「今日のランチ、また同じ店で同じメニューを頼んでしまった」
そんな経験、あなたにはありませんか。
毎朝7時に起きて、会議と資料と部下への対応に追われながら一日を終える。昼の1時間だけが、ようやく自分のためだけに使える時間……なのに、なぜかいつものメニューを頼んでしまう。迷う時間がもったいないから。失敗したくないから。いつもと同じなら、外れはないから。
でも、それって少し寂しくないですか。
今回ご紹介する『CURRY HOUSE CoCo壱番屋 FAN BOOK やっぱりココイチ!』は、あなたが毎日のように通っているかもしれないあのカレーチェーンについての公式ファンブックです。しかし、読み終えたあとの感覚は「店の情報を知った」というよりも、「自分の選択が、自己表現そのものだった」という驚きに近いものがあります。
この記事では、本書が伝える「12億通りのカスタマイズ」という概念を軸に、忙しいビジネスパーソンが日常の中にどう自分らしさを取り戻せるかを考えていきます。
1. 「いつものメニュー」に隠れている本当の理由
ランチにカレー屋に入ったとき、あなたはどうやって注文を決めますか。
多くの人は、じつはかなり早い段階で「いつもの」を注文することを心に決めています。カツカレー一択の人、辛さ5辛固定の人、「チーズトッピングだけは必ず頼む」というルーティンを持つ人。
それ自体は悪いことではありません。ただ本書を読んで気づいたのは、その「いつもの」が、選択肢を前にしたときの思考停止から生まれているケースが少なくないということです。
行動経済学には「決定回避の法則」と呼ばれる考え方があります。選択肢が多すぎると、人は何も選べなくなる……あるいは、最も安全な選択肢(これまでと同じもの)に逃げ込もうとするのです。
ところが、ここに面白い逆説があります。ococイチの「12億通り以上」という圧倒的な選択肢は、このパラドックスを逆手に取ることができる仕掛けになっているのです。そして本書は、その仕掛けを解き明かしてくれる一冊です。
2. 現役社員158人が選んだ「本当に旨いカレー」の衝撃
本書の核心のひとつが、「現役社員158人に聞いたカレー総選挙」という企画です。
「ポークカレーが1位だろう」とほとんどの読者は予測するはずです。王道中の王道。ベストセラー。どこに行っても外れない定番。ところが社員たちが選んだNo.1は、ビーフカレーだったのです。
しかも、社員たちはトッピングの組み合わせまで提案しています。「ビーフカレー×ハーフチーズ×ほうれん草×パリパリチキン」――これが彼らのおすすめとして誌面に明記されています。
これを読んだときの感覚が、じつはこの本のいちばんの読みどころかもしれません。「プロが一番旨いと言っているのに、自分はずっと頼んでいなかった」という発見。そして、「次は絶対これを試してみよう」という、ちょっとした期待感。
普段のランチを「こなす作業」から「試してみる実験」に変えてくれる――本書にはそういう力があります。
3. 「3,000円を超えるトッピング」が生まれる理由
お笑い芸人のレインボー・ジャンボたかお氏が、本書の中でこんな発言をしています。「焼肉食べ放題よりも3,000円超えのトッピングのほうが満足感が高い」という趣旨のコメントです。
これを読んだとき、「それはさすがにやりすぎでは」と思う人もいるかもしれません。しかし、ここには非常に興味深い心理が隠れています。
焼肉食べ放題は、「与えられた選択肢の中で最大限に食べる」体験です。一方、ococイチで3,000円のトッピングを組み上げるのは、「自分で選択肢を組み合わせてひとつの作品を作る」体験です。同じ食事でも、後者のほうが自己決定感が強く、満足度が高くなるのは当然かもしれません。
これはビジネスにも通じる話です。管理職になったばかりの方が、部下との対話の中で感じるあの感覚――「指示を与えるのではなく、相手が自分で選んだ感覚を持てるように関わること」の重要性――と、どこか似ていると感じませんか。自分で選んだことには、人は自分で責任を持とうとします。カレーのトッピングも、部下への仕事の与え方も、「選択の余地」が人を動かします。
4. 12億通りは「多すぎる」ではなく「入口を変える」ためにある
ここで少し視点を変えてみましょう。
「12億通り」という数字を聞くと、最初は途方に暮れる気持ちになるかもしれません。どこから選べばいいのか、という途方のなさです。しかし本書のコンテンツを読み進めていくと、この数字の本当の意味が見えてきます。
12億通りは、迷わせるためではなく気づかせるためにある。
社員のおすすめ、著名人のこだわり、地域限定のご当地メニュー――本書に収録されたさまざまな「入口」は、読者それぞれに「自分はこの方向で試してみよう」というとっかかりを与えてくれます。全部の可能性を把握する必要はなく、自分にとっての「入口」をひとつ見つければいい。
これは情報過多の現代を生きるビジネスパーソンにとって、非常に示唆に富んだ考え方です。ビジネス書を何冊読んでも行動が変わらないのは、選択肢が多すぎて「どれを実践すればいいか」が分からないからかもしれません。大切なのは「まず1つ、試せるものを選ぶ」ことです。本書はカレーを通じて、その姿勢を思い出させてくれます。
5. 著名人のこだわりから学ぶ「自己表現」の作り方
本書では、俳優の山田裕貴氏をはじめ、アイドルグループのメンバーやYouTuberなど、多様なジャンルの著名人が自分のカスタマイズへのこだわりを語っています。
「なぜ飲食チェーンのファンブックに、こんなに多くの著名人が出てくるのか」と思う方もいるかもしれません。答えはシンプルです。ococイチのカスタマイズは、その人の個性を映す鏡だからです。
「毎回ライスを大盛りにする」「辛さを10辛以上にすることで自分を試す」「あえてトッピングを一切加えずにソースの味だけを楽しむ」――それぞれの選択に、その人の性格や価値観や思考パターンが滲み出ます。
40代のビジネスパーソンにとって、「自分らしさ」を表現できる場所は案外少ないものです。会議では組織の論理が優先され、家庭では役割として振る舞うことが多い。そんな中で、昼のランチにカレーのトッピングを自分のセンスで組み合わせる時間は、小さくても確かな自己表現の場になり得ます。
本書はその気づきを、エンタメとして、そして少しの真剣さとともに届けてくれます。
6. 「おうちococイチアレンジ」が語るブランドへの愛着
本書にはもうひとつのユニークなコンテンツがあります。それが「おうちококイチアレンジ」です。
ococイチ公式のレトルト製品を使って自宅で味を再現・アレンジするレシピが収録されているのですが、これがじつは深い意味を持っています。「自宅でも楽しめる」ようにすることで、外食としての体験と家庭内での体験がつながり、ブランドへの愛着が日常のより広い範囲に広がるのです。
家族と一緒に試せるという側面も大きい。子どもが「ほうれん草のトッピングは嫌だ」と言えば、「じゃあチーズだけにしよう」という小さな選択の会話が生まれます。ランチで自分だけが試していたカスタマイズを、今度は家族との食卓でも展開できる――そんな広がりが、このコーナーにはあります。
忙しい平日にはなかなか家族との会話が持ちにくい……そう感じている方ほど、「食のカスタマイズ」というテーマは意外なほど豊かな会話の入口になります。本書を手元に置いておいて、週末の夕食の話のタネにするのも、十分ありな使い方です。
7. 毎日食べても飽きない――それは「選ぶ自分」が毎日変わるから
最後に、本書全体を貫くテーマについて触れておきましょう。
「毎日食べても飽きない」というのが、本書のコンセプトです。しかしこれは単に「種類が多い」という意味ではありません。
毎日食べても飽きないのは、選ぶたびに「今日の自分」が違うから。
昨日は仕事でうまくいって、ご褒美にビーフカレーと高級トッピングを試した。今日はちょっと疲れていて、辛さを控えめにして野菜多めにした。来週は部下を誘って一緒に行き、「これが社員イチ押しのやつ」と話のネタにした――。
同じ店であっても、そのときの自分の状態や気分や目的に応じて、まったく違う体験が生まれます。12億通りというのは、つまり12億通りの「今日の自分」を受け入れてくれる器でもあるのです。
仕事も、人間関係も、毎日変わる自分を正直に扱うことが、長続きする満足感につながります。本書はカレーチェーンのファンブックという形を借りながら、そんな大切なことを思い出させてくれる一冊でした。
ぜひ手に取ってみてください。読み終わったら、きっと次のランチが少し楽しみになっているはずです。

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