「どうせ無理」と思ったとき、西堀榮三郎の言葉が背中を押してくれる

「部下が言うことを聞かない」「会議での発言が空回りする」「何をやってもうまくいかない気がする」……。そんな閉塞感を抱えているあなたに、ぜひ読んでほしい一冊があります。西堀榮三郎の『ものづくり道』です。

西堀榮三郎という名前を聞いてすぐにピンとくる方は少ないかもしれません。しかし彼は、日本初の純国産真空管を1週間で開発し、南極越冬隊の隊長として極限の現場をまとめ上げ、さらに日本の品質管理(QC)の礎を築いた、驚くべき実績を持つ技術者です。そんな西堀が「オリジナリティとは何か」について語ったこの本は、製造業の話にとどまらない、すべての仕事人へのメッセージにあふれています。

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「才能がないから無理」は思い込みだった

西堀はこう言います。「はじめから役に立つ研究なんてあるだろうか。」

最初にこの言葉を読んだとき、私は少し驚きました。日本のQCを支えた技術の大家が、「役に立つかどうかは結果だ」と言い切っているのです。では、何が最初にあるのか。西堀の答えは明快です。「面白そうだ」「不思議だ」という純粋な好奇心、つまり子供がおもちゃで遊ぶような遊び心こそが、オリジナリティの出発点なのだと。

これはITマネージャーとしての日々にも、そのまま当てはまります。「部下のモチベーションを上げなければならない」という義務感から始めると、どうしても手詰まりになりがちです。しかし「なぜこの人はこういう反応をするのだろう?」という純粋な興味から人間関係を見直してみると、意外な発見があるものです。

オリジナリティは才能の問題ではありません。面白いと思えるかどうかの問題です。

「なんとかしてやる」という執念が道を開く

西堀は、オリジナリティを生むための心理的なステップを二段階で説明しています。

まず最初のステップは「問いの発見」です。「こんなことができないか?」「これはもっと良くなるはずだ」という素朴な疑問を持つこと。現状を当たり前と思わず、常に「なぜこうなっているのか」と疑う姿勢がここから始まります。

そして二つ目のステップが「絶対的肯定」です。一度疑問を持ったら、周囲が「それは無理だ」と言っても、「いや、絶対にできるはずだ」と信じ抜く。これが執念であり、この二つが揃ったときに初めてオリジナルな解法が生まれると西堀は言います。

彼が1週間でイザリマシーン(簡易真空管製造装置)を作り上げたのも、まさにこの二段階プロセスの産物でした。「機械がないからできない」ではなく、「あるもので何とかできないか」という問いを立て、そして「絶対にやり遂げる」と決めた。制約の中から生まれた発明が、後の日本の半導体産業の礎になったのです。

「石橋を叩く」管理職では部下はついてこない

管理職になって間もないころ、私は「失敗しないことが大事だ」と考えていました。計画を綿密に立て、リスクを徹底的につぶして、それから動く。いわゆる「石橋を叩いて渡る」スタイルです。

しかし、これが部下との関係をぎこちなくする原因の一つでした。過度に慎重な上司は、部下の提案に対して「でも」「しかし」「リスクは?」と問い返しがちです。そして部下は、新しいアイデアを出すのをやめていきます。「どうせ却下される」と学習してしまうのです。

西堀の言葉を借りれば、「石橋を叩いて渡れない」状況の完成です。完璧を求めすぎることで、チームの可能性をつぶしてしまう。これはITプロジェクトの現場でも日常茶飯事ではないでしょうか。

疑問を持ち、執念を持って動く上司こそ、部下が信頼する上司です。

「できない理由」を「やるための問い」に変える

では、具体的にどうすればよいのでしょうか。西堀の思想から、日常のマネジメントに応用できるシンプルな方法があります。

会議や1on1で「予算がない」「技術がない」「時間がない」という言葉が出てきたとき、それをそのまま受け取らずに一度問い返してみてください。「予算ゼロだったらどうする?」「7割の性能を今ある技術で出すには?」という形で、制約を前提に知恵を絞る問いへと変換するのです。

これはブレインストーミングではありません。「あるもので何とかする」というブリコラージュの発想です。西堀が倉庫に眠っていた旧式の機材を組み合わせて製造装置を作ったように、手元にあるリソースで解決策を考えることで、思わぬオリジナリティが生まれます。

そして、部下がその問いに答えたとき、「面白い視点だね」と一言返す。それだけで、会議の空気は大きく変わります。評価されると感じた部下は、次の問いにも積極的に関わろうとするものです。

「遊び心」が信頼関係の土台になる

西堀の考え方で、もうひとつ印象的なのが「遊び心と知的好奇心」の重視です。彼は南極越冬隊の隊長として、極限状況の中でも隊員の自由を尊重し、互いを認め合う文化を作ることに力を注ぎました。閉鎖的な極地という環境で、チームの創造性を引き出したのは、管理や命令ではなく、好奇心を大切にする雰囲気だったのです。

これは40代のITマネージャーが部下と接するうえで、そのまま使えるヒントです。「なぜあの部下はあの対応をしたのか」を叱責の材料にするのではなく、純粋に「どういう考えからそうなったのか」を知ろうとする。そういう「人間への好奇心」が、信頼関係の土台になります。

部下は、管理されていると感じると萎縮します。しかし、「自分のことを面白がってくれている」と感じた途端に、驚くほど動きが変わります。

部下への好奇心こそが最強の上司力です。

一歩踏み出すことが「ものづくり道」の始まり

西堀の言う「オリジナリティ」は、突飛なアイデアを生み出す特別な才能のことではありません。それは、現状を「なぜ?」と疑い、「何とかできるはず」と信じ、そして実際に一歩踏み出す姿勢のことです。

IT企業の中間管理職として、組織の中間に挟まれ、上からの指示と部下からの不満の板挟みになる日々。そこにある閉塞感を打ち破るヒントが、半世紀以上前に書かれたこの本の中にあります。

「面白そうだ」と感じたことを大切にしてください。「なんとかなるはずだ」と信じることをやめないでください。その積み重ねが、部下に信頼されるマネージャーへの道になります。西堀榮三郎は、それを自分の人生全体で証明した人物です。

ぜひ一度、この本を手に取ってみてください。きっと、今日の仕事の見え方が少し変わるはずです。

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