毎日ニュースを見ていて、こんなことはありませんか。「また引きこもりの息子が親を殺した事件か」「運転免許を返納しない高齢者の事故だな」そんな風に、ニュースの見出しを見ただけで事件を断罪し、すぐに次の情報に移ってしまう。でも、ちょっと待ってください。その事件の背景にある、当事者たちの本当の苦悩をご存知ですか。辻堂ゆめ氏のデビュー10周年記念作品『今日未明』は、私たちが普段見落としている、報道の裏側に潜む人間の真実を容赦なく描き出した一冊です 。
「イヤミス」の皮を被った「社会への警鐘」
本書を読み終えると、多くの読者が「心がザワザワする」「モヤモヤが残る」といった、いわゆる「イヤミス」特有の後味の悪さを感じることでしょう 。しかし、この不快感は単なる読書の楽しみを提供するものではありません。作者は読者自身の先入観の恐ろしさや想像力の欠如に気づかせるため、意図的にこの構造を作り上げているのです 。
考えてみてください。私たちは日々、スマートフォンでニュースをスクロールしながら、短い見出しから安易な判断を下していませんか。「引きこもりの息子が父親を殺害」という記事を見れば、「親が悪い」「息子が甘やかされて育った」といった、まったく根拠のない推測を巡らせてしまいがちです 。
本作は、そんな私たちの浅はかな想像を打ち砕きます。物語の中では、事件の背景に複雑な人間関係や悪意のないすれ違いがあることが丁寧に描かれます 。読者は、自分がいかに安易な判断を下していたかを痛感し、他者への想像力を持つことの難しさと重要性を突きつけられることになるのです 。
ニュースに接した際、私たちは無意識のうちに「正義」を振りかざし、他者を断罪する風潮に染まっています。SNSではその傾向が特に顕著で、短い情報から瞬時に判断し、批判の声を上げることが日常となっています 。しかし、この作品は当事者の複雑な事情や苦悩を緻密に描くことで、その「正義」がいかに独りよがりなものであるかを明らかにします 。
この読書体験は、単なる物語の意外性を超え、「想像力を持って生きることは、考えているよりも格段に難しい」という現代社会における重要な問いを投げかけています 。本書の「イヤミス」性は、読者の内省を促すための重要な装置として機能しているのです。
つまり、この作品が持つ「まだ引き返せる。あなたがニュースになる前に」という言葉は、私たち一人ひとりに向けられた深刻な警告なのです 。私たちが普段、何気なく行っている報道の消費という行為そのものを見つめ直し、他者への理解と共感を持つことの大切さを教えてくれる貴重な作品といえるでしょう。

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