人生の主導権は誰の手に?凪良ゆう『汝、星のごとく』が問いかける自己決定の重み

あなたは今、本当に自分で選んだ人生を歩んでいますか?

家族の期待、周囲の価値観、社会の「普通」という名の圧力――私たちは知らず知らずのうちに、他人が敷いたレールの上を歩いているかもしれません。

そんな現代人の心に鋭く刺さる問いを投げかけるのが、2023年本屋大賞受賞作『汝、星のごとく』です。この物語は、単なる恋愛小説を超えた人生の選択権をめぐる深い物語として、多くの読者の魂を揺さぶり続けています。

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1. 選べない出発点から始まる二人の物語

物語の主人公である井上暁海と青埜櫂は、決して恵まれた環境に生まれ育ったわけではありません。

暁海は父の不倫により家庭が崩壊し、精神的に不安定な母との関係に苦悩します。一方の櫂は、恋多き自由奔放な母に振り回され続けてきました。二人に共通するのは「親に庇護してもらう経験がほとんど無い」という厳しい現実です。

この「選択不可能な出発点」こそが、物語全体を貫く重要なテーマとなっています。

私たちの多くは、生まれる場所も親も選ぶことはできません。しかし、そこから先の人生をどう歩むかは、まぎれもなく自分自身の選択にかかっています。凪良ゆうは、この当たり前でありながら見過ごしがちな真実を、二人の青年の人生を通じて浮き彫りにしているのです。

2. 夢を追う者と現実に縛られる者の分岐点

高校卒業後、二人の運命は大きく分かれていきます。

櫂は漫画家になるという夢を追い、東京で才能を開花させていきます。一方の暁海は、自殺未遂を起こした母を一人にできず、島に残ることを余儀なくされます

この展開は、多くの地方出身者が経験する現実でもあるでしょう。家族の事情、経済的な制約、地域のしがらみ――様々な要因が、私たちの選択肢を狭めていきます。

しかし重要なのは、そうした制約の中でも、最終的にどう生きるかを決めるのは自分自身だということです。暁海は母親の介護という現実と向き合いながらも、決して受け身の人生を送り続けるわけではありません。彼女は刺繍というオートクチュールの世界に没頭することで、抑圧された現実からの逃避ではなく、奪われた自己を回復するための自己表現の手段を見つけていくのです。

3. 社会の「正しさ」に抗う覚悟の重み

物語のクライマックスで、暁海は世間的には安定した結婚生活を送っていながら、末期の胃癌に侵された櫂の元へ向かう決断を下します。

その時の彼女のモノローグが、この作品の核心を突いています。

「わたしは愛する男のために人生を誤りたい」

この言葉には、社会的な成功や他者からの評価といった「正しさ」よりも、自らの魂の欲求に従って生きることの絶対的な価値が込められています。

多くの人は、周囲から「間違っている」と言われることを恐れます。しかし凪良ゆうが描き出すのは、他人の評価や社会の常識に従って生きることの空虚さと、たとえ苦痛に満ちていても自ら選び取った人生の充実感です。

4. 人生の責任を引き受けるということ

物語の根底には、「誰もあなたの人生の責任を取ってくれないのだから、自分の選択に責任を持つのは自分しかいない」という厳しくも解放的な思想が流れています。

これは決して冷たい自己責任論ではありません。むしろ、他者の期待に応えるために生きることの虚しさから解放される道を示しているのです。

暁海が最終的に下す選択は、社会的には決して褒められたものではないかもしれません。しかし、それは間違いなく彼女自身が心から望んだ選択であり、その責任を彼女自身が引き受ける覚悟を持った選択なのです。

私たちも日々、大小様々な選択を迫られています。進学、就職、結婚、転職――人生の節目において、周囲の期待や社会の常識に従うのか、それとも自分の心の声に従うのか。『汝、星のごとく』は、そうした選択の瞬間において、真に大切なものが何かを教えてくれます。

5. 現代人が見失いがちな「生きる」ということの本質

この作品が多くの読者の心を捉えるのは、現代社会が抱える根深い問題を浮き彫りにしているからでしょう。

SNSの普及により、私たちは常に他者の視線を意識するようになりました。「いいね」の数、フォロワーの反応、世間の評価――そうしたものに振り回されているうちに、自分が本当に望む生き方を見失っている人も多いのではないでしょうか。

暁海と櫂の物語は、そんな現代人に対する強烈なメッセージでもあります。他人の人生を生きるのではなく、自分自身の人生を生きる。それがどれほど困難で、時に孤独な道のりであっても、それこそが人間として生きることの本質なのだと。

まとめ:自分の人生を取り戻すための一冊

『汝、星のごとく』は、読む者に対して容赦なく問いかけます。「あなたの人生は、本当にあなたが選んだものですか?」

この問いに向き合うことは、決して楽なことではありません。しかし、その先に待っているのは、他人の評価に左右されない、真に自分らしい生き方なのです。

もし今、周囲の期待や社会の常識に縛られて息苦しさを感じているなら、この作品はあなたにとって人生を変える一冊となるかもしれません。暁海と櫂の15年間の軌跡を追体験することで、きっと自分自身の生き方について深く考えるきっかけを得られるはずです。

人生の主導権を他人に委ねることなく、自らの足で立つ――その厳しさと尊厳を描ききった、まさに現代に必要な物語です。

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NR書評猫179 凪良 ゆう著[汝、星のごとく」

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