会議で部下に説明したのに、なぜか伝わらない。資料を共有したはずなのに、期待と違う成果物が上がってくる。そんな経験はありませんか?もしかすると、あなた自身が本当の意味で理解できていないのかもしれません。
管理職として、部下を指導する立場にある私たち。しかし正直に言うと、自分でも説明できないことを指示している瞬間があるのではないでしょうか。上から降りてきた方針を、そのまま伝えるだけ。専門用語を使えば何となく格好がつくから、深く考えずに口にしてしまう。そして部下から質問されると、答えに窮してしまうのです。
この問題の根本原因は、実は私たちの理解力にあります。深沢真太郎さんの新刊『本当に頭がよくなる シン・理解力』は、誤解なく、不理解なく理解するスキルを、誰でも習得できる形で解き明かしてくれる一冊です。本書を読めば、部下への説明が驚くほど的確になり、信頼される上司へと変わることができます。
「理解したつもり」が組織を壊す
深沢さんは本書の冒頭で、最も危険な状態として理解したつもりを挙げています。これは理解していない状態よりも、むしろ深刻な問題なのです。
なぜなら、自分が理解していないと気づいている人は、学び直すことができます。質問もできます。しかし理解したつもりの人は、自分の理解不足に気づかないまま行動してしまいます。そして失敗してから、初めて問題が表面化するのです。
私たち管理職も同じではないでしょうか。経営層から降りてきた方針を、理解したつもりで部下に伝える。部下は上司の説明を聞いて、理解したつもりで動く。結果、期待とは全く違う成果物が出来上がり、手戻りが発生します。
本書では、理解したつもりの症状として、質問ができない、感想しか言えない、説明を求められると言葉に詰まる、といった具体例が紹介されています。これらに心当たりがある方は、まさに理解力を鍛える必要があるのです。
DASモデルが理解の基盤を作る
では、どうすれば本当の意味で理解できるのでしょうか。深沢さんが提唱するのが、DASモデルという手法です。DASとは、定義、分析、体系化の3つのステップを指します。
このモデルの優れた点は、抽象的な概念や曖昧な指示を、誰にでもわかる形に変換できることにあります。たとえば生産性という言葉。多くの管理職が口にしますが、部下に説明を求められたとき、明確に答えられる人はどれほどいるでしょう。
DASモデルを使えば、生産性を得られたものをかけた資源で割った値として定義し、売上高と投入時間に分析し、改善すべきポイントを体系化できます。こうして初めて、部下に具体的な指示が出せるようになるのです。
本書では、このDASモデルを、ハラスメントや結婚といった一見ビジネスと無関係な概念にも適用しています。つまりこの手法は、仕事だけでなく人生のあらゆる場面で使える汎用的なスキルなのです。
定義することで曖昧さを排除する
DASモデルの最初のステップが定義です。これは自分の言葉で、対象が何であるかを明確にする作業になります。
管理職の会話でよく使われる言葉に、スピード感を持って取り組むというフレーズがあります。しかしスピード感とは何でしょうか。1週間で仕上げることなのか、それとも毎日進捗を報告することなのか。定義がなければ、部下は迷います。
深沢さんは、定義とは自分なりの言葉で説明できる状態だと述べています。つまり他人の定義をそのまま暗記するのではなく、自分の頭で咀嚼して言い換えることが重要なのです。
たとえば会議の冒頭で、今日の目的を定義する習慣をつけてみましょう。今日のゴールは、新規プロジェクトの進め方について合意することです。このように明言するだけで、会議の生産性は格段に上がります。
定義する習慣が身につくと、部下への指示も変わってきます。曖昧な表現ではなく、具体的な成果物と期限を示せるようになります。そして部下も、何をすべきかが明確になり、動きやすくなるのです。
分析で本質を見抜く力を養う
DASモデルの2つ目のステップが分析です。深沢さんは、分析を分解と比較の組み合わせとして説明しています。
分解とは、対象を構成要素に分けることを指します。たとえば売上高は、単価掛ける客数に分解できます。さらに客数は、新規顧客と既存顧客に分けられるでしょう。
この分解の際に重要なのが、モレとダブりをチェックすることです。たとえば営業戦略を考えるとき、新規開拓とリピート促進に分けただけでは不十分かもしれません。休眠顧客の掘り起こしという要素が漏れている可能性があります。
比較とは、複数の対象を並べて違いを見つけることになります。たとえば好調な店舗と不調な店舗を比較すれば、成功要因が見えてきます。先月と今月を比較すれば、改善点が浮かび上がるでしょう。
分析力が高まると、部下の報告を聞いたときに、本質的な課題を見抜けるようになります。表面的な問題ではなく、根本原因にアプローチできるため、的確な指導が可能になるのです。
体系化で誰でも理解できる形にする
DASモデルの最後のステップが体系化です。これは深沢さんの言葉を借りると、誰にでもわかるように示すことを意味します。
体系化には2つの方法があります。1つは構造化で、これは図で表現すること。もう1つはモデル化で、これは式で表現することです。どちらも、わけるとつなぐという基本動作で成り立っています。
たとえば夫婦関係を構造化するなら、夫と妻に分けて、婚姻契約でつなぎます。利益をモデル化するなら、売上と費用に分けて、引き算でつなぎます。このシンプルな操作で、複雑な対象も整理できるのです。
体系化の効果は、部下への説明力に直結します。口頭で長々と説明するのではなく、1枚の図で全体像を示せば、部下は一瞬で理解できます。そして自分で考えて動けるようになるのです。
本書では、箇条書きは体系化ではないと明言されています。単に項目を並べるだけでなく、それぞれの関係性まで示してこそ、真の体系化と言えます。この視点は、資料作成においても非常に役立つはずです。
実践で理解を使えるスキルに変える
本書の特徴は、単なる知識の提供にとどまらず、実践的な訓練を重視している点にあります。第5章には厳選7問の演習が用意されており、頭の中だけでなくペンとノートで解くことが推奨されています。
深沢さんは、理解とは説明できる状態であり、さらには行動につながる状態だと定義しています。つまり知っているだけでは不十分で、実際に使えて初めて理解したと言えるのです。
管理職として考えると、この視点は非常に重要です。研修で学んだ知識を、部下指導の場面で実際に使えているでしょうか。書籍で読んだフレームワークを、会議で実践できているでしょうか。
本書の演習に取り組むことで、理解力は確実に向上します。そしてその効果は、日々の業務における説明力、判断力、指導力として表れてくるはずです。部下からの信頼も、自然と高まっていくでしょう。
さらに本書では、共通理解の作り方についても触れられています。相手の理解を理解するための質問設計や、立場の違いを前提条件の差として扱う方法など、コミュニケーション改善に直結するヒントが満載です。
理解力が変われば、すべてが変わる
本書を読んで最も印象的だったのは、理解力がすべての基盤になっているという視点です。コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、問題解決能力。これらはすべて、理解力という土台の上に成り立っています。
逆に言えば、どれだけ話し方を磨いても、資料作成のテクニックを学んでも、理解が浅ければ成果は出ません。部下に伝わらず、会議は空転し、プロジェクトは迷走します。
しかし理解力を鍛えれば、すべてが好転していきます。説明が的確になり、部下が動きやすくなります。会議で的を射た発言ができ、存在感が増します。家族との会話も、自然と改善していくでしょう。
深沢さんのDASモデルは、シンプルでありながら極めて実用的です。定義する、分析する、体系化する。この3つのステップを習慣化するだけで、仕事の質は劇的に変わります。
あなたも今日から、理解したつもりを卒業してみませんか。本書を手に取り、DASモデルを実践すれば、部下から信頼される上司へと確実に成長できます。そして充実した仕事人生が、きっと待っているはずです。

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