「なぜ、あの上司はあんなに部下に慕われているんだろう……」
管理職になってから、こんなことを感じたことはありませんか。一生懸命指示を出しているのに、部下がなかなか自分から動いてくれない。会議で発言しても、どこか空回りしている感じがぬぐえない。人一倍努力しているはずなのに、「信頼されている」という実感がどうしても湧いてこない……。
この悩みの根っこには、「人間関係の向き合い方」そのものに見直すべき点が隠れている場合がほとんどです。そして今回ご紹介する佐藤考弘著『起業家のための富を創る成功方程式 人脈づくり』は、その問題を鋭くえぐり出してくれる一冊です。
本書には、こんな核心的なポイントがあります。人脈構築とは、相手から利益を奪う利己的なテクニックではなく、自分を活かし、相手を生かすという互恵的で本質的な人間関係の構築プロセスとして捉え直すべきだ、と。
この視点、管理職として部下との関係に悩むあなたにこそ、深く刺さるはずです。
「人脈術」という言葉に後ろめたさを感じていませんか
「人脈を広げよう」と言われると、なんとなく胸の奥がざわつく……。そんな感覚を持ったことはないでしょうか。
その感覚は、正直なところ「当然」と言えるかもしれません。世の中にあふれる人脈術のほとんどは、どこかしら「いかに相手から得るか」という発想に基づいているからです。名刺交換のコツ、SNSのフォロワーを増やす方法、権力者に取り入るためのテクニック……。読んでいて「なんか違う」と感じる理由は、まさにそこにあります。
佐藤考弘氏は、この違和感の正体をはっきりと言語化してくれます。人脈とは奪い合いではなく「共生」だ、と。著者自身が美容業界で独立し、離職率90%と言われる過酷な業界において10年間離職者ゼロという驚異的な実績を残した経歴が、その言葉に圧倒的な説得力を与えています。
本物の人脈は与え合い、生かし合う関係性から生まれます。
これは単なるきれいごとではありません。著者の実績が証明する、生きた知恵です。
部下に「先に与える」ことで信頼残高は積み上がっていく
あなたは今、部下との関係でこんなことを思っていませんか。もっと積極的に動いてほしい、報連相をしっかりしてほしい、こちらの指示を素直に聞いてほしい――。
しかし少し立ち止まって考えてみてください。あなたは部下に対して、何を「与えて」いるでしょうか。
本書では「ギバー(与える人)」の思考を起点にするという考え方が強調されています。相手の能力や立場から何かを引き出そうとするのではなく、まず自分が相手の成長やビジネスにとってどのような価値ある存在になれるかを思考の出発点にする、ということです。
先に差し出す姿勢が、信頼関係の土台を作ります。
たとえば、部下が苦手なプレゼン資料の構成を一緒に考える。若手が挑戦したいプロジェクトに手を挙げやすい環境を整える。この仕事はあなたの得意なやり方でやっていいよ、と裁量を先に渡す。こういった先に与える行動こそが、信頼残高を確実に積み上げていきます。
じつは多くの管理職が無意識に「先に要求する」関係を部下と築いてしまっています。成果を出してから認める、信頼できると思ったら任せる、という順番です。しかしこの構造では、信頼は永遠に生まれにくいのです。
「自分を活かし、相手を生かす」とはどういうことか
本書のこのポイントが最も具体的に伝えてくれるのは、自分の弱みを隠さず、むしろ相手の強みと組み合わせることで互いのパイを大きくするという発想です。
著者はこんな例を示しています。資金力はないが卓越したプログラミング技術を持つエンジニアがいたとします。そのエンジニアに対し、自分の持つUI/UXデザインスキルを成果報酬型で提供する。相手の弱点を補って相手を生かすことで、結果として二人でつくり上げた革新的なプロダクトの共同創業者としての地位を自ら確立する、というものです。
これはビジネスの話ですが、職場でもまったく同じことが起きます。
あなたが苦手な細かいデータ整理を、数字に強い部下に任せる。その代わり、あなたが得意な顧客との折衝や全体戦略の設計で組織に貢献する。そうやって互いの強みと弱みを組み合わせていくことが、チームとしての共生であり、本書が言うシンビオシスの精神です。
弱みを認めることは、強みを際立たせることでもあります。
上司なんだから弱みを見せてはいけないという思い込みを手放すとき、部下との関係は驚くほど変わり始めます。
「奪う人間関係」を手放した日に、チームが動き出した
かつての私は、管理職になった以上、弱みを見せてはいけないと思っていました。だから何でも自分でやろうとして、部下には指示だけを出していた。部下が困っていても「自分で解決しろ」と突き放すことも少なくありませんでした。
その結果、チームの雰囲気はどんどん固くなり、部下からの相談は減り、気づけばメンバー全員が言われたことだけをこなすモードになっていたのです。
奪う関係は、やがてチームに沈黙をつくります。
転機は、あるベテランの部下が「課長、私、こういう資料作りが苦手なんで一緒に考えてもらっていいですか」と言ってくれたことでした。そのとき初めて気づいたのです。弱みを開示することが、距離を縮める一番の近道だったと。
それ以来、意識的に自分の弱みを口にするようにしました。この部分、正直よくわかってないんだけど、詳しい人いる?と聞くと、それまで黙っていた部下たちが次々と「それ、私やります」「そこなら得意です」と声を上げ始めた。チームの空気は、驚くほど変わりました。本書を読んでそのときの体験が腑に落ちた瞬間、思わず膝を打ちました。
家族との関係にも通じる共生の発想
本書はビジネス書ですが、このシンビオシスの精神は家族関係にもそのまま使えます。
在宅勤務が増えた影響で家族との時間が増えたのに、なぜかコミュニケーションのすれ違いが増えた……という方は少なくないでしょう。その原因の多くは、職場と同じく「何かを要求する姿勢」が家庭にも持ち込まれていることにあります。
もっと片付けてほしい、子どもに勉強させてほしい、もう少し話を聞いてほしい――。どれも正当な希望ですが、相手への要求から入る会話は相手に防衛的な構えを取らせます。
先に与える姿勢は、家族関係でも変化をもたらします。
妻が何に疲れているかを観察して、その疲れを先に取り除いてあげる。子どもが何をしたいかを聞いて、その挑戦を全力で応援する。そういった相手を生かす視点から始めたとき、相手もあなたを生かしてくれる関係が少しずつ育まれていきます。
自分を活かし、相手を生かすという言葉は、起業家のためだけの知恵ではありません。あらゆる人間関係の本質をついた、普遍的な原則なのです。
信頼される人になるための問いかけ3つ
本書のこのポイントの考え方を明日からの職場と家庭で実践するために、ぜひ次の問いを試してみてください。
まず「相手は何が苦手で、自分はそれを補える立場にあるか」を考えてみることです。部下でも家族でも、相手の弱点にこそあなたが与えられる価値が眠っています。
次に「相手は何が得意で、自分はそれを尊重しているか」を確認してみましょう。自分の弱みと相手の強みが重なるところが、共生の接点です。そこに気づくだけで、関係の質は変わり始めます。
そして最後に「自分は何かを受け取る前に、先に与えているか」を自問してみてください。
先に与え続ける人のまわりには、人が集まります。
佐藤考弘氏が10年間離職者ゼロを実現できたのは、まさにこの与える文化をチームに根付かせたからです。信頼とは要求して手に入れるものではなく、与え続けることで自然と生まれてくるものだということを、本書は繰り返し、そして深く教えてくれます。
管理職になってから初めて感じる孤独、部下との距離感のもどかしさ、家族への申し訳なさ……。そんな悩みを抱えているあなたにこそ、本書を手に取ってほしいと思います。奪う人脈から与える人脈へ。その小さな転換が、あなたのまわりの人間関係をきっと大きく変えていくはずです。

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