物価高、円安、エネルギー不安、そして相次ぐ国際ニュース。なんとなく不安はあるのに、「日本はこれからどこへ向かうのか」が見えない……そんなモヤモヤを抱えていませんか。稼ぐ力だけあればいい時代はもう終わったのではないか。高市早苗氏編著『国力研究 日本列島を、強く豊かに。』が提示するのは、「経済国家」から「安全保障国家」へのシフトという、大胆かつ現実的なビジョンです。
「経済国家」から「安全保障国家」へのシフトとは
高市氏は、本書全体を通じて「国家を経済だけで測る時代は終わりつつある」と示唆しています。これまで日本は主に「経済国家」として、自動車や電機といった輸出産業を軸に存在感を保ってきました。しかし今や、エネルギー危機、サプライチェーンの分断、地政学リスクの高まりなど、経済と安全保障が一体となった時代に突入しています。
そこで高市氏が打ち出すのが、「安全保障国家」へのシフトです。ここでいう安全保障とは、軍事だけでなく、以下すべてを含む広い概念です。
- 外交(同盟・パートナーシップ)
- 情報(スパイ防止、サイバー、インテリジェンス)
- 防衛(抑止力・反撃力)
- 経済(エネルギー・産業基盤)
- 技術(先端分野の競争力)
- 人材(教育・起業・イノベーション)
つまり、「経済を回すこと」よりも、「国家と国民の生存と自立を守ること」を軸に据え直すという発想です。
高圧経済でレジリエンスを高める
この「安全保障国家」への転換を支えるのが、経済分野で提唱される「高圧経済」です。高圧経済とは、市場任せにするのではなく、戦略的な財政出動と投資によって、意図的に高い稼働率と成長を維持しようとするアプローチです。
- デフレ脱却「だけ」で終わらせない
- 政府が戦略的分野に積極投資する
- 経済効率よりも国家のレジリエンス(しなやかな強さ)を優先する
という点が特徴です。
これまでの日本は、「財政規律」「市場効率」といったキーワードのもと、むしろ慎重すぎる政策運営を続けてきました。その結果、インフラの老朽化、研究開発投資の低迷、人材流出など、「じわじわと弱るリスク」にさらされています。
高圧経済は、あえてアクセルを踏み込み、「今投資しなければ将来さらに高いコストを払う」という現実を直視した戦略だと言えます。企業でいえば、「コスト削減だけではなく、将来の柱となる事業に思い切って投資する」決断に近いでしょう。
数値目標ではなく「自立した日本」というビジョン
高市氏の安全保障国家構想の特徴は、「GDP何%成長」といった単純な数値目標ではなく、「自立した日本」の全体像を描いている点です。外交では「怒るべきときに怒れる国」、情報では「スパイ防止法を整えた国」、防衛では「能動的抑止力を備えた国」、経済では「高圧経済で技術立国を目指す国」というように、各分野の目指す姿が具体的に示されています。
特に重要なのが、「レジリエンス」というキーワードです。レジリエンスとは、外部ショックを受けても折れずに回復できる力のことです。高圧経済は、このレジリエンスを高めるための手段として位置づけられています。
- エネルギー価格の高騰があっても耐えられる経済構造
- 特定国への依存が高まっても代替できるサプライチェーン
- サイバー攻撃を受けても復旧できる情報インフラ
こうした「もしも」に備える姿勢は、企業経営や個人のキャリアにも通じる考え方です。安定しているように見える現状に甘んじず、「最悪の事態を想定した上で、最善を尽くす」発想が求められています。
「国家の設計図」としての価値
ある書評では、本書を「国家の設計図を共有するテキスト」と評しています。外交・情報・防衛・経済・技術・宇宙・人材という各要素を、バラバラではなく一枚の絵として描いているからです。
- どの分野に、どれだけ投資するのか
- どの分野を、どの順番で強化するのか
- どのリスクを、どのラインまで許容するのか
こうした「設計図」を持たないまま場当たり的な政策を続けることこそが、最大のリスクだといえるでしょう。本書は、その設計図のたたき台を提示している点で、単なる政策集を超えた価値があります。
ビジネスパーソンがこのビジョンから学べること
中間管理職として日々現場を回しているみなさんにとって、「安全保障国家への未来ビジョン」は一見遠いテーマに思えるかもしれません。ですが、よく見ると仕事の現場と驚くほど重なります。
- 経済効率だけでなく、リスク耐性とレジリエンスを重視する発想
- 数値目標だけでなく、「どんな組織になりたいか」というビジョンから逆算する姿勢
- 部署ごとの部分最適ではなく、会社全体の設計図を描く視点
これは、まさに優れたマネージャーに求められる能力そのものです。国の話を学ぶことは、自分の組織をどう強くしていくかを考えるトレーニングにもなります。
『国力研究』は、今の日本が置かれている状況を直視しつつ、「それでも自立した未来を描こう」とする意思に満ちた一冊です。ニュースの裏側にある「設計図」を知りたい方、そして自分の組織の未来を真剣に考えたいビジネスパーソンに、強くおすすめしたい本です。

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