プロジェクトが途中で頓挫する。メンバー全員が優秀なのに、なぜかチームとしてうまくいかない。あなたにも、こんな苦い経験はないでしょうか。
IT企業の管理職として部下を持つようになってから、こんな疑問を抱いた方は少なくないはずです。「スキルセットは申し分ない。人材も揃っている。なのにプロジェクトはある時点で必ず失速する……」。その原因を職務経歴書や技術力だけに求めていたとしたら、根本的な問題を見落としているかもしれません。
本書『起業家のための富を創る成功方程式 人脈づくり』が提唱するのは、スキルではなく「特性」で人を見るという、チーム編成の新しい常識です。著者の佐藤考弘氏は、極めて高い離職率で知られる美容業界で「10年間離職者ゼロ」を達成した実務家。その根底にある思想がまさに、この特性診断を活用したチーム設計にあります。
スキルが揃っているのに、なぜチームは機能しないのか
採用面接で候補者のスキルを確認する際、多くの管理職は「技術力があるか」「経験があるか」という視点で判断します。資格の有無、過去のプロジェクト経験、専門知識の深さ……。これらはもちろん重要な要素です。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
スキルが揃ったチームが機能不全に陥るとき、その原因の多くは「思考の癖」のぶつかり合いにあります。全員がアイデアを出したがる、全員がスピードを重視する、全員がリスクを嫌う……。似通った特性を持つ人が集まると、チームは特定のフェーズでは圧倒的な力を発揮しますが、別のフェーズでは完全に動けなくなります。
特性の偏りが、プロジェクトを特定の壁で止めます。
佐藤氏はこれを、ウェルスプロファイルという特性診断の枠組みで解明しています。職務経歴書に書かれたスキルではなく、「その人がどう考え、どう動くか」という行動特性のパターンをパズルのピースとして捉え、意図的に組み合わせることが最強チームへの道だと言うのです。
4つのエネルギーが揃ったとき、チームは自走し始める
本書が紹介するウェルスダイナミクスの考え方では、人の行動特性を大きく4つのエネルギーとして捉えます。ダイナモ、ブレイズ、テンポ、スチールです。
ダイナモは、ゼロからイチを生む力です。
常に新しいアイデアを生み出し、誰も考えていなかった方向性を切り拓くことを得意とします。新規事業の立ち上げや、前例のない課題への取り組みにおいて圧倒的な力を発揮します。しかし、その一方で詳細な実務管理や同じ作業の繰り返しには強いストレスを感じる傾向があります。
ブレイズは、ビジョンを外に広げる力です。
チームのエネルギーを高め、関係者を巻き込み、プロジェクトの熱量を社内外に伝播させます。ネットワーク力と発信力が高く、プレゼンテーションや交渉の場で輝きます。ただ、緻密なデータ管理やリスクの精査は得意ではありません。
テンポは、流れを読みながら確実に前進させる力です。
顧客や現場の反応を細かく観察しながら、適切なペースで計画を実行に移します。周囲との協調を大切にし、チームの安定を保ちます。その反面、大胆な方針転換や急激なスピードアップには戸惑いを感じることがあります。
スチールは、リスクを管理する力です。
法務・財務・品質管理など、数字やルールに基づいた冷静な判断を得意とします。プロジェクトの穴や見落としを発見し、チームを守る盾となります。しかし、創造性や感情的な盛り上がりの場では存在感が薄れがちです。
なぜ「同じタイプ」が集まると失敗するのか
ここで、管理職として思い当たる節がある方も多いのではないでしょうか。
エンジニアが多いチームはスチールとダイナモが集まりやすく、技術的な精度は高いが外部への発信力が弱い。営業出身のメンバーが中心のチームはブレイズが揃い、新規顧客の獲得は得意でも内部の実行管理が雑になりやすい。こういった偏りが、プロジェクトを特定の段階で止めてしまうのです。
新規事業の立ち上げを例に考えてみましょう。ダイナモが3人集まって事業構想を練り上げた場合、最初のアイデア出しは非常に活発になります。ところが、「では具体的に誰に売るか」「予算計画はどうするか」という実行フェーズに入ると、全員がその作業を後回しにしようとする。結果として、素晴らしい構想だけが空中に浮いたまま、プロジェクトは消えていくのです。
偏りのないチームは、どのフェーズでも止まりません。
逆に言えば、4つのエネルギーが揃ったチームは、構想から実行、拡大から安定まで、すべてのフェーズを乗り越える力を持つということです。
「右腕」の選び方が、管理職としての成果を決める
この考え方は、部下の配置や採用においても大きな示唆を与えてくれます。
たとえば、あなた自身がダイナモ寄りの特性を持つ管理職だとしましょう。新しいプロジェクトへの提案は積極的で、チームの方向性を示す力には自信がある。しかし、進捗管理が苦手で、細かい数字のチェックが後手に回りがちです。
このとき、同じくダイナモ的な特性を持つ部下を右腕に選ぶと、チームはアイデアに満ちていますが実行が追いつきません。本書が勧めるのは、あえてスチール的な特性を持つ人材を意図的に右腕として配置することです。自分の弱点を補ってくれる存在が隣にいることで、チームとしての実行力が格段に上がります。
佐藤氏自身が美容業界で「10年間離職者ゼロ」を達成できたのも、スタッフ一人ひとりの特性を把握し、互いの強みと弱みが補い合える環境を設計し続けたからです。「好き嫌い」ではなく「特性」でチームを見る視点が、この驚異的な実績を生みました。
特性診断を実際のチーム編成に活かす方法
では、管理職として今日からどう実践すればよいのでしょうか。
まず、自分自身の特性を把握することから始めましょう。ウェルスダイナミクスの診断ツールを使うことが最も確実ですが、まずは「自分はどの状況で最もエネルギーが湧くか」「どんな作業が最もつらいか」を振り返るだけでも、自分の特性の輪郭が見えてきます。
次に、メンバーそれぞれの特性を観察します。会議での発言パターン、タスクの取り組み方、困ったときの行動……。これらを「スキル」ではなく「特性」として観察すると、全く違う景色が見えてきます。
そして、プロジェクトの性質に合わせた配置を考えます。新規開拓フェーズならダイナモとブレイズを前面に、安定運用フェーズならテンポとスチールが力を発揮します。人を固定した場所に置き続けるのではなく、フェーズに応じて役割を見直す柔軟さが、チームを常に最適な状態に保ちます。
特性を知れば、配置の正解が見えてきます。
チームの「穴」を先に発見する、リスク管理の視点
この考え方には、もう一つの重要な側面があります。チームを編成する段階で、意図的に「穴」を探すということです。
現在のチームに4つのエネルギーがどれだけ揃っているかを確認する。もし特定のエネルギーが不足しているなら、そこがプロジェクトの弱点になります。社内でその特性を持つ人材を探すのか、外部のパートナーや専門家に補ってもらうのかを事前に決めておく。こうした先手の発想が、プロジェクトが壁にぶつかってから慌てるのではなく、構造的にリスクを防ぐチームを生み出します。
スキルだけで採用・配置を決めていた時代から、特性を見てチームを設計する時代へ。本書はその視点の転換を、起業家だけでなく、すべてのチームリーダーに向けて提唱しています。
「なぜあのチームはうまくいかないのか」という長年の疑問に、ぜひ特性診断という新しいレンズをあてて見てください。きっと、これまで見えていなかったものが、はっきりと浮かび上がってくるはずです。

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