なぜあの上司は一を聞いて十を知るのか?具体と抽象を自在に操る理解力の秘密

部下に同じことを何度も説明しているのに、なぜか伝わらない。あるいは、自分の経験をいくら話しても、部下が応用できない。そんな悩みを抱えていませんか?

一方で、社内には一を聞いて十を知る人がいます。少し説明しただけで本質を理解し、別の場面でも適切に対応できる人。その違いはどこにあるのでしょうか。

深沢真太郎さんの新刊では、この差が具体と抽象を往復する力にあると説明されています。本書を読めば、あなたも部下の理解を深め、さらに職場での対立を解消する共通理解を作れるようになります。

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第一の理解だけでは応用が利かない

前回の記事でDASモデルを紹介しました。定義し、分析し、体系化することで、対象を説明できる状態にする。これが第一の理解です。

しかし、実はこれだけでは不十分なのです。なぜなら第一の理解は、目の前の対象について説明できるだけだからです。別の場面に遭遇したとき、また一から考え直さなければなりません。

たとえばあなたが、新規顧客の開拓方法を部下に教えたとします。部下は理解して、新規顧客を獲得できました。しかし休眠顧客の掘り起こしを任せたとき、部下は動けなくなってしまいます。

なぜでしょうか。部下は新規顧客開拓という具体的な方法は理解しましたが、その背後にある抽象的な原理を理解していないからです。つまり顧客との関係構築という本質が見えていないのです。

深沢さんは、この状態を超えるために第二の理解が必要だと述べています。第二の理解とは、異なる対象を同じものとみなして説明できる状態を指します。これこそが、応用力や機転の正体なのです。

具体から抽象へ、そして再び具体へ

第二の理解を獲得するには、具体と抽象を往復する訓練が必要になります。この往復運動によって、表面的な違いを超えた本質が見えてくるのです。

抽象化とは、複数の具体例から共通点だけを抜き出す作業です。たとえば3つのリンゴと3つのホタテは、具体的には全く違います。しかし抽象化すると、どちらも3つという数で表現できます。

深沢さんは、抽象化を特徴を消していく作業だと説明しています。リンゴの赤さや、ホタテの貝殻といった個別の特徴を消し、数という共通点だけを残す。これが抽象化の本質なのです。

一方で具体化とは、抽象的な概念に個別の特徴を加えて、現実の対象に落とし込む作業になります。3という数字に、色や形や味という特徴を加えれば、リンゴにもホタテにもなります。

この往復ができるようになると、驚くほど応用が利くようになります。新規顧客開拓と休眠顧客掘り起こしという具体を、関係構築という抽象で捉える。すると営業だけでなく、社内調整でも同じ原理が使えることに気づくのです。

部下への指導が劇的に変わる瞬間

具体と抽象の往復は、管理職として部下を指導する場面で特に威力を発揮します。なぜなら、部下が本質を理解できるよう導けるからです。

従来の指導では、具体的な手順を教えることが中心でした。この書類はこう書く、このトラブルはこう対処する。しかしこれでは、部下は教わった場面でしか動けません。

抽象化の視点を持つと、指導の質が変わります。たとえば報告書の書き方を教えるとき、単に文章の構成を説明するだけではありません。読み手が知りたい情報を先に書くという原則を伝えます。

すると部下は、報告書だけでなくメールやプレゼンでも、同じ原則を応用できるようになります。なぜなら読み手優先という抽象的な原理を理解したからです。

深沢さんの言葉を借りると、第二の理解があれば、一を聞いて十を知ることができるのです。管理職として、部下にこの力を身につけさせることが、真の育成だと言えるでしょう。

会議での対立を解消する共通理解の作り方

本書の優れた点は、具体と抽象を個人の理解力向上だけでなく、組織のコミュニケーション改善にも応用している点です。第6章では、共通理解の作り方が詳しく解説されています。

会議で意見が対立するとき、多くの場合、前提条件が違うことが原因です。しかし参加者は、自分と相手の前提が違うことに気づいていません。だから議論が平行線をたどるのです。

深沢さんは、理解を同じと違うに分けることができると指摘しています。対象を理解することだけでなく、自分の理解と相手の理解の同じと違うを分けることで、共通理解が作れるというのです。

たとえば出社派とリモート派の対立を考えてみましょう。出社派は対面コミュニケーションを重視します。リモート派は柔軟な働き方を求めます。これは違う点です。

しかし抽象化すると、双方とも生産性と働きやすさを求めている点は同じです。この共通点を確認してから、それぞれの方法論について議論すれば、建設的な結論が得られます。

管理職として、この視点を持つことは極めて重要です。部下同士の対立、他部署との調整、経営層との折衝。すべての場面で、同じと違うを見極める力が求められるからです。

質問設計で相手の理解を引き出す

共通理解を作るには、相手の前提条件を知る必要があります。そのために深沢さんが提唱するのが、質問設計という考え方です。

単に何が問題ですかと聞いても、表面的な答えしか返ってきません。相手の理解を深く探るには、前提を問う質問が必要なのです。

たとえば部下が仕事で行き詰まっているとき、あなたはこの仕事をどう理解していますかと問いかけてみましょう。すると部下の認識が明らかになり、どこでズレているかが見えてきます。

あるいは会議で方針を決めるとき、この方針の目的は何だと思いますかと全員に確認します。驚くことに、同じ会議室にいながら、目的の理解がバラバラだったりするのです。

質問設計のコツは、相手に自分の理解を言語化させることにあります。言語化の過程で、相手自身も自分の前提に気づきます。そして共通理解への道が開けるのです。

深沢さんは、相手の理解を理解することの重要性を繰り返し強調しています。これは単なるコミュニケーション技術ではなく、理解力そのものの応用だと位置づけられています。

抽象化で見えてくる組織の本質的な課題

具体と抽象を往復できるようになると、組織の問題を本質的に捉えられるようになります。表面的な現象に振り回されず、根本原因にアプローチできるのです。

たとえば部下のミスが続いているとします。具体的には、書類の記入漏れ、納期の遅れ、報告の抜けなど、バラバラな問題に見えます。

しかし抽象化すると、すべて確認不足という共通点が浮かび上がります。そこでチェックリストを導入すれば、複数の問題を一気に解決できるかもしれません。

あるいはチーム内の雰囲気が悪いという課題があったとします。具体的な出来事を並べても、解決策は見えてきません。

しかし抽象化して、心理的安全性の欠如という本質に気づくと、対策が明確になります。失敗を責めない文化を作る、質問しやすい雰囲気を醸成する。そういった根本的な改善が可能になるのです。

深沢さんが示す具体と抽象の往復は、まさに管理職に必要な思考法だと言えます。目の前の問題処理に追われるだけでなく、本質的な改善を進められる上司になれるからです。

家庭でも使える具体と抽象

本書の魅力は、ビジネスだけでなく人生全般に応用できる点にあります。具体と抽象の往復は、家庭でのコミュニケーションにも役立つのです。

たとえば子どもが勉強しないと悩んでいるとします。宿題をしなさい、テスト勉強をしなさいと具体的に指示しても、なかなか動きません。

しかし抽象化して、将来の選択肢を広げるために学ぶという本質を伝えられれば、子どもの意識が変わるかもしれません。あるいは成長の喜びという抽象的な価値に気づかせることもできるでしょう。

妻との会話がかみ合わないときも、同じ原理が使えます。具体的な出来事の是非を争うのではなく、お互いが大切にしている価値観という抽象レベルで理解し合うのです。

深沢さんは、結婚を就職と同じだと捉える視点を紹介しています。これも抽象化の一例です。契約、役割分担、目標設定といった共通構造が見えてくるからです。

具体と抽象を自在に行き来できるようになると、職場でも家庭でも、人間関係が驚くほどスムーズになります。それは表面的なテクニックではなく、本質的な理解力の向上によるものなのです。

今日から始める具体と抽象の訓練

では、どうすれば具体と抽象を往復する力が身につくのでしょうか。深沢さんは本書の第5章で、実践的な演習を用意しています。

最も効果的な訓練は、日常の出来事を抽象化してみることです。たとえば通勤電車で遅延が発生したとき、単にイライラするのではなく、これは何の一例かと考えてみます。

すると、計画通りにいかない事態への対処という抽象的なテーマが見えてきます。そして会議の予定変更や、プロジェクトの遅延にも、同じ原理で対応できることに気づくのです。

あるいは部下との会話で、相手の発言を抽象化する習慣をつけましょう。この部下は何を大切にしているのか、どんな価値観を持っているのか。具体的な言葉の背後にある本質を探るのです。

深沢さんが強調するのは、頭の中だけでなくペンとノートで考えることです。具体例を書き出し、共通点を探し、抽象的な言葉でまとめる。この作業を繰り返すことで、確実に力がついていきます。

本書の演習問題に取り組めば、さらに効果的です。生産性、ハラスメント、結婚といった概念を、自分なりに定義し、分析し、体系化する。そのプロセスで、具体と抽象の往復が身についていくのです。

理解力が変われば、世界の見え方が変わる

本書を読んで最も衝撃的だったのは、理解力の向上が単なるスキルアップではなく、世界の見え方そのものを変えるという視点です。

具体と抽象を自在に操れるようになると、あらゆる物事のつながりが見えてきます。一見バラバラな出来事が、実は同じ原理で動いていることに気づきます。そして一つの学びを、無限に応用できるようになるのです。

管理職として、この力を身につければ、部下育成の効率が格段に上がります。一を教えて十を理解させられるからです。会議での調整力も向上します。対立の本質を見抜き、共通理解を作れるからです。

さらに家庭でも、子どもや配偶者との関係が改善します。表面的な言葉ではなく、本質的な価値観のレベルで理解し合えるからです。

深沢さんの具体と抽象という視点は、シンプルでありながら極めて強力です。この一つの原理を身につけるだけで、仕事も人生も、確実に好転していくでしょう。

あなたも今日から、具体と抽象を意識してみませんか。目の前の出来事を抽象化し、本質を捉える。そして別の場面に応用する。この習慣が、あなたを一を聞いて十を知る人へと変えていくはずです。

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NR書評猫1129 深沢真太郎 シン・理解力

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