管理職として部下との関係に悩んでいませんか。プレゼンで思うように伝わらず、会議でも存在感を発揮できずにいる。家庭でも妻や子どもとのコミュニケーションがうまくいかない。そんな悩みを抱えるあなたに、ぜひ読んでいただきたい一冊があります。田中修治氏の『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』です。この本には、14億円の負債を抱えて倒産寸前だったメガネチェーンを買収し、10年足らずで世界的企業へと再生させた実話が描かれています。単なるサクセスストーリーではなく、信頼されるリーダーになるための本質が詰まった物語です。
絶望的な状況から始まった再生物語
2008年、デザイン会社を経営していた田中修治氏は、誰もが倒産すると断言するメガネチェーン「オンデーズ」の買収を決意しました。年間売上高20億円に対し、短期借入金が14億円、毎月2000万円近い営業赤字を垂れ流す企業です。金融の専門家は「2トントラックの荷台に1.4トンの砂利がのっているようなもの」とその異常な財務状況を警告しました。100人が100人「絶対に倒産する」と言い切る状況で、なぜ田中氏は再生に挑んだのでしょうか。
田中氏は当時のメガネ業界に圧倒的なガリバー企業がないと踏み、「メガネ界のZARA」を目指して立ち上がります。しかし、社長就任からわずか3カ月で銀行から「死刑宣告」を突きつけられるなど、度重なる倒産の危機が襲いました。返済期限に追われ、月々の返済額は8000万円から1億円にものぼる。読者からは「読んでて胃が痛くなる」との声もあるほど、壮絶な資金繰りの連続でした。
従業員を守り抜く覚悟がもたらした信頼
この絶望的な状況で、田中氏が最初に行った行動は意外なものでした。全国60店舗すべてに直接出向き、一日中店頭に立ち、仕事終わりには社員を居酒屋に誘って腹を割って話し合ったのです。彼自身は酒に強いわけではありませんでしたが、現場の従業員を何よりも重視する姿勢を示しました。
さらに田中氏は、絶対にリストラや賃金カットは行わないという鉄則を貫きました。この方針は、従業員に強力な心理的安全性と会社への忠誠心をもたらします。財務責任者から猛反対されても、全ての金融的圧力を一身に受けて従業員を守ろうとする姿を見て、社員たちは会社のために戦う意志を固めていったのです。
自らが率先して働き、社員を守り抜くその姿が全員の結束を高め、困難を乗り切る大きな原動力になりました。これは単なる経営テクニックではなく、真の信頼関係を築くための本質的なアプローチです。部下からの信頼を得られていないと感じているあなたにとって、この姿勢は大きなヒントになるはずです。
倒れる時は前向きに
オンデーズのモットーである「倒れる時は前向きに」は、田中氏のリーダーシップを象徴する言葉です。この哲学は単なる楽観主義ではなく、失敗を恐れず前進し続けることへの強い意志を示しています。
最も印象的なのは、会社が実質的な債務超過状態にあり、財務チーム全員が猛反対する中で、田中氏が新たなコンセプトストアの出店を強行した決断です。「売上が一円でも落ちたら倒産」というタイミングで高田馬場に新店舗をオープンしたのです。この一見非合理的な行動は、会社の物語を「衰退」から「成長」へと転換させ、自らが描くブランドの新しいビジョンが正しいことを証明するための戦略的な賭けでした。
田中氏の哲学は、選択そのものよりも、その選択を正解にするための行動を重視する点にあります。倒産寸前の会社を買収するという一見「悪い」選択も、その後の絶え間ない献身的な行動によって、「良い」結果に変えることができる。この信念が、オンデーズ再生の原動力となったのです。
東日本大震災で見つけた存在意義
物語の大きな転換点となったのが、東日本大震災での経験です。震災でオンデーズの10店舗が被害に遭い、全体の4割の店舗が1カ月以上まともに営業できない状況に陥りました。倒産という言葉が頭をよぎる苦しい状況でしたが、田中氏は平静を装い、早期の業績回復を図るため即座に資金繰りの指示を出します。
同時に、被災地で無料のメガネを提供する活動を開始しました。そこで出会った一人の老婆が、視力を取り戻した喜びから大粒の涙を流し、「見えるということは、なんて素晴らしいのだろう」と語ったのです。この出来事が、オンデーズの真の存在意義を明確にしました。自分たちが売っているのは安価でおしゃれなメガネではなく、「見える」という人間の根源的な価値そのものである。この気づきが、会社のミッションを単なる商業活動から深い社会的有用性を持つものへと昇華させ、従業員にとって何より強力な動機付けとなりました。
権限委譲と人を活かす経営
田中氏のリーダーシップで注目すべきは、強権的な意思決定の一方で、意欲ある従業員に権限を委譲する能力にも長けている点です。沖縄の店舗で、あるスタッフが抜本的なセールス戦略を提案した際、田中氏は即座に彼を商品部の責任者に任命し、そのアイデアの実行を全面的に任せました。社員やフランチャイズオーナーで見込みのある人物をチェックし、いざというときに重要なポストを任せる。立候補する従業員の意見を尊重し、即座に異動を指示する。この姿勢が、情熱とアイデアを持つ人材を信頼し、力を与える経営スタイルを示しています。
率先して行動を起こし、結果で社員をモチベートしていくその姿勢が、信頼と団結力という目に見えない大きな力を生む土台となるのです。プレゼンテーションや会議で存在感を発揮できないと悩むあなたにとって、まず自ら行動で示すことの重要性が理解できるでしょう。
本当の成功確率を最大化する
この物語は、暗黙のうちに旧来の企業文化や金融界の保守主義に対する批評としても機能しています。銀行は新経営陣が着実に成果を上げているにもかかわらず、旧経営陣から引き継いだ「ゾンビ」のような貸借対照表のみを問題視し、前例主義に基づき融資を拒み続けました。これは、伝統的な金融機関が事業再生のポテンシャルを正しく評価できないという、システム的な課題を浮き彫りにしています。
田中氏の成功は、確立されたルールが真のイノベーションと生存のためにはしばしば不十分であることを証明しています。外部からの金融的圧迫は、単なる障害ではなく、オンデーズ独自の企業文化と田中氏のリーダーシップスタイルを鍛え上げた「るつぼ」でした。倒産の危機が目前に迫る状況は、形式的な企業活動を不要とし、徹底的に透明で、行動を最優先する生々しい組織文化を強制的に形成したのです。
リーダーに必要な本質とは
田中修治氏のリーダーシップの興味深い構造は、「破天荒」で「独善的」と評されるようなトップダウンの意思決定を行う一方で、その成功の核心が人間中心のアプローチにあるという点です。この一見矛盾した二つの側面は、彼の独断的な決断がほとんど常に「従業員を守る」というビジョンを実現するために下されていたという事実によって統合されます。財務チームに逆らって新店舗に投資したのは会社の未来を守るためであり、銀行に反抗して資金を確保したのは従業員の給与を守るためでした。彼の強権的な「手段」は、エゴの発露ではなく、極度の緊張状態の中で組織を守るための「盾」として機能したのです。
この本が教えてくれるのは、リーダーの本質は「自分を信じる力」と「大胆な行動力」、そして何より「人を大切にする」という信念だということです。部下とのコミュニケーションに悩み、家庭でもうまくいかないと感じているあなたにこそ、この物語から学べることは多いはずです。

コメント