞ」というエネルギーが湧いてきたのです。
これは特別な才能ではありません。誰もが持っている感情を、どう捉えるか、どう活用するかの違いです。理不尽な人事、予算不足、社内からの冷ややかな視線。これらを「不幸」と捉えるか、「燃える材料」と捉えるか。その違いが、人生とキャリアの成否を分けるのです。
著者は、入社後の20代で商社部門に飛ばされ、30代で突然海外事業部に異動させられ、40代で新規事業立ち上げのリーダーを任されるなど、「一般的」とは思えない、なかなかヤンキーな人事に巻き込まれ続けてきました。しかし、そのすべてで素晴らしい業績を収めています。なぜなら、逆境をはねのける力が、ビジネスの成功の秘訣だと体現してきたからです。
成功者に共通する「逆境バネ」
ある研究によれば、成功している経営者の中には、元々片親だったり、過去の恋愛経験や失恋を原動力にしている人が一定数いるそうです。つまり、逆境を力に変える能力は、成功のための重要な資質なのです。
山本氏もその良い例です。理不尽な人事を受けるたびに難色を示していたものの、会社そのものは嫌いではありませんでした。だからこそ、会社に対する「この野郎」という思いを、見事に仕事の原動力へと変えてきたのです。
あなたも今、何かの逆境に直面しているかもしれません。でも、それは不幸ではなく、あなたを成長させるための燃料なのです。山本氏のように、その悔しさをエネルギーに変えれば、必ず道は拓けます。
「バッドニュースファースト」の原則
「この野郎エネルギー」と並んで、本書で強調されているのが「バッドニュースファースト」という考え方です。これは、悪い出来事やネガティブな情報ほど、できるだけ早い段階で報告してもらうという原則です。
山本氏が営業のトップとして最も重視したのが、この「バッドニュースファースト」でした。問題が起きたとき、部下が隠してしまえば、対処が遅れて事態はさらに悪化します。しかし、早く報告してもらえば、まだ手を打つ余地があります。
本書では、ある年の暮れに、それまで最大顧客だった取引先から突然、翌年の契約を打ち切られるという事態が起きます。しかし、山本氏はすぐに事実を把握し、次の一手を考えることができました。結果的に失った分を補って余りある新規顧客を獲得し、年間目標をクリアしてみせたのです。
これは「ピンチをチャンスに変えた」エピソードとして本書で紹介されていますが、ポイントは悪い情報をすぐに共有する風土を築いていたことです。
「よく報告した!」で信頼関係を築く
では、どうすれば部下が悪い情報を早く報告してくれるようになるのでしょうか。山本氏の答えはシンプルです。問題を報告してきた部下には、真っ先に「よく報告した!」と声をかけることです。
多くのリーダーは、問題が起きると「なぜこんなことになった?」「誰のせいだ?」と責めてしまいます。しかし、それでは部下は次から報告しなくなります。最悪の事態を避けるには、まず報告してくれたことを評価する必要があるのです。
「よく報告した!」と言われた部下は、「この上司には何でも言える」と信頼します。その信頼関係があるからこそ、次も早く報告してくれる。そして早く報告があるからこそ、問題を小さいうちに解決できる。この好循環が、チーム全体の危機対応力を高めるのです。
「ノルマ」ではなく「ターゲット」という言葉の力
本書で繰り返し語られるもう一つの重要なテーマが、言葉の力です。特に印象的なのが、「ノルマ」という言葉を一切使わず、「ターゲット」という表現を用いていたことです。
「ノルマ」という言葉には、強制的で押し付けがましいイメージがあります。山本氏はこの言葉を強く嫌っていました。そのため、営業の現場でも一度も発したことがないそうです。
代わりに用いたのが「ターゲット」という言葉です。「これが君のノルマだ」ではなく「これが私たちのターゲットだ」。たったこれだけの違いですが、受け取る側の印象は大きく変わります。ノルマは「やらされる」感覚ですが、ターゲットは「自分たちで狙いにいく」感覚です。
言葉一つで、人のモチベーションは変わります。リーダーとして、どんな言葉を選ぶかは、チームの成果に直結するのです。
血の通ったセリフで人は動く
本書には、たびたび印象的なセリフが登場します。「仕事人生の最後にここで仕事ができて、本当によかったよ」「会社の金で新しいことして、失敗したってクビにならない。俺たち幸せだぜ」「ハイリスクハイリターン、望むところだ」「人生で最高のときにしよう」。
こうした血の通った言葉を交わす中で、チームが結束し、道が拓けていく様子が描かれています。単なる数字やロジックではなく、感情に訴える言葉こそが、人を動かすのです。
山本氏は、メンバーに対して常にポジティブな言葉を投げかけました。「そういうときこそ、人生にあっていい」「これはめったにできない経験だぞ」。こうした言葉が、メンバーの心に火を点けていったのです。
言葉は「仕組み化」できる
山本氏は、言葉の力を偶然に任せるのではなく、意図的に「仕組み化」していました。例えば、「Go to market 40」「絶好調!」「カカオ100」「俺たち、めちゃくちゃラッキーだぞ!」「Trust Me!」といったスローガンを繰り返し使うことで、チーム文化として定着させたのです。
リーダーが何気なく発する言葉が、チームの雰囲気を作ります。ネガティブな言葉を繰り返せばネガティブなチームに、ポジティブな言葉を繰り返せばポジティブなチームになります。だからこそ、リーダーは自分の言葉を意識的に選び、仕組みとして定着させる必要があるのです。
簡単にいかないからこそ燃える
山本氏は、「簡単にいかないからこそ燃える」タイプのリーダーです。これは特別な性格ではなく、マインドセットの問題です。困難を「障害」と捉えるか、「挑戦」と捉えるか。その違いが、リーダーとしての力量を決めます。
カカオ事業部は、実績ゼロ、顧客ゼロ、予算も少ない、メンバーも定年間近のベテラン揃いという、どこから見ても逆境の連続でした。しかし、山本氏はそれを「攻略しがいのあるゲーム」と捉えました。だからこそ、10年間毎日のように高揚感を味わいながら、チームを成功へと導けたのです。
あなたの仕事も、簡単ではないはずです。でも、それは不幸ではありません。簡単にいかないからこそ、やりがいがあるのです。山本氏のように、その困難を楽しむマインドを持てば、仕事は驚くほど面白くなります。
「視点を変える」胆力が危機を救う
「バッドニュースファースト」のエピソードで学べるもう一つの教訓が、イレギュラーが起きたときに視点を変えて次の一手を考える胆力です。
最大顧客を失うという危機に直面したとき、山本氏は落ち込むのではなく、「では、どうすれば新規顧客を開拓できるか」と視点を切り替えました。問題が起きたとき、「終わった」と嘆くのではなく、「どうする?」と前を向く。この視点の転換こそが、リーダーの腕の見せ所なのです。
山本氏は「問題発生時こそリーダーの腕の見せ所」と述べています。クレーム多発に対処した自身の経験を教訓として、逆境をチャンスに変える力を示してくれています。
今日から使える「この野郎エネルギー」
では、あなたも「この野郎エネルギー」を発揮するには、どうすれば良いのでしょうか。
まず、逆境を「不幸」ではなく「燃料」と捉えてください。理不尽な状況に直面したら、「この野郎、見返してやる」と心の中で思ってください。その悔しさが、あなたを動かすエネルギーになります。
次に、部下や仲間が問題を報告してきたら、まず「よく報告した!」と言ってください。そして一緒に解決策を考えましょう。この繰り返しが、強いチームを作ります。
そして、「ノルマ」ではなく「ターゲット」という言葉を使ってください。言葉を変えるだけで、チームの雰囲気が変わります。
最後に、ポジティブな言葉を繰り返し発してください。「これは面白い挑戦だ」「俺たちラッキーだ」「やってやろう」。あなたの言葉が、チームの文化を作るのです。
言葉の力が組織を変える
『明治製菓カカオ事業部 逆境からの下剋上』が教えてくれるのは、逆境を楽しむマインドセットと、人を動かす言葉の力です。山本氏は特別な才能や資源を持っていたわけではありません。ただ、逆境を高揚感に変え、前向きな言葉でチームを鼓舞し続けたのです。
「この野郎エネルギー」は、誰もが持っています。あなたも今、何かの困難に直面しているかもしれません。でも、それを「不幸」と嘆くのではなく、「燃料」として活用することができます。そして、あなたの言葉一つが、周りの人を動かし、組織を変えることができるのです。
逆境は避けられません。しかし、それをどう捉えるかは自分次第です。山本氏のように、困難を高揚感に変え、言葉の力でチームを導く。そんなリーダーになれば、どんな逆境も乗り越えられます。

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