あなたの会社のサステナビリティ報告書、本当に信頼できる数字ですか。気候変動への取り組みを示すGHG排出量、人的資本の多様性を示す指標。これらのデータを集計する裏側で、Excelファイルが各部署でバラバラに管理され、誰がどのように計算したのか説明できない、そんな状況に陥っていませんか。2026年の今、サステナビリティ情報の第三者保証が本格化しつつあります。しかし、多くの企業が直面しているのは「数字さえ合っていれば良い」という認識の壁です。PwC Japan監査法人が編纂した『サステナビリティ保証の実務対応』は、そうした誤解を解き、企業が本当に備えるべき内部体制の構築を説く実践書です。
保証とは「数字の検証」ではなく「プロセスへの信頼」である
サステナビリティ情報の第三者保証と聞くと、多くの方は「監査法人が報告書の数字をチェックする」程度のイメージを持つかもしれません。しかし本書が明確にしているのは、保証とは単なる数値の突合せではないという事実です。
保証が問うのは、その数字がどのようなプロセスで作られ、そのプロセスが適切に統制されているかという点です。 データの正確性に加えて、出所の明確性、再現性、証憑との対応が担保されているかが評価の対象となります。
例えば、温室効果ガス排出量のデータを報告する場合を考えてみましょう。エネルギー使用量の根拠資料はどこにあるのか、排出係数はどのように選定されたのか、計算ロジックは文書化されているのか、元データとの突合は可能なのか。これらすべてにトレーサビリティが求められます。
多くの企業では、各部署が独自のフォーマットでExcelにデータを入力し、担当者が属人的に集計している状況があります。こうした体制では、第三者保証を受ける際に膨大な工数がかかるだけでなく、合理的な評価が困難になってしまいます。
内部統制の「見える化」が組織変革の第一歩
本書が第3章で強調するのが、サステナビリティ報告における内部統制構築の必要性です。これは財務報告における内部統制と同様に、組織としてデータの信頼性を担保する仕組みを整えることを意味します。
具体的には、ガバナンスの強化、責任者の明確化、プロセスの文書化が必要になります。誰がどの段階で何を承認するのか、データの入力ミスをどう防ぐのか、異常値が出た際にどう対処するのか。こうした業務フローを明文化し、組織全体で共有することが求められます。
内部統制の「見える化」とは、手順書の整備や統制フロー図の作成を通じて、暗黙知を形式知に変える作業です。これにより、担当者が変わってもデータの品質が維持され、経営陣も現場の実態を把握できるようになります。
保証対応には内部統制の観点が不可欠であり、これは一朝一夕に構築できるものではありません。組織体制の整備や人材の確保など、早くから備えなければならない事項も多いのです。
データ基盤整備こそが競争力の源泉となる時代
情報整備と内部統制の未成熟、これが今最も多くの企業が直面している課題です。保証制度が本格化しつつある中、この課題にどのように取り組むべきかが、企業の対応力と信頼性を左右する分岐点となります。
保証に耐えうる情報基盤を構築するには、データの「保証対応力」を確保することが第一歩です。これは、データの正確性だけでなく、出所の明確性、再現性、証憑との対応が担保されているかという観点です。
例えば、各部門から提出されるエネルギー使用量データが、購買記録や請求書といった原始証憑と紐づいているか。計算式がシステムで自動化されているか、それとも手入力に依存しているか。データの集計過程で誰がいつどんなチェックを行ったのか記録が残っているか。
こうした基盤整備は、単に保証対応のためだけではありません。データドリブンな経営判断を可能にし、サステナビリティ戦略の実効性を高める土台となるのです。
「うちはまだ対象外」という油断が命取りになる
サステナビリティ情報の第三者保証は、大企業から段階的に義務化される可能性が高いとされています。そのため「うちはまだ対象外だから」と考える中堅企業も少なくありません。
しかし、サプライチェーン全体でのサステナビリティ対応が求められる今、取引先からデータ提供を求められるケースが増えています。その際に信頼性の高いデータを提供できなければ、ビジネス機会の損失にもつながりかねません。
保証対応のための内部統制構築は、一朝一夕にはできません。 ガバナンス体制の整備、業務フローの文書化、システムの導入、人材の育成、これらすべてに時間がかかります。
「対象になってから対応すればいい」では間に合わないのです。今から段階的に準備を進めておくことが、将来の競争優位性を確保する鍵となります。
経営陣と現場の双方に深い理解が求められる
本書が指摘するもう一つの重要な点は、サステナビリティ保証への対応には経営陣も現場も深い理解が必要だということです。
経営陣には、サステナビリティ情報が財務情報と同等の重要性を持つという認識と、そのための投資判断が求められます。データ基盤の整備やシステム導入には相応のコストがかかりますが、これは将来の信頼獲得のための必要投資です。
一方、現場担当者には、なぜこのデータが必要なのか、どのように使われるのかを理解した上で、正確なデータ収集と管理を行う責任があります。単なる作業としてではなく、企業価値向上のための重要な業務と位置づける必要があります。
組織全体でサステナビリティ保証の意義を共有し、体制構築に取り組む。 これが本書が説く実践的アプローチの核心です。
データの向こう側にあるのは「信頼」という資産
サステナビリティ保証への対応を単なるコンプライアンスと捉えるか、それとも企業価値向上の機会と捉えるか。その違いが、今後の企業の成長を大きく左右します。
適切な内部統制とデータ基盤を構築した企業は、投資家やステークホルダーからの信頼を獲得し、ビジネス機会を拡大できます。一方、形だけの対応に終始した企業は、いずれグリーンウォッシングの批判にさらされるリスクを抱えることになります。
PwC Japan監査法人の『サステナビリティ保証の実務対応』は、最新の国際基準ISSA 5000への対応から、具体的な内部統制構築のアプローチ、業種別の課題まで、実務者が本当に必要とする知識を網羅しています。
データの向こう側にあるのは、数字ではなく「信頼」という目に見えない資産です。その信頼を築くための本質的な組織変革に、今こそ取り組むべき時です。本書はそのための確かな羅針盤となるでしょう。

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