「とにかく内定を取ること」――それが就職活動のゴールだと信じて疑わなかった時期を、あなたも思い出せるかもしれません。あるいは今、部下の採用面接に関わりながら、「なぜこの人は自社に来たいのか、本当のところがよくわからない」と感じた経験はないでしょうか。
経営コンサルタントの波頭亮さんが著した「就活の法則 適職探しと会社選びの10ヵ条」は、就職活動という舞台の目的を根本から問い直す一冊です。本書の核心にある問いかけは、シンプルでありながらずっしりと重くのしかかります。「就職活動の真のゴールは何か」というものです。
内定を取ることが目的になってしまった学生は、入社後に深刻なギャップに直面します。しかし、このミスマッチの構造は就活生だけの問題ではありません。採用する側のマネジャーにとっても、自分自身のキャリアを見直す40代にとっても、本書のメッセージは鋭く刺さります。
内定をゴールにした就活が必ず行き詰まる理由
就職活動では、エントリーシートを通過させ、面接を突破し、内定通知のメールを受け取った瞬間に「成功した」と感じる人が多いでしょう。しかし波頭さんは、その感覚こそが就活の最大の罠だと指摘します。
内定はゴールではなく、スタートラインに過ぎません。入社してからの30年、40年というキャリアの中で、本当に問われるのは「その会社で何を磨いたか」「どんなプロフェッショナルになったか」です。
IT企業の管理職として昇進したばかりのあなたなら、この現実を体感として知っているはずです。同期で入社した仲間たちの中に、入社直後は同じスタートラインに立っていたはずなのに、10年後には大きな差が開いている――そんな光景を見てきたのではないでしょうか。その差の多くは、「内定を取る力」ではなく「入社後に何を積み上げたか」によって生まれています。
面接官の視点から就活を見直すと何が変わるか
波頭さんの視点が特徴的なのは、「面接官=採用する企業側」の論理を徹底的に分析することで、就職活動の本質を浮き彫りにしている点です。
企業が採用活動で本当に求めているものは何か。好きという感情でも、書類作成のうまさでもありません。
事業の課題を解決できる人材です。企業の成長を支えるスキルと、長期的に価値を生み出す意欲を持った人を、採用担当者は探しています。
ところが、内定ゴール思考の学生は、この視点が完全に抜け落ちています。「御社のサービスが好きです」「社風に惹かれました」――こうした自己中心的な志望動機は、面接官の目には「うちで何ができるか考えていない人」として映ります。
管理職として採用面接に立ち会う機会があるなら、この非対称性を肌で感じているはずです。本当に採りたい候補者と、そうでない候補者の違いは、多くの場合「この仕事を通じて何を実現したいか」が明確かどうかにあります。
就活の真の目的をプロフェッショナル形成に置き直す
では、内定ゴール思考に代わる考え方とは何でしょうか。波頭さんが本書を通じて繰り返し訴えるのは、就職活動の目的を「プロフェッショナルとしての基盤を作ること」に置き直すべきだということです。
具体的には2つの柱があります。1つ目は変化の激しい時代を生き抜くためのスキルを磨くこと。2つ目は本物の職業意識を確立することです。
「本物の職業意識」という言葉は、やや抽象的に聞こえるかもしれません。しかし波頭さんの意図は明確です。「どの会社にいても通用する専門性と姿勢を持つこと」、つまり所属企業に依存しない自立したキャリア観を持つことです。
終身雇用が事実上崩れ、転職も副業も当たり前になった現代において、この考え方は就活生だけでなく、現役のビジネスパーソンにとっても正面から向き合うべきテーマです。あなたがIT管理職として部下の育成を考えるとき、「うちの会社でしか通用しない人材を育てるのか、どこでも活躍できるプロを育てるのか」という問いは、まさにこの本書の問題意識と重なります。
「就社」ではなく「就職」という発想の転換
波頭さんが本書で使う対比に、「就社」と「就職」という言葉があります。「就社」とは会社という箱に入ること、「就職」とはある職能(専門的な仕事)に就くことです。
日本の新卒一括採用のシステムは、長らく「就社」を前提にしてきました。特定の職種や業務を決めずに「まず入社してから配属を決める」という仕組みは、個人に「どの会社のメンバーになるか」を判断させ、「どんな仕事をするプロになるか」を後回しにさせてきました。
この構造が生み出す問題は深刻です。入社してから「自分はこの仕事に向いていない」と気づいても、職種転換は容易ではありません。早期離職やキャリアの停滞につながるミスマッチの根本原因がここにあります。
あなた自身のキャリアを振り返ってみてください。ITエンジニアとして積み上げてきたスキルが、管理職に昇進したことで活かしにくくなっていると感じることはないでしょうか。あるいは逆に、技術的な強みをマネジメントに接続する道を模索していることはないでしょうか。自分はどんなプロとして価値を提供できるのかという問いは、就活生だけでなく40代のキャリア見直しにも、直接有効な問いかけです。
プロ意識の欠如がチームに与える影響
この視点は、部下のマネジメントにも直結します。採用したメンバーが「内定をゴールに就活した人」である場合、入社後のモチベーション維持に苦労する傾向があります。仕事の意味を会社の看板や肩書きに頼っているため、業務の内容が変わったり、期待していた役割と違ったりしたときに、すぐに意欲が落ちてしまいます。
一方、「プロとして何を磨くか」を軸に就職活動をしてきた人材は、仕事の意味を自分の内側に持っています。仮に当初の配属希望と違う部署に入ったとしても、そこで学べるスキルを貪欲に吸収しようとする姿勢が自然と出てきます。
部下との1on1(個別の対話の場)で「この仕事を通じて、あなたはどんなプロになりたいですか」と聞いてみてください。この一問に、相手のキャリア観が鮮明に現れます。波頭さんの言う「本物の職業意識があるかどうか」を確かめる、シンプルかつ核心的な問いです。
職業意識の確立は家族との会話にも応用できる
波頭さんのメッセージは、家庭の中でも活かせます。中学生の息子さんが「どんな会社に入ればいいの?」と聞いてきたとき、「なんとなく有名な会社がいいよ」と答えるのと、「どんな仕事でプロになりたいのかを考えてみよう」と答えるのでは、その後のキャリア形成に大きな差が生まれます。
就活はゴールではなく、プロとして生きていくための準備期間です。その本質を早いうちから伝えることは、親として子どもに渡せる大切なものの一つです。
「就活の法則 適職探しと会社選びの10ヵ条」は、就職活動というテーマを入口にしながら、キャリアというものを根本から問い直すための本です。内定というゴールの先に何があるのかを考え、プロフェッショナルとして自立して生きる道筋を描きたいすべての人に、ぜひ読んでほしい一冊です。

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