あなたのチームは、指示待ち社員ばかりで困っていませんか?部下のモチベーションが上がらず、売上目標も達成できない。会議で何度も同じ話をしているのに、なぜか現場は変わらない。そんな悩みを抱える管理職の方に、ぜひ読んでいただきたいのが、山本実之氏の『明治製菓カカオ事業部 逆境からの下剋上』です。
本書は、明治製菓が1999年に立ち上げた新規事業「カカオ事業部」が、予算わずか、寄せ集めのベテラン社員という最悪のスタートから、わずか10年で売上70億円を達成した実話です。その成功の鍵は、個人の頑張りに頼らない「仕組み化」にありました。今回は、この「仕組み化」とは何か、そしてどのように実践すれば良いのかを、本書から読み解いていきます。
「頑張る」ではなく「仕組む」発想への転換
多くのリーダーは、部下に「もっと頑張れ」「気合いを入れろ」と精神論で鼓舞しようとします。しかし、山本氏が率いたカカオ事業部では、全く逆のアプローチを取りました。それが「とにかく仕組み化」という考え方です。
山本氏の考える「仕組み化」とは、単なるマニュアル化や業務効率化ではありません。それは、チーム全員が自然に成果を出せるような環境やプロセスを設計することです。個人の能力や熱意に依存せず、誰が担当してもある程度の成果が出る仕掛けを作る。これが本書で語られる「仕組み化」の本質です。
例えば、カカオ事業部では営業先からまったく相手にされない状況からスタートしました。レッドオーシャン市場への後発参入で、「何しにきたの?」と言われる始末。こうした状況で、個人の営業力だけに頼っていては勝ち目がありません。
そこで山本氏は、明治がBtoCで培った消費者知見という独自の強みを活かす仕組みを構築しました。「次のトレンドはこれです。準備はできていますか?」と先回りして提案する呼び水型の営業スタイルを確立し、競合他社には真似できない付加価値を提供する仕掛けを作ったのです。
属人化を排除するのではなく、人の力を引き出す仕組み
ここで重要なのは、安藤広大氏の『とにかく仕組み化』で語られる「属人性の排除」とは、本書の「仕組み化」が異なる点です。安藤氏の仕組み化は、キーマンに頼らずとも組織が回る効率的なシステムを目指します。
一方、山本氏の仕組み化は、メンバー一人ひとりの意欲と能力を最大限に引き出すための環境設計です。機械的に動くのではなく、各メンバーが主体的に考え、行動し、成長するための仕掛けを作る。それが本書で語られる仕組み化の特徴です。
カカオ事業部では、寄せ集めのベテラン社員たちが集められました。モチベーションは低く、定年間近の年齢層も高いメンバーたち。しかし山本氏は、彼らの経験や知識を活かす仕組みを作ることで、チーム全体の戦闘力を高めていきました。
具体的には、ビジョンを共有し、各メンバーが「この仕事にはこんな意味がある」と実感できる場を設けました。そして、小さな成功体験を積み重ねることで、自信とモチベーションを高めていったのです。
BtoC知見を武器にした差別化戦略の仕組み
カカオ事業部が構築した仕組みの中でも特に効果的だったのが、BtoCで培った消費者知見を活用する営業スタイルです。
競合の原料メーカーはBtoB専業で、エンドユーザーの嗜好データを持っていません。一方、明治は長年の最終製品販売の経験から、「若年層に今どんな味が人気か」「次のトレンドになりそうなフレーバーは何か」といった貴重な情報を持っています。
この強みを活かすため、カカオ事業部では「○○というトレンドが来ますが、ご準備は?」と先回りして提案する営業手法を確立しました。相手の質問を待つのではなく、こちらから質問する「呼び水型」のアプローチです。
これは単なる営業テクニックではなく、明治の組織全体の知見を営業活動に結びつける「仕組み」だったのです。営業担当者個人の力量に頼るのではなく、会社全体の資産を活用できる体制を整えたことが、差別化につながりました。
「夏にチョコを売れ」に込められた発想転換
もう一つの画期的な仕組みが、「夏にチョコを売れ!」という取り組みです。
チョコレート菓子は冬によく売れますが、夏には売れません。そのため、明治の工場は夏場に稼働率が落ちるという長年の課題を抱えていました。ところが、業務用原料チョコはアイスやパフェなど夏でも需要があり、季節変動が少ないのです。
山本氏は、この特性に目をつけ、夏場の工場稼働率の穴を原料受注で埋める取り組みを推進しました。これにより、カカオ事業部は会社全体の課題解決にも貢献し、社内での評価を高めていったのです。
この発想の転換も、個人のひらめきではなく、会社全体の課題を営業戦略に組み込む「仕組み」として機能しました。営業担当者が自然にこの視点を持てるよう、チーム全体で共有し、実践できる体制を整えたのです。
仕組み化がもたらした10年で70億円の成果
こうした地道な施策を重ねた結果、カカオ事業部は着実に成長していきました。2004年頃には売上約28億円に達し、社内外の見方も「意外と粘ってる」「そこそこ頑張ってる」へと変化。そして、部署設立から10年目には70億円を達成するに至りました。
これは、個人の才能や努力だけでは成し遂げられなかった成果です。むしろ、才能や努力に頼らずとも成果が出る仕組みを作り上げたからこそ、継続的な成長を実現できたのです。
本書では、「新規事業はどうせ成功しない」という社内ジンクスを覆したこの10年間の軌跡が、具体的なエピソードとともに綴られています。山本氏が直面した数々の困難、そしてそれをどのように「仕組み」で乗り越えていったのか。その過程を知ることで、あなた自身のチーム運営にも応用できるヒントが見つかるはずです。
「この野郎エネルギー」をチームの推進力に変える
山本氏がカカオ事業部で実践したもう一つの重要な要素が、「この野郎エネルギー」という考え方です。
新規事業部への異動は、当初は左遷とも思える人事でした。しかし山本氏は、その悔しさや鬱憤を原動力に変えました。「この野郎エネルギー」とは、困難な局面で生じる一種の高揚感であり、「簡単にいかないからこそ燃える」というポジティブな挑戦者マインドです。
容易に勝てるゲームは退屈です。難しいから面白いし、攻略したくなる。そんな前向きな闘争心こそが、逆境を楽しむ秘訣だと山本氏は語っています。
この「この野郎エネルギー」も、個人のメンタルの問題として片付けるのではなく、チーム全体で共有できる文化として育てることが重要です。そして、そのためには、メンバーが挑戦を楽しめる環境や、失敗を恐れずにチャレンジできる雰囲気を「仕組み」として作り上げる必要があります。
今日から始められる「仕組み化」の第一歩
では、本書から学んだ「仕組み化」を、あなたのチームでも実践するにはどうすれば良いのでしょうか。
まず大切なのは、「個人の頑張り」から「チームの仕組み」へと発想を転換することです。部下に「もっと頑張れ」と言う前に、「どうすれば自然に成果が出る環境を作れるか」と考えてみましょう。
次に、あなたのチームや会社が持つ独自の強みを見つけてください。明治の場合は「BtoCで培った消費者知見」でした。あなたのチームにも、必ず競合にはない強みがあるはずです。その強みを活かせる営業スタイルや業務プロセスを設計することが、仕組み化の第一歩です。
そして、小さな成功体験を積み重ねられる仕掛けを作りましょう。大きな目標だけを掲げても、メンバーは途中で息切れしてしまいます。段階的に達成感を味わえるマイルストーンを設定し、チーム全体で祝う文化を育ててください。
最後に、失敗を恐れずにチャレンジできる雰囲気を醸成しましょう。山本氏の「この野郎エネルギー」のように、困難を楽しむ文化があれば、メンバーは自ら動き出すようになります。
仕組み化で組織を変革する勇気を
『明治製菓カカオ事業部 逆境からの下剋上』は、単なる企業サクセスストーリーではありません。個人の才能や努力に頼らず、誰もが成果を出せる「仕組み」を作ることの重要性を教えてくれる一冊です。
寄せ集めのベテラン社員、わずかな予算、社内の期待ゼロ。そんな最悪のスタート地点から、10年で70億円を達成したカカオ事業部の軌跡は、すべてのリーダーに希望と勇気を与えてくれます。
あなたのチームも、「仕組み化」によって変わることができます。部下が自ら動き出し、組織全体が活性化する。そんな未来を実現するための具体的なヒントが、本書には詰まっています。
今こそ、「頑張る」ではなく「仕組む」発想へと転換し、あなた自身のチームで小さな一歩を踏み出してみませんか。

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