あなたの部下は本当に能力がないのか〜飯山辰之助『SHIFT解剖』が教える伸びしろの見抜き方

部下が期待通りに成長してくれない。何度教えても同じミスを繰り返す。そんな経験はありませんか。多くの中間管理職が、部下の能力不足に頭を悩ませています。

しかし、本当に問題なのは部下の能力でしょうか。もしかすると、その部下の本当の強みを見抜けていないだけかもしれません。適性に合わない仕事を任せていることが、成長を阻んでいる可能性はないでしょうか。

日経ビジネス副編集長の飯山辰之助氏が著した『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』は、この問題に対する驚くべき解答を示してくれます。本書が描くIT企業SHIFTは、元パティシエ、宮大工、警察官、引きこもりといった、IT業界とは無縁の人材を大量に採用し、圧倒的な成果を出しています。

彼らが実践しているのは、完成された即戦力を探すのではなく、未開拓の伸びしろを見抜いて育てるという手法です。この考え方は、限られた人員で最大の成果を求められる私たち中間管理職にとって、極めて実践的な指針となります。

今回は、本書のポイントである「多様な人材の伸びしろを見極めるポテンシャル採用」という手法を、あなたのチームマネジメントにどう活かせるかをお伝えします。

Amazon.co.jp: SHIFT解剖 究極の人的資本経営 飯山辰之介 X : おもちゃ
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即戦力という幻想を捨てる

多くの上司が陥る最大の誤りは、即戦力ばかりを求めてしまうことです。経験者が欲しい、すぐに成果を出せる人が欲しい。その気持ちは分かります。しかし、この発想では永遠に人材不足から抜け出せません。

SHIFTの創業社長である丹下大氏は、全く逆の戦略を取りました。IT業界が経験者の奪い合いをしている中、あえて未経験者を大量に採用したのです。元パティシエ、宮大工、警察官、キャバクラ勤務、引きこもり、ダンサー、スーパーの店長など、履歴書だけ見れば「なぜIT企業に?」と首をかしげるような経歴の人たちです。

しかし丹下社長は「1%の天才よりも、99%の普通の人々の能力をいかに発揮させるか」という明確な理念を持っていました。完成された人材を探すのではなく、伸びしろのある人材を見つけて育てる。この発想の転換が、同社の急成長を支えているのです。

あなたのチームにも、一見すると地味で目立たない部下がいるでしょう。その人は本当に能力が低いのでしょうか。それとも、まだ適切な場所を与えられていないだけではないでしょうか。

履歴書は嘘をつく

多くの企業が人材を評価する際、履歴書の学歴や職歴を重視します。有名大学を出ているか、大手企業での経験があるか。しかしSHIFTは、これらの情報を一切考慮しません。

同社が採用で重視するのは、自社開発の適性検査「CAT検定」の結果だけです。この検定は、地頭や論理的思考力、正確性といった、テスト業務への適性を測定するものです。学歴や職歴、面接時の印象といった表面的な要素は、一切評価に影響しません。

なぜこのような手法を取るのか。それは、履歴書に書かれた情報と、実際の業務遂行能力には相関がないことが多いからです。有名大学を出ていても、論理的思考が苦手な人はいます。逆に、学歴がなくても驚異的な問題解決能力を持つ人もいます。

この考え方は、私たちの部下評価にも応用できます。あなたは部下を評価する際、表面的な印象に引っ張られていないでしょうか。声が大きいから優秀、物静かだから頼りない。こうした思い込みが、本当の能力を見誤らせているかもしれません。

重要なのは、その人が実際に何ができるかです。そして、どんな環境なら力を発揮できるかを見極めることです。

伸びしろを測定する技術

SHIFTの実践で最も示唆に富むのは、伸びしろを感覚ではなく数値で測定しようとしている点です。

多くの上司が「この部下は伸びそうだ」と感じることはあっても、その根拠を明確に説明できる人は少ないでしょう。SHIFTは、CAT検定という客観的なツールを使うことで、誰が見ても同じ結論に至る評価システムを構築しました。

この検定により、IT未経験者であっても将来的に高い生産性を発揮できる素養があるかどうかを、採用段階で正確に判定できるのです。結果として、IT業界の慢性的な人手不足とは無縁の、年間5000人規模という圧倒的な採用力を実現しています。

あなたのチームでも、伸びしろを測定する仕組みを作ることができます。CAT検定のような高度なシステムは必要ありません。例えば、新しい業務を任せた際の学習スピード、質問の質、フィードバックへの対応などを記録していけば、その人の成長パターンが見えてきます。

過去の実績だけを見るのではなく、これからどれだけ成長できるかを評価する。この視点の転換が、部下の可能性を引き出す第一歩なのです。

適材適所は作り出すもの

SHIFTが実践しているもう一つの重要な手法は、人に仕事を合わせるのではなく、人の適性に合わせて仕事を設計するという発想です。

450項目以上のデータを蓄積する「ヒトログ」というシステムを使い、一人ひとりの強みと弱みを細かく分析します。そのデータに基づいて、その人が最も力を発揮できるポジションを見つけ出すのです。

例えば、コミュニケーションは苦手だが分析力に優れている人には、黙々とデータを扱う業務を任せる。逆に、人と話すのが得意な人には顧客折衝の多い業務を割り当てる。このように、個人の特性に合わせて業務を最適化することで、全員が高いパフォーマンスを発揮できる組織を作っているのです。

あなたは部下の適性を、どこまで理解しているでしょうか。もし部下が期待通りの成果を出せていないなら、それは能力の問題ではなく、配置の問題かもしれません。

静かで目立たない部下が、実は複雑な問題を解決する能力に長けている。明るく社交的な部下が、実は一人で黙々と作業する方が成果を出せる。こうした意外な適性は、日々の観察と対話からしか見えてきません。

多様性が組織を強くする

本書を読んで最も印象的なのは、SHIFTの社員の多様性です。IT業界という専門性の高い分野にもかかわらず、元警察官、パティシエ、宮大工といった異業種出身者が活躍しています。

なぜ多様なバックグラウンドを持つ人材が必要なのか。それは、同質的な組織では見えない視点や発想が生まれないからです。全員が同じような経歴を持ち、同じような考え方をする組織は、一見効率的に見えて、実は脆弱なのです。

異業種から来た人材は、業界の常識にとらわれない新鮮な視点を持っています。パティシエとして培った細かい作業への集中力、警察官として身につけた規律性、宮大工として学んだ精密さ。これらの経験は、IT業界でも十分に活かせるスキルです。

あなたのチームにも、一見すると場違いに見える経歴の部下がいるかもしれません。しかし、その人の過去の経験には、今の業務に活かせる要素が必ず含まれています。

重要なのは、表面的な経歴の類似性ではなく、本質的な能力の適合性です。多様な人材を受け入れ、それぞれの強みを活かす。この柔軟性こそが、強い組織を作る鍵なのです。

育成のコストは投資である

即戦力ではなく伸びしろのある人材を採用するということは、当然ながら育成に時間とコストがかかります。多くの企業がこのコストを嫌い、完成された人材を求めてしまうのも理解できます。

しかしSHIFTは、この育成コストを「投資」として明確に位置づけています。人材への投資は、長期的には最も高いリターンを生み出すという確信があるからです。

実際、同社の平均年収は2017年の520万円から2024年には670万円へと大幅に上昇しています。これは単なる人件費の増加ではなく、投資した人材が成長し、それに見合う成果を出しているからこそ実現できている数字なのです。

あなたは部下の育成に、どれだけの時間を投資しているでしょうか。日々の業務に追われ、部下を育てる時間がないと感じているかもしれません。しかし、短期的な業務効率を優先して育成を怠れば、長期的にはチーム全体の生産性が低下してしまいます。

育成は時間の浪費ではなく、将来への投資です。今日1時間を部下の育成に使えば、数ヶ月後にはその部下が自律的に動けるようになり、あなたの負担は大きく減るでしょう。

天才を探すのではなく普通の人を活かす

SHIFTの成功を支える最も重要な理念は「1%の天才よりも、99%の普通の人々の能力をいかに発揮させるか」という考え方です。

多くの企業は、優秀な一部の人材に依存する組織構造を作りがちです。スーパースターが活躍し、その他大勢は補助的な役割に甘んじる。しかしこの構造には大きなリスクがあります。そのスーパースターが辞めてしまえば、組織は機能不全に陥るのです。

SHIFTは全く逆のアプローチを取ります。普通の人たちが、それぞれの適性に合った場所で最大限の力を発揮できる仕組みを作る。一人ひとりの能力は平均的でも、適材適所で配置すれば、チーム全体としては驚異的な成果を出せるのです。

あなたのチームには、スーパースターはいないかもしれません。しかし、それは弱みではなく強みになり得ます。なぜなら、特定の個人に依存しない、再現性の高い組織を作れるからです。

重要なのは、部下一人ひとりの小さな強みを見つけ出し、それを活かせる環境を整えることです。完璧な人材を探すのではなく、普通の人たちの力を引き出す。これが、持続可能な組織を作る秘訣なのです。

失敗を許容する文化を作る

伸びしろのある人材を育てるためには、失敗を許容する文化が不可欠です。

SHIFTでは、未経験者を大量に採用しているため、当然ながら最初は失敗も多く発生します。しかし、業務プロセスを標準化し、失敗から学ぶ仕組みを整えることで、その失敗を次の成長につなげているのです。

多くの組織では、失敗が厳しく叱責されます。その結果、部下は失敗を恐れて挑戦しなくなり、成長が止まってしまいます。これは、伸びしろのある人材を潰してしまう最悪のパターンです。

あなたのチームでは、部下が安心して失敗できる環境があるでしょうか。失敗したときに「なぜそうなったのか」を冷静に分析し、次に活かす仕組みがあるでしょうか。

失敗を責めるのではなく、失敗から学ぶ姿勢を評価する。この文化があれば、部下は恐れずに新しいことに挑戦し、急速に成長していきます。

見えない能力を可視化する技術

部下の伸びしろを見抜くためには、表面的には見えない能力を可視化する必要があります。

SHIFTのCAT検定は、まさにこの目的のために開発されたツールです。履歴書や面接では分からない、地頭の良さや論理的思考力といった潜在的な能力を、客観的に測定します。

あなたのチームでも、同様の工夫ができるはずです。例えば、新しい業務を説明したときの理解のスピード、質問の的確さ、トラブル発生時の対処方法などを記録していけば、その人の思考パターンや学習能力が見えてきます。

また、定期的な1対1面談で、部下の興味関心や将来の目標を聞くことも重要です。その人が何に情熱を持っているのかが分かれば、どんな業務なら高いモチベーションで取り組めるかが見えてきます。

能力は、見ようとしなければ見えません。日々の観察と記録を通じて、部下の隠れた強みを発見する習慣を持ちましょう。

評価基準を明確にすることの重要性

伸びしろのある人材を育てるためには、成長の道筋を明確に示すことが不可欠です。

SHIFTには「トップガン」という12種類の社内検定制度があります。この検定に合格すれば、直接的に年収アップにつながります。何ができるようになれば評価されるのか、どこまで成長すればどんな報酬が得られるのか。すべてが明確に示されているのです。

この透明性があるからこそ、社員は自発的にスキルアップに取り組みます。ゴールが見えていれば、そこに向かって努力できる。逆に、ゴールが不明確だと、どう努力していいか分からず、モチベーションが下がってしまいます。

あなたは部下に、成長の道筋を明確に示しているでしょうか。何を習得すれば次のステップに進めるのか、どんな成果を出せば評価されるのか。これらを具体的に伝えているでしょうか。

評価基準を明確にすることは、部下にとっての道標になります。そして、その基準を達成するために必要なサポートを提供することが、上司の重要な役割なのです。

弱みを補うより強みを伸ばす

多くの上司が陥る間違いは、部下の弱点ばかりに注目してしまうことです。

SHIFTのアプローチは全く異なります。450項目のデータを分析して個人の強みを見つけ出し、その強みを最大限に活かせるポジションに配置します。弱みを無理に直そうとするのではなく、強みで勝負できる環境を作るのです。

これは理にかなった戦略です。人間には向き不向きがあります。苦手なことを平均レベルまで引き上げるより、得意なことを突き抜けたレベルまで伸ばす方が、本人にとっても組織にとっても効率的なのです。

あなたの部下にも、必ず得意な領域があります。コミュニケーションが苦手でも、分析力が抜群かもしれません。プレゼンは下手でも、文章力は素晴らしいかもしれません。

部下の弱点を指摘することも時には必要ですが、それ以上に重要なのは、強みを見つけて伸ばすことです。その強みを活かせる業務を任せれば、部下は自信を持ち、さらに成長していくでしょう。

今すぐ始められる伸びしろの見抜き方

本書を読んで、明日から実践したいと思ったなら、まずは部下との対話から始めてください。

週に一度、30分でもいいので部下と1対1で話す時間を作りましょう。そこで聞くべきは、業務の進捗だけではありません。どんな作業が楽しいか、どんな瞬間に達成感を感じるか、将来どうなりたいか。こうした質問から、その人の興味や適性が見えてきます。

また、新しい業務を任せる際は、その過程を観察してください。説明を一度で理解できるか、質問は的確か、困難に直面したときにどう対処するか。これらの観察から、学習能力や問題解決能力といった、履歴書には書かれていない本質的な能力が分かります。

SHIFTのような大規模なシステムを導入する必要はありません。日々の観察と記録、そして対話。この地道な積み重ねが、部下の本当の能力を見抜く力を養ってくれます。

そして何より重要なのは、先入観を捨てることです。学歴、年齢、性別、過去の職歴。これらの表面的な情報に惑わされず、その人自身を見る。この姿勢があれば、これまで気づかなかった部下の可能性が見えてくるはずです。

『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』は、完成された人材を探すのではなく、伸びしろのある人材を育てることの重要性を、実例とともに示した一冊です。

あなたの部下は、本当に能力がないのではないかもしれません。ただ、適切な場所を与えられていないだけかもしれないのです。この本が教えてくれるのは、その可能性を信じ、引き出す技術です。

部下の成長に悩むすべての中間管理職に、ぜひ読んでいただきたい本です。

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NR書評猫1136 飯山辰之助 SHIFT解剖

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