昇進したばかりの管理職として、部下が思うように動いてくれない。指示を出しても反応が薄く、プレゼンで提案しても伝わらない。そんな悩みを抱えていませんか?実は、その原因は「時代遅れの力の使い方」にあるかもしれません。ジェレミー・ハイマンズとヘンリー・ティムズの著書「NEW POWER これからの世界の新しい力を手に入れろ」は、現代において本当に効果的な影響力の作り方を教えてくれます。本書が提示する「オールドパワー」と「ニューパワー」の違いを理解することで、組織でも家庭でも人を動かす力が劇的に変わるはずです。
パワーとは何か
本書の根幹となるのが、イギリスの哲学者バートランド・ラッセルによるパワーの定義です。パワーとは「意図した効果を生み出す能力」のこと。テクノロジーの発展によって、この能力のあり方が根本的に変化したと著者たちは主張しています。
従来の階層型組織が独占してきた「オールドパワー」から、参加型でピア主導の急速に動員される力「ニューパワー」へのシフトが起きている。この変化は、FacebookやAirbnbといったプラットフォームの成功だけでなく、社会運動やビジネスの世界にも広がっています。
著者のハイマンズ氏は世界最大級のオンラインコミュニティ「アヴァース」の共同設立者であり、ティムズ氏は100カ国近くを巻き込んだムーブメント「ギビング・チューズデー」の共同創始者です。彼ら自身がニューパワーを実践し成功させてきた経験を持つため、本書の分析は単なる理論ではなく実践的な知見に裏打ちされています。
オールドパワーの通貨モデル
オールドパワーは、その働きが貨幣のようなものだと本書では説明されています。一部の権力者によって獲得され、蓄積され、厳重に守られる有限のリソースとして扱われるのです。
このモデルの特徴は閉鎖性にあります。権力は特定の地位や組織に属する者のみがアクセスできます。意思決定プロセスは不透明であり、一般の参加を許しません。トップダウンの階層構造を持ち、権力は上から下へとダウンロードされる形で伝達されます。
伝統的な大企業や政府機関、既成の権威などがオールドパワーの典型例です。その力は制度的な権威と蓄積された資本に依存しており、組織内の地位という構造的な権威に依存して服従を強いる性質を持っています。
中間管理職として部下に指示を出しても思うように動いてくれないという悩みは、このオールドパワー的なアプローチが現代では機能しにくくなっていることの表れかもしれません。
ニューパワーの潮流モデル
対照的に、ニューパワーは潮流のように振る舞います。誰かが所有するものではなく、多くの人々の参加によって生み出され、特定の方向に流れるエネルギーとして現れるのです。パワーは保持されるのではなく、導かれるものだと本書では説明されています。
ニューパワーの特徴はオープン性です。誰でも参加可能であり、参加への障壁が低い。多くの人々が主体的に関与し、価値を共創する参加型のモデルです。対等な仲間による協調と連携によって運営されるピア主導の性質を持っています。
パワーは参加者によってアップロードされ、水や電気のように参加の奔流が最大化したときに最も強力な力を発揮します。ソーシャルメディア上で拡散した「Me Too」運動や、個人がホストとなるAirbnbのプラットフォーム、オープンソースの共同開発プロジェクトなどが具体的な現れです。
オールドパワーとニューパワーの核心的な違い
本書では、二つのモデルの根本的な違いを明確にするため、その特徴を体系的に整理しています。
オールドパワーの中心的な比喩は通貨であり、少数によって貯蔵され所有されます。統治モデルはリーダー主導で階層的、トップダウンです。参加モデルは閉鎖的でアクセス困難、服従ベースとなっています。主要なアクションはダウンロード、つまり消費と服従です。力の源泉は蓄積された資本と制度的権威にあり、目的は獲得し所有することです。
一方、ニューパワーの中心的な比喩は潮流であり、多数を通じて流れ導かれます。統治モデルはピア主導でネットワーク型、協調的です。参加モデルはオープンで参加型、共同所有となっています。主要なアクションはアップロード、つまり共有と生産、適応です。力の源泉は大衆の参加と熱量の急上昇にあり、目的は流れを作り分配することです。
人々を動かす力の源泉の変化
この二つのモデルの根本的な違いは、テクノロジーの有無だけではありません。それは、人々を動かす力の源泉が変化したことを示しています。
オールドパワーが組織内の地位といった構造的な権威に依存して服従を強いるのに対し、ニューパワーは人々の自発的な参加を惹きつける動機付けの引力に依存します。現代のリーダーや組織にとって重要なのは、この心理的な変化を理解することです。
テクノロジーはあくまでニューパワーを可能にする触媒であり、その真のエンジンは人々が自ら関与し、声を上げ、世界を形作る権利があると感じるようになった意識の変化そのものなのです。部下からの信頼を得られていないと感じている管理職の方にとって、この視点の転換は大きなヒントになるはずです。
高輪ゲートウェイ駅名問題が示すもの
本書のフレームワークの有用性を示す優れた例として、JR山手線の新駅名をめぐる騒動が分析されています。
JR東日本は新駅の名称を一般公募しましたが、最終的に採用された「高輪ゲートウェイ」は公募で130位という低い順位でした。この決定は少数の経営陣によるトップダウンで行われたのです。
この出来事は、典型的なオールドパワー組織の意思決定プロセスが、ニューパワーの価値観を持つ一般大衆の期待と衝突した象徴的な事例として分析されます。公募というプロセスは参加を促す形骸を持ちながら、その結果を無視したトップダウンの決定は、参加者の「自分たちには参加する権利がある」という感覚を裏切るものでした。ネット上で巻き起こった激しい批判は、この「ニューパワー的期待」が侵害されたことへの反発だったのです。
この事例が示す重要な示唆は、ニューパワーの価値観、つまり参加、透明性、共同所有といった感覚が、もはや広く一般社会に浸透した暗黙の期待となっているという事実です。
職場とプライベートへの応用
ニューパワーの考え方は、職場での部下マネジメントにも家庭でのコミュニケーションにも応用できます。
部下とのコミュニケーションに悩んでいる中間管理職の方は、命令やトップダウンの指示ではなく、部下が自発的に参加したくなる環境を作ることを考えてみてください。プレゼンテーションや会議での発言が思ったように相手に伝わらない場合、一方的に情報をダウンロードするのではなく、聴衆が参加し共創できる余地を残すことが効果的かもしれません。
家庭では妻との会話がかみ合わず、子どもとの接し方も難しいと感じている方にとって、ニューパワー的なアプローチは新しい突破口になるでしょう。家族に指示や命令をするのではなく、家族が自ら動きたくなる環境や選択肢を提供することで、関係性が大きく改善する可能性があります。
今日から始められる実践
本書から学べる最も重要なポイントは、パワーの捉え方を根本的に変えることです。パワーを所有し蓄積すべき通貨として見なすのをやめ、多くの人々の参加によって生み出され方向づけるべき潮流として捉え直すのです。
明日からの会議やプレゼンテーションで、一方的に情報を伝えるのではなく、参加者が意見を出しやすい雰囲気を作ってみてください。部下に指示を出す際には、命令ではなく、部下が自ら動きたくなる理由や意義を共有してみてください。家族との会話では、自分の意見を押し付けるのではなく、家族が参加したくなる話題や選択肢を提供してみてください。
これらの小さな変化の積み重ねが、あなたの影響力を劇的に高め、部下から信頼される上司、家族との関係を良好にできる人へと変えていくはずです。

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