会議の資料作成システムで何度も同じ画面を行き来したり、経費精算システムでエラーメッセージの意味が分からず作業が止まったり。そんな経験はありませんか?
実は、こうした小さなストレスの積み重ねが、チーム全体の生産性を大きく下げているのです。部下から「このシステム、使いにくいです」と言われても、何をどう改善すればいいのか分からない。そんな悩みを抱えるIT中間管理職の方に、具体的な解決策を示してくれるのが本書です。
佐々木祐真・直原杏花・岩本あかり・大林志帆著「現場の『あるある』から学んだ今すぐ使える『UIデザイン』41の法則」は、デザインの専門知識がなくても、明日から使える実践的な改善手法を教えてくれます。

業務システムを題材にした実践的な2部構成
本書の最大の特徴は、具体的な業務アプリケーションを題材とした構成にあります。抽象的な理論ではなく、実際の画面を見ながら学べるため、自社のシステムに置き換えて考えやすいのです。
Part1では飲食店の注文管理システムを例に、アカウント登録やデータ一覧といった基本的な画面の改善方法を学びます。比較的シンプルなシステムから始まるため、UIデザインの初学者でも無理なく基本原則を習得できます。
Part2では従業員の評価管理システムという、より複雑な業務システムを題材とします。情報量が多く、機能も複雑な画面において、どのように情報を整理し、ユーザーに分かりやすく提示するかの応用技術を学べるのです。
このシンプルから複雑へとステップアップする構成は、学習効果を高めるための意図的な教育設計といえます。
Before→Afterで一目で分かる改善効果
本書を開くと、見開きページで改善前後のUIが対比されています。この視覚的なアプローチにより、どのUI要素が、どのような意図で、いかに改善されたのかが一目で直感的に理解できます。
デザインの専門用語を知らなくても、画面を見比べるだけで改善のポイントが分かる。これは、エンジニアやプロダクトマネージャーといった非デザイナーにとって、極めて大きなメリットです。
例えば、エラーメッセージの表示位置を変えるだけで、どれほどユーザーの操作がスムーズになるか。ボタンの配置を見直すだけで、どれだけミスが減るか。こうした具体的な改善効果を視覚的に示すことで、チーム内での合意形成も格段にしやすくなります。
言語的な説明だけでは伝わりにくいデザイン改善の効果を、明確に示してくれるのです。
画面機能ごとに分類された41の実践法則
本書で紹介される41の法則は、具体的なユーザーの操作画面ごとに分類されています。アカウント登録、データ一覧、エラー表示など、各法則がどのような場面で有効なのかが明確にされているため、自社システムの該当画面に即座に応用できます。
情報アーキテクチャに関する法則では、ユーザーがシステム内のどこにいるかを常に明示することの重要性が説かれています。パンくずリストやアクティブなナビゲーション表示で現在地をハイライトする。こうした基本的な工夫が、ユーザーの迷いを大幅に減らすのです。
入力フォームに関する法則では、入力フィールドの幅を想定される入力文字数に合わせることが推奨されています。郵便番号欄が不必要に長いと、どこまで入力すればよいか分かりにくい。適切な幅のフィールドを用意するだけで、ユーザーの認知負荷が軽減されます。
ボタンテキストは動詞で表現する。OK・キャンセルというボタンでは、押下後の挙動が不明確な場合があります。下書き保存・公開するなど、具体的なアクションを示す動詞を用いることで、ユーザーの不安が解消されるのです。
エラーハンドリングでミスを防ぐ
システムメッセージは内容に応じた見た目にする。成功、警告、エラーといったメッセージの種類を色やアイコンで視覚的に区別することで、重要度や緊急性が直感的に伝わります。全てのメッセージが同じ見た目では、ユーザーは重要な情報を見逃してしまうのです。
エラーメッセージはエラーの近くに表示する。どの入力項目でエラーが発生したか分かるよう、エラーメッセージを該当箇所の直下に表示します。エラーメッセージが画面上部にまとめて表示されると、ユーザーはどこを修正すべきか探す必要があり、それだけで時間のロスとストレスになります。
メッセージにエラーを解消する方法を記載する。不正な入力ですというメッセージだけでは、ユーザーは何をすべきか分かりません。パスワードは8文字以上で入力してくださいのように、具体的な解決策を提示することが重要です。
こうしたエラーハンドリングの改善は、業務システムにおけるミスやエラーの増加を防ぎ、生産性向上に直結します。
道具としてのUIという哲学
本書のPart1とPart2の間には、道具としてのユーザーインターフェースと題されたコラムが挿入されています。このコラムは、41の個別の法則を束ねる、哲学的・概念的な支柱として機能しています。
UIを単なる画面上の装飾や情報の提示面としてではなく、ユーザーが目的を達成するための道具として捉えるべきだという主張です。優れたハンマーが、美しさよりも釘を効率的かつ安全に打ち込める機能性で評価されるように、優れた業務システムのUIもまた、ユーザーがタスクを迅速かつ正確に完了できる道具としての性能によって評価されるべきなのです。
このUI=道具というメタファーは、特に業務支援システムのUIデザインにおいて、なぜユーザビリティが他の要素に優先されるべきなのか、という根源的な問いに対する明確な回答を与えてくれます。
デザインに関する意思決定を行う際に、この変更はユーザーの道具をより優れたものにするか、それとも単なる装飾か、という本質的な評価基準を持つことができるようになります。
非デザイナーにこそ読んでほしい理由
本書が想定する読者層は、デザイナーだけではありません。プロダクトマネージャー、エンジニア、営業企画職、さらにはデザインを発注する立場の一般ビジネスパーソンや、その投資判断を行う決裁権者までをも対象としています。
決裁権者をターゲットに含めている点は、本書の戦略的な側面を浮き彫りにします。優れたUIが単なる美的要素ではなく、企業の生産性向上、トレーニングコストの削減、ユーザーエラーの減少といった具体的なビジネス成果に直結する投資であるという主張が込められています。
なぜUI改善に予算を割くべきなのか、という経営層からの問いに対し、本書の明確なBefore/Afterのビジュアル解説は、専門用語を介さずに改善の価値を直感的に伝える強力な説得材料となります。
プロダクト開発に関わる多様な職種の専門家たちが、UI/UXについて建設的な議論を行うための共通言語を提供する。それが本書の目指すところです。
現場の実践知に裏打ちされた信頼性
本書の著者は、株式会社アイスリーデザインに所属する4名の専門家であり、監修も同社が務めています。同社は企業のデジタルプロダクトにおけるUI/UXデザイン支援を専門とするデザイン&テック企業であり、これまでに100件を超えるプロダクトの設計・改善に携わってきた実績を有します。
本書で提示される41の法則は、この100件以上の多様なプロジェクトを通じて著者らが得た実践的な知見の結晶です。著者らはこれらの経験から、ユーザーにとって使いやすいUIにするための視点は、業界やシステムの種類に関わらず一定の共通点があるという結論に至りました。
その普遍的なノウハウを体系的に整理したものが本書です。特定の個人の見解や限られた事例に基づくものではなく、数多くの実案件で検証されてきた専門企業の実践知に裏打ちされています。
この信頼性の高さが、本書を単なるTIPSの集合体ではなく、実務で即座に活用できる価値ある指南書にしているのです。
業務システムに特化した実用性
本書が題材として業務支援システムを選定している点は、その価値を定義づける上で極めて重要です。エンゲージメントや審美性を優先しがちな一般消費者向けアプリケーションとは異なり、業務システムは特定の目的を持ったユーザーが繰り返し使用することを前提とします。
そのため、デザインの優先順位は業務の効率性、操作の正確性、学習の容易性といった点に置かれます。使いやすいシステムは作業効率の向上を促進し、業務の迅速な遂行やエラーの減少につながります。
デザインに関する書籍が消費者向けプロダクトに偏りがちな中で、本書は業務システムのUIデザインという、実務上重要でありながら見過ごされがちな領域に焦点を当てた貴重な一冊といえます。
従業員の生活の質を改善し、企業の生産性向上に直接的な影響を与える。それが業務システムのUI改善の真の価値なのです。
法則を絶対視せず、コンテキストを考える
本書で提示される法則は、あくまで一般的なシナリオにおける有効なパターンです。ある書評では、これらを絶対的な正解として捉えることへの懸念が示されています。
UIデザインの最適解は、ユーザーの特性、利用デバイス、操作の文脈といった様々な要因に依存します。ある状況でのベストプラクティスが、別の状況ではかえってユーザビリティを損なう可能性があるのです。
例えば、重要な操作ボタンを常に画面下部に固定表示するプラクティスは、多くのユーザーにとって操作対象を発見しやすくする点で有効です。しかし、PCのブラウザで画面を拡大表示して利用するロービジョンのユーザーにとっては、この固定されたボタンが貴重なコンテンツ表示領域を恒常的に圧迫する可能性があります。
ユーザビリティとアクセシビリティという、時に相反する要求の間でトレードオフを考慮する必要性があります。本書で紹介されるパターンを学ぶことは第一歩として重要ですが、その背景にあるデザイン原則を理解し、特定のコンテキストにおいてどちらを優先すべきか判断する能力こそが、真の専門性につながります。
本書は優れたパターンライブラリですが、その適用には常に批判的な視点が求められます。
チーム全体のUI品質を底上げする
プロダクトマネージャーがエンジニアに対し、この一覧画面、もっと見やすくしてほしいという曖昧で主観的な指示を出すことがあります。これではエンジニアは何をどう改善すればよいか分からず、手戻りが発生しやすくなります。
しかし、チームが本書を共通の知識基盤としていれば、プロダクトマネージャーはこのリスト項目がクリック可能であることがユーザーに伝わりにくいので、法則18のコンポーネントらしさが伝わる見た目にするを参考に、マウスオーバー時に背景色を変えてもらえませんか、といった具体的かつ客観的なフィードバックが可能になります。
これにより、コミュニケーションの精度が向上し、開発の生産性が高まることが期待できます。デザインシステムやコンポーネントライブラリの構築においても、本書の法則は重要な指針となるでしょう。
個人の主観的なセンスや好みに基づいた不毛な議論から脱却し、より客観的で建設的な品質改善活動をチーム全体で推進できる。それが本書の真の価値です。
使いやすさが生産性を変える
画面UIの使いやすさが業務効率を変える理由は明確です。入力ミスや操作ミスの減少、従業員満足度の向上、新人育成の負担軽減といった具体的な効果が期待できます。
使いにくいシステムは業務効率の低下、従業員満足度の低下、ミスやエラーの増加を招きます。逆に、使いやすいシステムは従業員のストレスを軽減し、モチベーションの維持にも貢献するのです。
本書は、そうした使いやすさを実現するための具体的な改善手法を、デザインの専門知識がない人でも理解できる形で提供してくれます。明日からの業務システム改善に、すぐに役立てることができるでしょう。
現場のあるあるな問題から学んだ41の実践法則が、あなたのチームの生産性を大きく変えるきっかけになるかもしれません。


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