「お客様はウソをつく」── 川島敏男が暴いた、データで売れる商品を見つける唯一の方法

あなたの職場にも、こんな経験はないでしょうか。「ユーザーのニーズを把握したい」とアンケートを実施したのに、出てきた回答を製品に反映させてもリリース後に全然使われない……。あるいは、会議で「どんな機能が欲しいですか?」と部下に問いかけても、出てくる答えが当たり障りのない意見ばかりで、本当のところが見えてこない。

実は、この「言葉」と「実際の行動」のギャップこそが、マーケティングにおける最大の落とし穴です。そのことを、年商20億円規模の青果店を経営しながら証明してみせた人物がいます。川島敏男さんの著書『お客様が教える「売れる商品」の見つけ方』は、その落とし穴を科学的に回避する方法を明快に教えてくれます。

今回は、本書の核心をなす考え方の中から特に重要な「顧客の声なき声を数字で可視化する」という発想に絞って、その本質と職場への応用についてお伝えします。

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「顧客はアンケートに本当のことを言わない」という衝撃の一言

川島さんは本書の中で、こう断言しています。「お客は本当のことを言わない」と。

これは顧客を信用していないのではなく、人間の認知の仕組みとしての話です。私たちは、誰かに「何が好きですか?」と聞かれると、無意識に"かっこいい答え"や"正しそうな答え"を返してしまいます。「健康によいものを食べたい」「無駄遣いをしない」「品質重視で買い物をしている」……でも実際の買い物カゴの中身は、どうでしょうか。

IT業界でも同じことが起きています。システム要件定義でユーザーにヒアリングをすると、「使いやすいインターフェースが欲しい」「セキュリティを強化してほしい」という言葉が並びます。ところがリリース後の実際の操作ログを見ると、複雑な機能はほとんど使われておらず、シンプルな検索機能ばかりが酷使されていた、というケースは珍しくありません。

人は言葉でウソをつく。行動データはウソをつかない。

これが川島さんの哲学の出発点です。

買い物カゴの中身こそが「改ざん不能な真実」

では、真のニーズをどうやって掴むのか。川島さんが着目したのは、スーパーマーケットの買い物カゴの中に入っている「買上げ点数」というデータでした。

レジを通過した時点でカゴの中に入っている商品は、お客様が「自らのお金を払って選んだ」という事実の記録です。見栄も建前も社会的な圧力も、そこには存在しません。誰かに見られているわけでもなく、アンケートの回答用紙に向かっているわけでもない。純粋に「これが欲しかった」という意志決定の痕跡だけが残っています。

川島さんはこれを「声なき声」と呼んでいます。声にならなかった言葉、つまり顧客自身が意識していない本音が、行動として現れたものがこのデータです。

この視点は、ビジネスのあらゆる現場に応用できます。

たとえば、部下が毎日どのシステム画面をどれほどの時間開いているかを記録すれば、彼らが本当に必要としている機能がわかります。「便利でした」「使いやすいです」という口頭の評価より、ログデータのほうがはるかに正直です。

数字として捉えなければ、「感覚」でしかない

「顧客の行動を見る」という発想自体は、多くのビジネスパーソンが持っています。しかし川島さんが本書で強調しているのは、それを「数字として可視化すること」の重要性です。

売れている、売れていない、という「感覚」では、再現性のある判断ができません。天候が良い日に売れた商品と、雨の日に売れた商品を同じ基準で比べることはできないからです。多くの小売店が陥るのが、「今週は売れた」「先週はダメだった」という相対的な比較であり、そこには外部要因が混入しています。

川島さんが用いるPI値という指標は、「レジを通過した1,000人のお客様のうち、何人がその商品を買ったか」という確率論的な数値です。天候や曜日による客数の変動を排除し、純粋な「支持率」として商品を評価することができます。

感覚や経験則ではなく、客観的な数字で判断する。この原則は、IT企業の管理職として日々の意思決定を行う方にも、深く響くはずです。KPIに基づいてプロジェクトを評価することと、PI値に基づいて商品を評価することは、思想として同じです。

「直感経営」が招く失敗と、データ経営が生む再現性

ここで少し、失敗談をお話しします。

かつて多くの中小小売店は、「長年の勘」で品揃えを決めていました。ベテランのバイヤーが「これは売れそうだ」と感じたものを仕入れ、「反応が悪ければ値下げして捌く」という繰り返しです。

ところが、周囲に年商数千億円規模のスーパーが出現すると、この戦略は完全に機能しなくなります。価格競争では勝ち目がなく、品揃えの豊富さでも敵わない。差別化しようにも、「どこで差別化すべきか」を示すデータがない。

川島さんが経営するヴェルジェが直面したのも、まさにこの状況でした。目の前に大手スーパー、周囲には年商200億から2兆円規模のチェーンが並ぶという、独立系青果店としては最悪の立地環境です。

そこで生き残るために選んだのが、データに基づく判断でした。

声なき声を数字で捉え、本当に支持されている商品を科学的に特定する。その結果、5店舗合計で年商20億円を達成し、地域ナンバーワンの支持を獲得し続けることができたのです。「勘」ではなく「再現性のある方法論」があったからこそ、圧倒的な資本力格差を跳ね返すことができました。

IT管理職が今日からできる「声なき声」の読み方

本書で川島さんが示すこの考え方は、IT企業の中間管理職として働く方にとって、今日から実践できるヒントを多く含んでいます。

まず、部下の報告書や会議での発言だけを判断材料にしない、という意識から始めましょう。部下が「うまくいっています」と言っていても、タスクの完了率、レスポンスのスピード、提出物の修正回数といった行動データが別の事実を語っていることがあります。これが、職場における「声なき声」です。

次に、チームの成果指標を「感覚」から「数字」に移行することです。「最近、Aさんは積極的だ」という印象論ではなく、発言回数、提案件数、フォローアップの頻度という数値で評価の基準を作る。これにより、誰もが納得できる客観的なフィードバックができるようになります。

さらに重要なのは、「聞く」より「観る」を意識することです。1on1で部下に「何か困っていることはある?」と聞いても、多くの場合「大丈夫です」という答えが返ってきます。しかし日常の業務の中で部下が何にどれだけの時間を費やしているかを観察すると、本人も言語化できていない課題が見えてくることがあります。

川島さんが買い物カゴの中を見たように、あなたも部下の「仕事のカゴ」の中を見てみてください。そこにこそ、言葉にならなかった本音が詰まっているはずです。


「お客様はウソをつく」という言葉は、人を信用しないということではありません。人間が本音を言語化することの難しさを、正確に理解しているということです。

顧客が本当に何を求めているかは、言葉ではなく行動に現れます。そしてその行動を数字として可視化することで初めて、感覚や経験則に頼らない、再現性のある意思決定が可能になります。川島さんが圧倒的な資本力差を跳ね返せたのは、この原則を徹底したからに他なりません。

あなたのチームでも、部下の「声なき声」に耳を澄ませてみることから始めてみてはいかがでしょうか。データは、言葉よりもずっと正直に、現実を教えてくれます。

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