「みんな同じ」という幻想が失敗を招く 村田裕之『シニアビジネス』が教えるミクロ視点の力

「シニア向けサービス」「若手向け研修」「管理職向けコミュニケーション術」……私たちは日々、こうした括り言葉を何気なく使っています。でも、考えてみてください。同じ年代だからといって、人の価値観や求めるものが同じだと、本当に言えるでしょうか? 村田裕之氏の『シニアビジネス』は、この「ひとまとめにする罠」を鋭く解体し、個人の多様性に向き合うことの重要性を説いています。その洞察は、部下のマネジメントや家族との関係にも、そのまま通じます。

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「団塊世代」は均質な塊ではなかった

本書の中でも特に印象深い表現が、「団塊世代は、団"壊"世代である」という一節です。戦後に生まれた人口ボリュームゾーンである団塊世代は、その数の多さゆえに、しばしば「巨大な単一市場」として扱われてきました。企業はこの世代に向けて、一括りの商品やサービスを大量に投入してきたのです。

ところが著者は、これを「事業上の極めて大きなリスク」と断言します。実際のデータを見ると、団塊世代の保有資産、健康状態、趣味・嗜好、そして人生の価値観は、これまでのどの世代よりも多様化し、バラバラに分散しているというのです。

人が多いほど、多様性も大きくなる。

「塊」どころか「壊」れている、という言葉の面白さとともに、この指摘は深く刺さります。シニアを一つの固まりとして扱おうとするほど、かえって的外れになっていく。同じことが、組織の中でも起きているのではないか、と感じるのです。

「Aチームはこういう人たちだから」という危うさ

管理職として部下を束ねるとき、人は無意識に「このチームはこういう人たちだ」というラベルを貼りがちです。「うちのメンバーはみんな真面目だけど受け身」「若手は指示待ちが多い」「ベテランは変化を嫌う」……。

こうした認識は、チームを理解しているように見えて、実は個人を見えなくさせています。私自身、かつてチームの施策を「全員に効果的なはず」と思って導入したことがありました。残業を減らすための業務見直しプロジェクトです。ミーティングでは全員がうなずき、賛同しているように見えた。ところが数週間後、状況はほぼ変わっていませんでした。

後から一人ひとりに話を聞いてみると、そこに「共通のチーム像」など存在しなかったことが分かりました。「残業が嫌なのではなく、この仕事が好きだから夜まで集中したい」という人、「定時に上がれるなら積極的に取り組む」という人、「やり方よりも評価の基準を変えてほしい」という人……それぞれが全く違う文脈で仕事をしていたのです。

マス向けのアプローチが通じなくなった時代

村田氏はシニアビジネスの失敗例として、「シニア向け」という看板を掲げるだけで実態が伴わない商品を挙げています。年齢で括った割引ツアーや、「高齢者向け」と銘打っただけの機能的なサービスは、価格競争に陥るだけで収益性が上がらない。なぜなら、そこには個人への洞察がないからです。

一方で、著者が成功事例として紹介しているのが、女性専用フィットネスクラブの「カーブス」です。ターゲットを「これまで運動習慣がなく、体力に自信のない中高年女性」という非常に限定的な層に絞り切り、「男性の目を気にしなくて済む女性専用」「ノーメイクでも気軽に参加できる」「1回30分で完結する手軽さ」という独自の設計を徹底した。その結果、全国規模で爆発的な成長を遂げました。

この成功の本質はシンプルです。「多くの人に当てはまる答え」を求めるのをやめ、「特定の誰かに深く刺さる答え」を追求したこと。シニア市場に限らず、人が動くのは「自分のことを分かってくれた」と感じる瞬間だということです。

「個客」と向き合うマイクロな視点

著者は本書の中で、「顧客」ではなく「個客」という言葉を使います。一人の個人として向き合う姿勢を、言葉のレベルから変えているわけです。

顧客ではなく個客と向き合う。これが村田氏の提唱する姿勢です。

これはマネジメントの文脈でも、そのまま使える視点です。「部下」という集合名詞で人を扱い続ける限り、信頼は生まれにくい。「Aさん」「Bさん」という個人として見る習慣が、関係の質を変えていきます。

実際に、メンバーそれぞれの「今の状況」を丁寧に把握しようとすると、チームの見え方が大きく変わります。同じプロジェクトに携わっていても、「認められたい人」「学びたい人」「とにかく安定して進めたい人」など、モチベーションの源泉は人によって全く異なります。この違いを無視して同じやり方で動かそうとすると、誰かには刺さっても誰かには空回りする。それがマネジメントの難しさでもあり、面白さでもあります。

多様性に向き合うことは、手間ではなく投資

「一人ひとりに合わせていたら時間がいくらあっても足りない」という声も聞こえてきそうです。確かに、すべてを個別対応するのは非現実的です。しかし、著者の言う「多様なミクロ市場の集合体」への対応は、すべてをゼロから変えることではありません。

大事なのは、まず「違いを前提にすること」です。チームの共通点を探すより先に、それぞれの違いを観察する。その上で、どのような共通のアプローチが有効で、どこに個別の工夫が必要かを見極めていく。

カーブスが成功したのも、全ての中高年女性を丸ごと取り込もうとしたからではなく、一つの鮮明なペルソナに絞り切ったからです。「誰にでも使ってもらえる」ものより、「この人のためのもの」の方が、人の心に届く。これは普遍的な原理です。

「みんな同じ」の呪縛を解いてみる

本書を読んで改めて感じるのは、私たちがいかに「まとめて考えること」に慣れすぎているか、ということです。マーケティングでも、マネジメントでも、家族関係でも、人は無意識に相手をカテゴリーに入れて処理しようとします。それは効率的ではありますが、同時に相手の個性を見えなくさせる副作用を持っています。

まとめて見ると、個人が見えなくなる。

村田氏の「シニア市場は多様なミクロ市場の集合体である」という洞察は、シニアビジネスの文脈を超えて、人と向き合う全ての場面に通じるメッセージです。部下の一人ひとりを「個客」として見る眼を持つこと。それが、信頼されるマネジャーへの、最初の一歩になるはずです。

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NR書評猫1183 村田裕之 シニアビジネス

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