『逃げ上手の若君』17巻:北畠顕家の「戦場の雅」と、かつての仲間との決別が描く衝撃的展開

みなさんは、戦場に美しさや雅さを見出したことがありますか?血なまぐさい合戦の最中に、まるで祭りのような華やかさを演出できる武将がいたとしたら、それはどれほど異質で魅力的な存在でしょうか。

『逃げ上手の若君』17巻は、「花将軍」北畠顕家の圧倒的なカリスマと、かつての仲間・吹雪との決別という二つの衝撃的な展開で、読者の心を大きく揺さぶります。この巻を読めば、松井優征が描く南北朝時代の奥深さと、登場人物たちの複雑な人間関係に、きっとあなたも引き込まれることでしょう。

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土岐頼遠という「規格外の脅威」が物語に与えた緊張感

第17巻の前半では、前巻から続く青野原の戦いにおいて、土岐頼遠の理不尽なまでの「怪力」が、時行たち顕家軍を絶体絶命の危機に追い込みます。

土岐頼遠は、戦術や技量では覆せない、純粋な暴力の恐怖を体現するキャラクターとして描かれています。彼は城壁を素手で破壊し、人間を軽々と投げ飛ばすなど、超人的な力を発揮します。この存在が重要なのは、時行の「逃げ」の技術さえも通用しない状況を作り出すことで、戦争の不条理さを象徴している点です。

このような絶望的な状況だからこそ、次に登場する北畠顕家の華麗な帰還が、より一層の輝きを放つのです。松井優征は、読者の感情を巧みにコントロールし、絶望から希望への劇的な転換を演出することで、物語に深いカタルシスをもたらしています。

北畠顕家の「戦場の雅」-文化的カリスマの極致

この巻最大の見どころは、間違いなく北畠顕家が戦場に舞い戻る場面です。彼は美しい装束で舞いながら戦場に現れ、その姿は敵味方をも魅了します。

顕家の持つ「戦さをお祭りに変える」能力は、武力や知略とは全く異なる、文化的な力による支配を表現しています。これは単なる戦闘力ではなく、人々の心を動かし、戦場の空気そのものを変えてしまう、唯一無二のカリスマ性なのです。

この描写が素晴らしいのは、公家出身でありながら武勇に優れる顕家の二面性を、「雅」という日本文化の美的概念で表現している点です。戦という最も野蛮な行為の中に、最も洗練された美しさを持ち込むことで、彼のキャラクターの特異性と高貴さを際立たせています。

吹雪の裏切り-友情から敵対への悲劇的転換

巻末で明かされる吹雪が高師冬として敵方に寝返っているという展開は、多くの読者にとって衝撃的な出来事でした。かつて時行の郎党として共に戦い、彼に「逃げ」の奥義を授けた仲間が、今度は敵として立ちはだかるのです。

この展開が重要なのは、単なるサプライズとしてではなく、南北朝時代という複雑な政治情勢を反映している点です。当時は家族や親しい友人同士でさえも、政治的立場の違いから敵味方に分かれることが珍しくありませんでした。

吹雪の変化は、足利尊氏の神がかり的なカリスマに触れた結果として描かれており、これまで「逃げることで生き延びる」という価値観を共有していた仲間が、権力の魔力によって変貌してしまう恐ろしさを表現しています。

松井優征の「緩急自在」な物語構成の巧妙さ

『逃げ上手の若君』17巻は、松井優征の物語構成の巧みさが遺憾なく発揮された一冊です。土岐頼遠による絶望的な危機、顕家の華麗な救援、そして吹雪の裏切りという三つの大きな転換点を一冊に詰め込みながら、それぞれの場面に十分な重みを持たせています。

特に注目すべきは、コミカルな要素とシリアスな展開の絶妙なバランスです。顕家の「舞」には確かに美しさがありますが、同時にどこか滑稽さも含んでいます。この微妙なさじ加減が、重いテーマを扱いながらも読者を飽きさせない、松井作品の真骨頂と言えるでしょう。

また、1巻から積み重ねてきた吹雪と時行の絆を、ここで断ち切るタイミングの選択も絶妙です。読者の感情移入が最高潮に達したところで、この裏切りを提示することで、今後の展開への期待と不安を同時に抱かせる効果を生んでいます。

歴史の必然と創作の自由度が生み出す物語の深み

この巻では、史実の制約と創作の自由度のバランスが特に際立っています。青野原の戦いは実際に起こった合戦ですが、顕家の「舞」による戦場支配や、吹雪という架空のキャラクターの裏切りなど、史実の骨格を活かしながら独創的な物語を展開しています。

松井優征は、歴史上確実に起こった出来事(顕家の勝利)を、読者が予想もしない方法(雅な舞による戦場支配)で描くことで、歴史を知っていても楽しめる新鮮さを提供しています。これは歴史フィクションとしての理想的な形の一つと言えるでしょう。

また、本作が一貫して描いている「生き延びることの価値」というテーマも、この巻で新たな側面を見せています。吹雪の裏切りは、生き延びる手段として「強者に従う」という選択肢があることを示しており、時行の「逃げて生きる」哲学との対比を際立たせています。

次巻への期待を高める「別れ」の演出

17巻の終わり方は、読者に強烈な余韻を残します。かつての仲間との対決という、少年漫画の王道パターンでありながら、南北朝時代という歴史的背景が加わることで、単純な善悪二元論では割り切れない複雑さを持っています。

時行はこれまで、明確な悪役を相手に戦ってきましたが、吹雪との戦いでは「正しさ」そのものが問われることになるでしょう。友情と忠義、生存と信念、個人の絆と時代の流れ-これらのテーマが次巻以降どのように描かれるのか、期待せずにはいられません。

松井優征は、読者の感情を揺さぶる「別れ」の演出に長けた作家です。『暗殺教室』でも、生徒たちと殺せんせーの別れは多くの読者の涙を誘いました。今回の吹雪との決別も、きっと忘れられない名シーンとして記憶に残ることでしょう。

『逃げ上手の若君』17巻が示す歴史漫画の新境地

『逃げ上手の若君』17巻は、歴史漫画として新たな可能性を示した傑作です。史実という制約の中で、北畠顕家の文化的カリスマと吹雪の裏切りという二つの大きな見せ場を見事に描き切りました。

この巻を読むことで、あなたは南北朝時代の複雑さと魅力を実感し、同時に松井優征という作家の円熟した技量を堪能できるはずです。特に、歴史に興味がありながらも難しそうで敬遠していた方にとって、本作は最良の入り口となるでしょう。

戦場に舞い踊る花将軍と、友から敵へと変わった青年の物語。この対比こそが、『逃げ上手の若君』という作品が持つ、人間ドラマとしての深い魅力なのです。次巻での時行と吹雪の再会が、どのような形で描かれるのか。その答えを知るためにも、ぜひこの17巻を手に取って、自分の目で確かめてみてください。

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NR書評猫M04 逃げ上手の若君 17

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