「部下に指示を出しても、なかなか動いてもらえない」「会議で提案をしても、なぜか通らない」……そんな悩みを抱えていませんか?
管理職になったばかりの頃、私はこんな思い込みを持っていました。部下全員に均等に仕事を振り、均等に声をかけ、均等に評価することが「公平なマネジメント」だと信じていたのです。しかし結果は逆でした。チームはまとまらず、成果も上がらない。部下からの信頼も、思うようには得られませんでした。
その「思い込み」を根本から崩してくれたのが、フードビジネスコンサルタント・大久保一彦さんの著書『「行列のできるダントツ飲食店」の秘密』でした。飲食店経営の本でありながら、読み進めるうちに「これはチームマネジメントの話だ」と気づかされる一冊です。今回は本書の中でも特に実践的な「4番バッター戦略」と「打線の編成」という考え方についてお伝えします。
1. 「全員に平等に売り込む」飲食店が失敗する理由
大久保さんは本書の中で、多くの飲食店が陥る最大の失敗をこう指摘しています。すべてのメニューを均等に売り込もうとすること、です。
全メニューに等しく力を注ぎ、全商品を同じようにアピールする。一見すると努力しているように見えます。しかし実際には、どの料理も「そこそこ美味しい」という印象しか残らず、「またあの店に行きたい」と思わせる決め手が生まれません。大久保さんはこうした状態を「バタ貧」と名付けています。バタバタと忙しく動き回っているのに、成果が出ない状態のことです。
これを読んだとき、私はハッとしました。チームマネジメントでもまったく同じことをやっていたからです。
部下全員に同じ量の仕事を振り、同じように期待をかける。公平に見えますが、誰の強みも際立たない状態になります。「バタ貧」は飲食店だけの問題ではなく、管理職にとっても身近な落とし穴なのです。
2. 「4番バッター」を見つけるとチームが変わる
では、どうすればよいのか。大久保さんが提案するのは、まず店の「4番バッター」を発掘することです。4番バッターとは、他のどのメニューよりも圧倒的な魅力を持ち、「この店といえばこれ」と言われる看板商品を指します。
この発想をチームマネジメントに置き換えると、次のような問いになります。あなたのチームを「一言で表す強み」は何ですか?
たとえばITチームなら、「複雑な要件の整理と設計が得意」「障害対応の速さが社内随一」「顧客との折衝に突出した力を持つメンバーがいる」といった形で、看板となる強みを一つ明確にする、ということです。
チームの看板を見つける問いかけ
- 他の部署から「あのチームに頼もう」と声がかかる場面はどんなときか
- 過去に最も高い評価を受けた仕事は何か
- 特定の領域で突出した力を発揮している部下は誰か
この3つの問いに向き合うことで、あなたのチームの「4番バッター」が浮かび上がってきます。そしてその4番バッターを前面に出すことで、チームにアイデンティティが生まれ、部下一人ひとりの仕事へのモチベーションが高まっていくのです。
3. 「打線の編成」で提案を通す技術
4番バッターを見つけるだけでは、まだ十分ではありません。大久保さんが本書の中で特に力を込めて語るのが、「打線の編成」の重要性です。
野球で4番打者が活躍するためには、1番から3番が出塁して得点圏に走者を置いておく必要があります。飲食店でいえば、前菜やサイドメニューが「この後に来る主役料理への期待感」を高める役割を果たすわけです。いきなり4番を打席に立たせても、走者がいなければ得点にはなりません。
この考え方は、会議でのプレゼンや提案にもそのまま応用できます。
管理職として提案を通したいとき、多くの人がいきなり「結論」から入ってしまいがちです。しかし聞き手はまだ心の準備ができていない。だからこそ「打線の編成」が必要になります。
説得力が増す提案の順序
まず「現状の課題」を具体的に示すことで、聞き手に問題意識を持ってもらいます。次に「よくある対策とその限界」を説明して、新しいアプローチへの関心を引き出します。そして最後に、チームの強みを活かした具体策という「4番バッター」を投入するのです。
この流れを意識するだけで、提案の説得力は格段に増します。聞き手が自然と「この提案が最善だ」と感じるよう、心の準備を整えることができるからです。
4. 選択肢を絞ると部下は自然と動き出す
本書でもう一つ印象的なのが、「メニューが多すぎるとお客様はかえって何も注文できなくなる」という指摘です。100種類のメニューがある店より、「この店に来たらこれを食べる」という看板料理がある店の方が、顧客の満足度は高い。これは行動心理学でいう「選択回避の法則」と一致する考え方です。
チームマネジメントでも、同じ現象が起きています。
「何でも相談してくれ」「自分で考えて動いてくれ」という言葉は、一見すると部下を信頼しているように聞こえます。しかし実際には、部下に「どうすればいいのか」という迷いを与えてしまうことがあります。
部下の迷いをなくす伝え方
- まず今週の最優先事項を一つ絞り込んで伝える
- 次にゴールの状態を具体的に示す
- それから必要なサポートを確認する
この順番で話しかけることで、部下は選択のストレスから解放されます。部下が動き出すのは指示が増えたときではなく、迷いが消えたときです。この一点を意識するだけで、チームの動き方は大きく変わります。
5. 「弱み」をオンリーワンに変える発想の転換
大久保さんが本書全体を通して伝えるのは、「発想の転換」という核心的なメッセージでもあります。
「立地が悪い」「メニューが少ない」「スタッフが少人数」……飲食店経営者が弱みだと思っているものを逆手にとってオンリーワンの強みにする。多額の設備投資をしなくても、考え方を変えるだけで劇的に状況が変わると著者は断言しています。
チームに置き換えると、次のような視点の転換が考えられます。
「人数が少ない」チームは、意思決定の速さという強みを持ちます。「専門性が偏っている」チームは、特定の領域での圧倒的な実力がある、とも言えます。「若手が多い」チームは、固定観念にとらわれず新しい手法を積極的に試せる、という見方もできます。
大久保さんは本書の中で、「平均点的な飲食店は必ず淘汰される」と断言しています。これは「何でもそつなくこなすチーム」が、やがて存在意義を失っていく可能性を示唆しているようにも読めます。あなたのチームの「弱み」だと思っていたものを、ぜひ別の角度から見直してみてください。意外な4番バッターが見つかるかもしれません。
「行列のできるチーム」をつくるために
大久保一彦さんの本書は、飲食店経営の知恵がぎっしり詰まった実践書です。同時に、チームの強みを活かしきれていないと感じている管理職にとって、深く刺さるマネジメントの書でもあります。
本書から得られる示唆をまとめると、まずチームの「4番バッター」を見つけて経営資源を集中させること、次に「打線の編成」のように強みを最大限に引き出す流れを設計すること、そして部下の迷いをなくすために選択肢と優先順位を明示すること、この3点に尽きます。
部下から信頼される上司になりたい、提案が通りやすくなりたいと考えているなら、まずこの問いから始めてみてください。「うちのチームの4番バッターは何で、どんな打線を組めばいいか」と。その答えを見つけたとき、チームのマネジメントはきっと変わり始めるはずです。

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