あなたの会社は、ウクライナ情勢や米中対立といった地政学的な動きに対して、どのような対策を取っていますか?
多くの企業が「リスク回避」や「守りの姿勢」に終始する中で、真の競争優位を築く企業は全く異なるアプローチを取っています。それは、地政学的な変化を単なる「脅威」として捉えるのではなく、新しいビジネス機会を創造する「ルール形成」のチャンスとして活用することです。
この記事では、羽生田慶介氏の最新著書『ビジネスと地政学・経済安全保障』から、40代のIT中間管理職であるあなたが知っておくべき、受動的な対応を超えた能動的な戦略思考について詳しく解説していきます。読み終える頃には、地政学リスクを自社の成長エンジンに変える具体的な方法が見えてくるはずです。
なぜ今、「受動的対応」では限界なのか?
地政学リスクへの従来の対応は、「起きてから対処する」受動的なものでした。サプライチェーンが途絶えたら代替手段を探し、新しい規制が導入されたらコンプライアンス体制を整備する、といった具合です。
しかし、現代のビジネス環境では、この対応スピードでは競争に勝ち残ることはできません。なぜなら、地政学的な変化は単発的な出来事ではなく、構造的な変化として定着しているからです。
米中対立を例に取ってみましょう。多くの日本企業が「どちらの市場も失いたくない」という受動的な姿勢を取る中、先進的な企業は独自の価値基準を設定し、それに基づいてサプライヤーを選定するという能動的なアプローチを採用しています。
この違いこそが、同じ地政学的環境下にありながら、企業間で業績に大きな差が生まれる理由なのです。
「ルール形成者」になるための3つのステップ
受動的な対応から能動的なルール形成に転換するには、以下の3つのステップが重要です。
ステップ1:自社の価値観を明確に定義する
まず必要なのは、自社が何を大切にするのかを明確に定義することです。これは単なるコンプライアンスではなく、「この会社はどのような世界を目指すのか」という根本的な問いに答えることを意味します。
例えば、IT企業であれば「データプライバシーをどこまで重視するか」「AI技術の開発における倫理基準をどう設定するか」といった価値判断が求められます。これらの基準を明確にすることで、地政学的な変化に振り回されることなく、一貫した意思決定が可能になります。
ステップ2:サプライチェーンを価値創造の手段として再設計する
次に重要なのは、サプライチェーン自体を社会課題解決のツールとして活用するという視点です。従来の「コスト最優先」の調達から、「価値創造」を重視した調達への転換を図ります。
具体的には、調達ガイドラインに労働環境の改善や人権配慮の項目を組み込み、サプライヤーと協力して社会課題の解決に取り組む仕組みを構築します。これにより、単なるリスク回避を超えて、新しい市場価値を創造することが可能になるのです。
ステップ3:業界標準として自社基準を普及させる
最終的な目標は、自社が設定した価値基準を業界標準として普及させることです。これこそが真の意味での「ルール形成」であり、競合他社に対する決定的な優位性を築くことにつながります。
IT業界でいえば、セキュリティ基準やデータ管理の仕組みを自社で開発し、それを業界全体に提案していくといったアプローチが考えられます。このような先行者利益を確保することで、地政学的な変化を追い風に変えることができるのです。
40代IT管理職が今すぐ実践できる具体策
理論だけでは意味がありません。あなたが明日から実践できる具体的なアクションを3つ紹介します。
チーム内での価値観共有ミーティングの実施
まずは、月1回30分程度の価値観共有ミーティングを開催しましょう。ここでは「我々のチームは何を最も大切にするか」について、メンバー全員で議論します。
例えば「セキュリティと利便性が衝突した時、どちらを優先するか」「短期的な効率と長期的な持続可能性のバランスをどう取るか」といった具体的なケースを通じて、チーム独自の判断基準を明確にしていきます。
ベンダー選定基準の見直し
次に、IT部門として取引先を選ぶ際の評価基準を見直しましょう。従来のコストや機能面に加えて、「データの取り扱い方針」「サイバーセキュリティへの取り組み」「社会的責任への姿勢」などを評価項目に加えます。
これにより、単なる調達部門ではなく、会社全体の価値創造に貢献する戦略的パートナーとしての位置づけを確立することができます。
社内勉強会での情報発信
最後に、地政学とITの関係についての社内勉強会を定期的に開催し、自分が情報発信の中心となりましょう。これにより、社内での発言力を高めると同時に、会社全体の意思決定プロセスに影響を与えることが可能になります。
特に40代の管理職であるあなたには、若手メンバーと経営陣の橋渡し役として、新しい視点を組織に浸透させる重要な役割があります。
成功事例:ルール形成で勝利した企業の戦略
実際に、このアプローチで成功を収めている企業の事例を見てみましょう。
ある大手IT企業は、米中対立が激化する中で、独自のデータガバナンス基準を策定しました。この基準は単なるコンプライアンスを超えて、顧客データの保護と活用のバランスを最適化する包括的なフレームワークとして設計されています。
結果として、この企業は規制当局からの信頼を獲得すると同時に、同じ基準を採用する企業との間で強固なエコシステムを構築することに成功しました。地政学的な不確実性が高まる中でも、安定した成長を続けているのです。
この事例が示すのは、受動的な規制対応ではなく、能動的な価値創造こそが、地政学リスクの時代における勝利の鍵だということです。
経営陣を動かすプレゼンテーション術
せっかく良いアイデアがあっても、経営陣に理解してもらえなければ実現できません。ここでは、地政学戦略を経営陣に提案する際のポイントを3つ紹介します。
リスクではなく機会として提示する
経営陣に提案する際は、「地政学リスクへの対応が必要です」ではなく、「地政学的変化を活用した新しいビジネス機会があります」という切り口で話を始めましょう。
具体的には、「競合他社が守りに入る中で、我々が先手を打てば市場シェアを大幅に拡大できます」といったポジティブなメッセージでプレゼンテーションを組み立てることが重要です。
数値化できる効果を明示する
提案内容の効果を可能な限り数値で示すことも大切です。「リスク管理コストが年間○○万円削減される」「新規市場開拓により売上が○%向上する見込み」といった具体的な数字があると、経営陣の関心を引きやすくなります。
段階的な実行プランを提示する
最後に、段階的な実行プランを示すことで、経営陣の不安を軽減しましょう。「まずは小規模なパイロット実施から始めて、効果を確認しながら拡大していく」というアプローチなら、リスクを抑えながら新しい取り組みを始めることができます。
地政学時代の新しいリーダーシップとは
地政学的な変化の時代において、IT管理職に求められるリーダーシップも変化しています。
従来の「上からの指示を効率的に実行する」管理職から、「不確実な環境下で新しい価値を創造する」戦略的リーダーへの転換が必要です。
そのためには、常に世界の動きにアンテナを張り、自社のビジネスモデルを時代に合わせてアップデートし続ける能力が求められます。また、チームメンバーに対しても、単なる業務指示ではなく、なぜその方向性が重要なのかという背景を丁寧に説明することが重要になります。
40代という年代は、豊富な実務経験と将来への展望を兼ね備えた、まさに戦略的思考を発揮するのに最適なタイミングです。この機会を活かして、あなた自身が社内での存在感を高めていくことを強くお勧めします。
今日から始める地政学戦略の第一歩
最後に、今日からあなたが実践できる具体的なアクションプランを提示します。
今週中に実行すべきこと:自分の担当領域における価値判断の基準を3つ文書化する
今月中に実行すべきこと:チーム内で地政学とITの関係について議論する時間を設ける
今四半期中に実行すべきこと:経営陣に対して、地政学的視点を組み込んだIT戦略を提案する
地政学リスクを「避けるべき脅威」として捉えるのではなく、「新しい価値を創造する機会」として活用するという発想の転換こそが、これからの時代に求められる戦略思考です。
あなたが先頭に立って、会社全体をリードしていくことで、地政学的な変化の波を乗りこなし、競合他社に大きく差をつけることができるはずです。まずは小さな一歩から、新しい挑戦を始めてみませんか。

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