脱炭素社会やカーボンニュートラルという言葉を毎日のように耳にしませんか?でも、実際に再生可能エネルギーがどういうビジネスになっているのか、自社のビジネスにどう関係してくるのか、よくわからないまま日々が過ぎていく。そんな状況に、少しでも危機感を覚えているあなたに、ぜひ手に取っていただきたい一冊があります。
今村雅人氏の「図解入門ビジネス 最新 再生可能エネルギーの仕組みと動向がよ~くわかる本」は、再エネの技術解説に留まらず、政策やビジネスの動向まで実践的に理解できる入門書です。IT業界で働く私たちにとっても、デジタル化と再エネは切っても切れない関係にあります。この記事では、本書の中でも特にビジネスパーソンが知っておくべき「実践的な視点」に焦点を当ててご紹介します。
技術だけでは語れない再エネの世界
再生可能エネルギーの本と聞くと、太陽光パネルの仕組みや風力発電の技術解説がメインだと思いがちです。確かに本書でもそうした技術的な内容は丁寧に解説されています。しかし、本当に価値があるのは、技術と政策とビジネスの三つが交わる部分を立体的に理解できる点です。
例えば、太陽光発電の技術が進化しても、それだけでは普及しません。固定価格買取制度という政策的な後押しがあって初めて、多くの企業が参入し、ビジネスとして成立します。そして今度は、制度が変わることで新たなビジネスチャンスが生まれるのです。
本書では、こうした技術・政策・ビジネスの三位一体の関係を、具体的な事例とともに解説しています。IT業界で働く皆さんも、自社のサービスがどのような政策環境で成り立っているのか、考えたことがあるでしょう。再エネの世界も全く同じ構造なのです。
FITからFIPへ、制度変化がもたらすビジネスチャンス
2012年に日本で導入された固定価格買取制度、通称FITは、再エネを一気に拡大させました。発電した電気を決まった価格で電力会社が買い取る仕組みです。この制度のおかげで、メガソーラーや風力発電所が各地に建設され、再エネ市場が急成長しました。
しかし、FITには課題もありました。買取費用が電気料金に上乗せされ、私たち消費者の負担が増えたのです。また、発電量が天候に左右される再エネが増えすぎると、電力系統に負担がかかる問題も浮上しました。
そこで2022年に新たに創設されたのがFIPという制度です。これは市場連動型の仕組みで、発電事業者が電力市場で売電しながら一定のプレミアムを受け取る方式です。本書ではこのFITからFIPへの制度変更について、背景から今後の展望まで詳しく解説しています。
制度が変われば、ビジネスモデルも変わります。FIPの下では、蓄電システムやデマンドレスポンスといった新しい技術やサービスが重要になってきます。IT企業にとっても、電力データの分析や最適化といった分野で参入機会が広がるのです。
蓄電技術とスマートグリッドが拓く新市場
再エネの最大の弱点は、出力が不安定なことです。太陽光は夜間や雨天時に発電できませんし、風力も風次第です。この問題を解決するカギが、蓄電システムとスマートグリッドです。
本書では第9章で、リチウムイオン電池をはじめとする各種蓄電池の特徴や、次世代の全固体電池の開発動向まで紹介しています。また、水素をエネルギーの貯蔵手段として活用する最先端の取り組みについても解説されています。
再エネ由来の電気で水を分解して水素を作り、その水素を燃料電池で再び電気に戻す。こうした技術は単なる研究段階ではなく、すでに実証実験が各地で行われています。
さらに興味深いのは、マイクログリッドやVPPといった新しい概念です。マイクログリッドとは、地域内で電力を自給自足する小規模な電力網のこと。災害時にも電力を確保できるメリットがあります。
VPPは仮想発電所と訳され、分散している太陽光パネルや蓄電池、電気自動車などを、IT技術で統合制御する仕組みです。まさにデジタル技術と再エネが融合した分野であり、IT業界のプロフェッショナルが活躍できる領域なのです。
電力会社から石油会社まで、業界再編の動き
再エネの普及は、エネルギー業界全体の構造を変えつつあります。本書の第10章では、各業界の企業がどのように再エネビジネスに取り組んでいるかが具体的に紹介されています。
大手電力会社は、従来の火力発電中心から再エネ発電への転換を進めています。送配電網の強化にも巨額の投資をしています。一方、総合商社は世界各地の大規模な再エネプロジェクトに参画し、開発から運営まで手がけています。
最も興味深いのは、石油会社やガス会社の動きです。化石燃料を扱ってきた企業が、今では洋上風力発電事業に参入したり、水素事業を立ち上げたりしています。時代の変化に合わせて、自社のビジネスモデルを大きく転換しているのです。
これはIT業界にも通じる教訓ではないでしょうか。技術の進化や社会の変化に対応して、自社の強みを活かしながら新しい分野に挑戦する。まさに今、多くの企業に求められている姿勢です。
本書では、こうした企業の具体的な取り組み事例が豊富に紹介されているため、自社のビジネス戦略を考える上でも参考になります。
SDGsやESG投資との関係を理解する
再エネビジネスは、単なる技術革新やコスト削減だけの話ではありません。SDGsやESG投資といった社会的な潮流と深く結びついています。
SDGsの目標7は「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」です。また、目標13の「気候変動に具体的な対策を」にも再エネは欠かせません。企業がSDGsに取り組むことは、今や社会的責任というより、ビジネスの前提条件になっています。
ESG投資の観点でも、再エネへの取り組みは重要な評価項目です。環境への配慮を示すことは、投資家からの評価を高め、資金調達を有利にします。RE100という国際的なイニシアチブでは、事業で使う電力を100%再エネで賄うことを宣言する企業が増えています。
本書ではこうした社会的な背景も丁寧に説明されており、なぜ今、企業が再エネに注目するのかが腹落ちする内容になっています。自社でサステナビリティ報告書の作成を任されている方や、ESG関連のプロジェクトに関わる方には特に参考になるでしょう。
実際のビジネスに活かせる知識が満載
本書が優れているのは、単なる概論ではなく、実際のビジネスに活かせる具体的な情報が豊富に含まれている点です。
各章の末尾には「参考資料」として、企業一覧や導入事例がまとめられています。例えば風力発電の章では、風車の部品・材料メーカーの一覧が掲載されており、この業界のサプライチェーンが一目でわかります。
また、全11章にわたって、太陽光・風力・バイオマス・地熱・水力・海洋エネルギーと、主要な再エネ技術が網羅されています。それぞれについて、導入ポテンシャル、現状の課題、最新の技術動向が整理されているため、どの分野にビジネスチャンスがあるのか判断する材料になります。
図表やグラフも豊富で、発電コストの推移や世界各国の再エネ導入状況などが視覚的に理解できます。専門用語も平易に解説されているため、予備知識がなくても読み進められます。
2050年カーボンニュートラルに向けた展望
本書の第11章では、2050年に向けた脱炭素社会の展望が語られています。日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げています。この目標を達成するには、再エネを主力電源化することが不可欠です。
そのために必要なのは、電力系統の整備強化です。再エネは地域に分散しているため、送電網を増強し、柔軟に電力を融通できる仕組みが求められます。また、地域ぐるみで再エネを活用する取り組みも重要になります。
本書では、こうした将来像を描きながら、日本独自の強みをどう活かすかについても提言しています。例えば、浮体式洋上風力の技術開発は日本が先行しており、国際競争力を持つ可能性があります。
2050年というとまだ先のように感じるかもしれませんが、ビジネスの世界では、長期的な視点で戦略を立てることが重要です。自社のサービスや製品が、この大きな流れの中でどう位置づけられるのか。そんな視点を持つことが、これからのビジネスパーソンには求められます。
入門書だからこそ価値がある
本書は「入門書」として位置づけられていますが、入門書だからこそ価値があります。専門家向けの詳細な技術書ではなく、ビジネスの全体像を把握したい人のために書かれているからです。
ある読者は「再生可能エネルギーが漠然と大事だという程度の知識で読み始めました。基本的な事から、現状や導入事例等もありイメージが掴めました。図表も多く、INDEXも付いているので、辞書代わりにも活用出来そうです」と評価しています。
また別の読者は「このシリーズは最初の入口として読みやすく良い」と述べています。確かに、全く土地勘のない分野について学ぶ際は、網羅的でバランスの取れた入門書から始めるのが効率的です。
忙しいビジネスパーソンにとって、212ページという分量も適切です。通勤時間や休日の数時間で読み通せるボリュームでありながら、必要な情報がしっかりと詰まっています。
あなたのキャリアにも関わる再エネの知識
IT業界で働く皆さんにとって、再エネの知識は他人事ではありません。データセンターの消費電力は膨大で、その電力を再エネで賄う取り組みが進んでいます。また、IoTやAIを活用したエネルギー管理システムの開発も活発です。
自社のサービスが将来的に再エネ関連のプロジェクトと関わる可能性は十分にあります。あるいは、取引先企業が再エネへの対応を求めてくるかもしれません。そんな時に、基本的な知識を持っているかどうかで、会話の質が変わってきます。
また、新規事業の企画や事業提携の検討においても、再エネ市場の理解は役立ちます。成長が見込まれる市場であり、政策的な支援も手厚い。参入を検討する価値は十分にあるでしょう。
管理職として部下と対話する際にも、社会の大きな流れを理解していることは重要です。「脱炭素」「カーボンニュートラル」といった言葉の意味を正しく理解し、自社のビジネスとの関連を説明できることが、リーダーシップにつながります。
今村雅人氏の「図解入門ビジネス 最新 再生可能エネルギーの仕組みと動向がよ~くわかる本」は、そんなビジネスパーソンに必要な知識を、効率的に身につけられる一冊です。技術の話だけでなく、政策やビジネスの動向まで含めた実践的な視点が得られることが、本書最大の魅力です。
週末の数時間を使って、未来のエネルギーとビジネスの全体像を掴んでみませんか。きっと、あなたのキャリアにも新しい視点をもたらしてくれるはずです。

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