会議で提案しても反応が薄い、部下に指示を出しても思った通りに動いてくれない、プレゼンで説明しても相手に伝わっている気がしない。そんな経験はありませんか?「もっと語彙力があれば」「もっと表現力があれば」と思いがちですが、実は問題の本質は別のところにあります。
博報堂のスピーチライターとして36年にわたり言葉と向き合ってきたひきたよしあき氏の「5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本」は、言葉の問題を根本から解決する実践的なトレーニング法を提示しています。本書が教えてくれるのは、語彙を増やすことよりも、相手の視点で考える習慣を身につけることの重要性です。
伝わらないのは語彙力の問題ではない
多くの人が言葉の悩みを抱えたとき、まず考えるのが「自分には語彙力が足りない」という思い込みです。しかし、本書の主人公である山崎大も同じ悩みを抱えていました。理系出身で国語が苦手な彼は、ボキャブラリーの少なさを問題だと感じていたのです。
ところが、恩師の和田先生は意外な指摘をします。問題は語彙力ではなく、普段から言葉を声に出していないこと、そして相手の立場に立って考える習慣がないことだと。
本書のDay 2「考える習慣をつける」では、単一的で主観的な視点から脱却し、多角的で共感に基づいた思考習慣を身につけることに焦点を当てています。この日のトレーニングこそが、言葉の問題を根本から解決する鍵なのです。
相手の頭で考えるトレーニング
Day 2で最も重要なのが「人の頭で考える」というトレーニングです。顧客、上司、競合他社など、コミュニケーションの相手となる人物の立場に身を置き、あの人ならどう考えるかをシミュレーションします。
たとえば、部下に新しいプロジェクトを任せる場面を想像してみてください。あなたは「このプロジェクトは会社にとって重要だから」と説明するかもしれません。しかし、部下の頭で考えてみるとどうでしょうか。部下が気にしているのは、このプロジェクトで何を学べるか、自分のキャリアにどう影響するか、他の業務とのバランスはどうかといった点かもしれません。
相手のニーズや懸念を先読みし、それに応えるメッセージを構築する。これができるようになると、言葉の伝わり方が劇的に変わります。
思考を言語化する行動の理由付け
もう一つの重要なトレーニングが「行動の理由付け」です。「○○なので○○した」という形式で、自身の日常的な行動一つひとつに理由を言語化する習慣をつけます。
朝、コンビニでコーヒーを買ったとします。単に「コーヒーを買った」ではなく、「今日は重要な会議があるので、集中力を高めるためにコーヒーを買った」と理由を明確にするのです。
このトレーニングを続けることで、思考における原因と結果の結びつきを意識する癖がつき、論理的思考の基礎が固まります。部下への指示も「これをやっておいて」ではなく、「○○という理由で、△△をお願いしたい」と自然に伝えられるようになります。
多角的な視点が説得力を生み出す
相手の視点で考える習慣は、単に言葉が伝わりやすくなるだけではありません。本書全体を貫くテーマとして、聞き手の視点を徹底的に重視する姿勢があります。
Day 3の「たった一人に伝える」というルールも、話し手に特定の聞き手のニーズを強制的に意識させるものです。Day 5で推奨される主語の「私たち」への転換は、聞き手の視点と自らの視点を一致させるための明確な行動です。
つまり、本書の25のメソッドすべてが、コミュニケーションのベクトルを「自分が何を言いたいか」から「相手が何を知りたいか、どう感じるか」へと転換させるための訓練なのです。
プレゼンが変わる、会議での存在感が増す
この「相手の頭で考える」トレーニングを実践すると、職場でのコミュニケーションが目に見えて変わります。プレゼンテーションでは、自分が伝えたい内容を一方的に話すのではなく、聞き手が知りたい情報を先読みして提示できるようになります。
会議での発言も、単なる意見表明ではなく、参加者それぞれの立場を考慮した提案ができるようになります。すると、自然と「この人の意見は聞く価値がある」と周囲から認識され、存在感が増していきます。
部下とのコミュニケーションでも同様です。部下が何を求めているか、何に不安を感じているかを考えながら話すことで、信頼関係が深まり、指示も的確に伝わるようになります。
家庭でも活きる共感的思考
このトレーニングの素晴らしいところは、職場だけでなく家庭でも活用できる点です。妻との会話がかみ合わないと感じているなら、妻の視点で考えてみることから始めましょう。
子どもに勉強を促すときも、「勉強しなさい」と命令するのではなく、子どもの頭で考えてみます。子どもは何に興味があるのか、どんな言い方なら前向きに受け止めるのか。相手の視点に立つことで、コミュニケーションの質が格段に向上します。
考える習慣が人生を変える
本書の著者ひきた氏が36年にわたり学生たちと向き合ってきた中で練り上げたメソッドは、単なるテクニックではありません。日々の小さな習慣の積み重ねが、あなたの思考パターンそのものを変えていきます。
Day 2の「考える習慣をつける」トレーニングは、5日間のプログラムの中でも特に重要な位置を占めています。なぜなら、Day 1で言葉を引き出す準備運動をした後、この段階で思考の質を高めることで、その後のDay 3の論理構築、Day 4の表現力向上、Day 5の説得力強化へとスムーズにつながっていくからです。
言葉の問題は、実は考え方の問題です。相手の視点で考え、行動に理由を持たせる習慣をつけることで、あなたの言葉は自然と相手の心に届くようになります。
本書は物語形式で読みやすく、一気読みしても良し、実際に5日間かけて課題をこなしながら読むも良しとされています。主人公と共に課題に取り組むことで、「自分もいっしょに実践してみよう」という前向きな気持ちが湧き、言葉の筋力トレーニングを体感できる構成になっています。

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